(1)森保一監督特別講義コメント①/サッカーW杯特集号特別企画

2026.06.11

 4月17日駿河台キャンパスにて、森保一サッカー日本代表監督の特別講義が開催。この講義では、現在の日本代表についてジャーナリストの小澤一郎さんと評論家の二宮清純さんからの鋭い質問に答え、終始にぎやかな雰囲気で行われました。本記事では森保監督から語られたW杯への思いなど特別講義の模様を掲載します。(インタビュアーは釜崎太法学部教授)

――KIRIN WORLD CHALLENGE 2026のイングランド戦は、すごいゲームだったと思います。個人技もさることながら、チームの連携が素晴らしいと思いました。森保監督の手応えとしてはいかがでしょうか

森保監督 「FIFAランクで言うと、イングランドは4位で我々が18位ですかね。ランキング上ではまだまだ差がありますが、どんな相手とでも同じ目線で戦って、自分たちの力を出し切る。そして勝っても負けても、何ができて何が足りなかったかを振り返っていこうとイングランド戦に挑みました。(日本の)選手たちは、日頃からヨーロッパの舞台で戦っている選手が代表のほとんどを占めます。イングランド代表も主力の数人は出ていなかったと思いますが、世界のトップとされるプレミアリーグで試合に出ている選手が全員出ていて、世界のトップチームには変わりないと思っています。選手たちの日常であるヨーロッパという舞台で、我々も勝つことができる。彼らにも弱点はある。選手たちが自信を持って、チーム一丸となって戦えば勝機はあるということで戦いに挑んでくれました。また、試合の結果だけではなくて、そこでなにをやったかなどのプロセスにこだわっているから勝てたのかなと思っています」

――今回の試合で選手たちが力を発揮できた背景には、どのような準備があったのでしょうか

森保監督 「選手個々としては日頃のトレーニングをしっかりする。休養をしっかり取る。そして栄養を取る。という日常の生活のバランスをしっかり考えた上で行動して、自分の最高のコンディションを日頃から作るということをやってくれています。チームとしては、代表は試合までの練習回数がすごく少ないので、ミーティングでやったことをそれぞれがピッチ上での役割を考えながらインプットする。そしてチーム全体で戦うスポーツなので、ピッチ上でもピッチ外でも選手たちがお互いの感覚をすり合わせた上で、チームとして最大限の力を出そうとしてくれています。試合前、試合中に全力を出し切って今よりもさらに強くなり、チャレンジをしてくれたらそれでいい。結果は私の責任なので、選手たちにはそれまでのプロセスをしっかりやってほしいということを話した中で、練習は本当にパーフェクト。自分ができることや周りとつながってできることを最大限にやってくれて、試合でも自分たちが持ってる力を最大限発揮するということをやってくれました。試合が終わってから選手たちの様子を見ても、喜んでる様子もありましたが、まだまだやれたことがあるという感覚を持っていて、慢心なくさらに上を目指していこうという気持ちが伝わってきました。それがW杯にもつながるかなと思っています」

――ありがとうございます。最初からいろいろと重要なキーワードがたくさん出てきました。小澤さんは去年育成の話を解説中にされていましたが、いかがでしょうか

小澤 「私はスペインに拠点を置いて生活をしていて、ボランティアコーチとしてスペインの子どもたちにサッカーを教えています。日本の子どもたちとスペインの子どもたちを比較すると、日本の子どもたちの方がコーチや指導者、先生の言うことをしっかりと聞いてくれますし、やり抜く力があるなと思っています。日本人の強みについてはいかがお考えですか。森保監督は世界に出られて、監督として外からの意見をお聞きになったと思うのですが、改めて日本人の強みというのは先ほどおっしゃった部分以外で何かありますか」

森保監督 「そうですね、海外の人たちにいろいろな分野で聞くと、やはりメンタルの上下の波が少ないということは言われます。そして継続力を持っていることであったり、勤勉さがあるといったことであったり。あとは自分だけではなく人のことを察してあげるなど、思いやりを持って言動できるというところを海外の監督とも話していました。そして日本人の強みであるメンタリティは自分も感じています。ただいい人というだけではなくて、今の選手たちは俺が俺がというギラギラ感を持ちながら、試合をする時はチームのために、仲間のために、日本のために、ととてもバランスよく考えてくれているなと思っています。身体的な能力としては、日本人選手は俊敏であり、切り替えの瞬間もサボらず、1番きついところを素早くできるところだと思っています。サッカーで世界一になることが本当に難しいと言われているのは、(サッカーは)非常にコンタクトスポーツであり、日本人はフィジカルで弱いから勝てない。だから組織的に戦う、技術を生かして戦う、というようなことを考えがちですが、日本人はその環境に身を置いて必ずそこにアジャストできる、対応していけるということを今回預かった選手たちを見て感じているところです。日本人の対応能力というのはすごい。先日のイングランド戦でいうと、今までは(相手が)フィジカルで戦ってくるとき、技術力を発揮する日本人の戦い方は力でねじ伏せられてしまって勝てないというような時代があったと思います。もちろん全体的に見ればまだまだイングランドの選手たちがフィジカル的に上回っていたところはあると思います。しかし今の日本人の選手は逆に相手のフィジカルを上回り吹っ飛ばしながら戦えるというところについては、もうとても近くのところまで来ていて、追いつけ追い越せもできる状態になってきていると思っています。質問とは少し違いますが、フィジカル的なところも含めて、世界で通用するというところを今身に付けていっているのかなと思います」

――私、実はドイツでサッカーをやっていたことがあるのですが、もう完全に飛ばし合いのサッカーみたいになってしまうんですよね。向こうでやっているとすぐ飛ばされていましたが、日本人が変わってきたという意味では、二宮さんいかがでしょうか

二宮 「そうですね、以前森保さんがおっしゃっていましたが日本人だからとかではなくて、もうあまり固定観念に縛られない方がいいということは全くその通りだと思います。森保さんに一つお聞きしたいのですが、1994年のアメリカW杯の取材に行った時に1番記憶に残ってるのが暑さです。とにかく暑かった。そこで3位だったチームはスウェーデンなのですね。スウェーデンが1994年のアメリカW杯で1番点を取っています。私たちはまだそれほど知識がなかったので北欧のチームが暑さに弱いと言っていましたが、始まってみたらとんでもなかった。1番動いているのがスウェーデンだったという記憶があります。スウェーデンのコーチに聞いたら、キャンプ時の暑熱対策がうまくいったということを言っていて。そこでお聞きしたいのがキャンプ地対策です。今回は最初にプレーキャンプをメキシコで行い、アメリカのナッシュビルでベースキャンプをするということですが、監督としてキャンプ対策をどうお考えですか」

森保監督 「北中米W杯のグループリーグだけで言うと、第1戦はダラスで非常に暑いところですが、実はドームのエアコンが効いた中で試合ができます。2戦目がメキシコのモンテレイで、ここはもう本当にとても暑い中で戦う。そして3戦目はもう1度ダラスに戻ってドームで試合ができるということで、暑さ対策としては、ダラスは対策をする必要はないと。そしてモンテレイは夜10時でも気温が高ければ35度ぐらいあるかもしれない中で試合をしないといけないので、我々としてはまずきつい方でトレーニングキャンプをします。大会まで2週間あるうちの1週間をモンテレイで暑さ対策をするというところから、勝ち進んで暑い中で戦っても大丈夫な暑熱対策を最初にして、そこから大会に向けていいコンディションを作れるように。過去に比べて多少は暑さも緩んでいるので、その中でいいコンディション作りをして、ホテルでは快適に過ごせる、練習場も充実しているところに移動して、大会本番に備えるということを考えています。『この暑さでトレーニングしたから我々はできる』というようなメンタル作りも含めてやっていくということで考えています」

――今、故障者もだいぶ出ているように思いますが、その対策についてはいかがでしょうか

森保監督 「基本的にはアジア予選で活躍してくれた選手が中心となり今年の北中米W杯に向かっていくので、中心選手がたくさんケガをしている状態ではあります。ただ毎回代表メンバーの発表をした後に多少ケガ人が出たりもしますし、選手のコンディションを見て代表を決めるという中でも、ほとんどのところでケガ人は何人か出ています。毎回思っているのはそのときのベストで戦うということ。誰かがいなくても大丈夫なチームを作るということをこれまでも常に考えてきました。今回のW杯でも、出た選手たちがベストで最高で最強なチームだと思って編成をしていきます。誰かがいなかったら代わりに俺がいる、俺がそれ以上にやれる、とみんなが思ってチーム活動に参加して、パフォーマンスも発揮してくれます。ここにいらっしゃる学生の皆さんも、誰かが抜けたから滞ってしまうということではなくて、俺が、私がやれると思ってもらえるように力をつけていくということ。人とあまり比べないというのはきつくなる場合もあると思いますが、常に自分のやれるところを探して、一人一人がそれぞれの性格や力について考えてもらいたいなと思います」

小澤 「マネジメント力のためにキャンプ地で心がけていることはありますでしょうか。集中した環境でということでキャンプ地を選ばれたと思います。前回のカタールW杯を経験されて、森保監督自身が最高の決断をするために心がけることについて。例えば私も含めて大会中はメディアが好き放題言います。なるべくメディアを排除してあまり情報を取らないようにするとか、リラックスタイムを作るとか、いろいろなやり方があると思いますが、何かございますか」

森安監督 「いや、見ますね。やはりサッカーを見ていたらスマホには自然といろいろなものが入ってきますし、目にします。やることはたくさんあるのであえて記事を探して、ということはしませんが自然に見ます。普段も賛否両論という意味ではあんまり褒められることはなく、ほとんど批判ですが、そういうのも含めて全部見ますね。そういう考えもあるんだな、という感じです。これは本当に嘘偽りなく普段から思っているのですが、勝てば称賛され負ければ批判されるような世界で仕事をさせていただいていますのでそれは当然かなと。いろいろな方々が応援してくれているので、勝てば喜べるし負ければ悔しいという思いを一緒に持ってもらえるかなと思っています。自分自身の仕事に対する影響としても褒めてくれる人だけ、喜んでくれる人だけとは思っていないですし、それが1番嬉しいことかなとは思います。反対意見であったり、批判も含めていろいろなサッカーの見方があります。自分が知らないアイディアや見方がそこにあったり、次の自分の成長や成功に向けての大きなヒントが隠されていることもたくさんあるので、そこは全てポジティブに受け取っています。あとは興味関心が多ければ多いほどより多くの人にサッカーを見てもらえるというのが自分の中で1番幸せかなと思っています」

二宮 「コーチからの意見についてはいかがですか。私が書かせてもらった本の中で、森保さんへのインタビューで2018年のロシアW杯の時に何か悔いがありますかとお聞きしたら、(ベルギー戦の時に)ディフェンダーの植田(直通・鹿島アントラーズ)を入れてくれと西野さんに言い出せなかったことだと。ベルギーから背の高い選手が出てきて、それに対応するには屈強な植田を入れればいいだろう。実はW杯直前の親善試合のパラグアイ戦で、ヘディングで相手に勝ち、海外の選手たちにも十分通用していた。これが1番後悔だとおっしゃったんですね。そして今回は中村俊輔が新しくコーチに入っていましたよね。他にも優秀なコーチがたくさんいらっしゃいますが、そういうときには試合中でも彼らからどんどん意見を言ってくれというようなことはもうすでにお話されてですか」

森保監督 「日頃からコーチ陣には意見をどんどん言ってほしいと言っています。実際に試合の場面ではスタッフに加わってくれた中村俊輔であったり、長谷部であったり。インカムでつながっているので、彼らには上から見てそこで気づいたことをベンチへ降ろす役割を担ってもらおうかなと思っています。そこで見たことをどんどん情報として伝えてもらいたいということは考えていますし、コーチにも言っています。普段のベンチワークも、もちろん最後に決断するのは私ですが、名波コーチには攻撃の方を、齊藤コーチには守備の方を担ってもらっている中で、いつも『今攻撃のところどう?』『守備のところどう?』とやり取りをして彼らの意見も聞きながら、最終的に選手やポジションの変更を決めていくというやり方をしています。自分1人で決めるという部分では決断力が足りない監督かもしれないですが、それよりもいい決断をしたいというのがあります。正しいのかを決断する前にいろいろな選択肢を挙げてもらい、その中でチームや選手にとって1番いいものを決めることがより安心して自信を持って決められると考えています。そういう意味では、試合の時はもちろん自信を持ってやりますが、自分自身が自分を1番疑いながら話させていただいたり、決断させてもらっているということがあります」

二宮 「二つお聞きしたいのですが、一つは2022年のカタールW杯のクロアチア戦について。公式記録は引き分けですが、PKで勝ち進めなかった。あの時は選手たちに決めさせたとおっしゃっていましたよね。そして今回は自分で決めると。つまりPKに失敗すると選手に責任が向いてしまうので監督の責任だということにするということでしょうか。もう一つは勝とうと思ったらPK戦を乗り越えなければなりませんよね。必ず一つや二つはPK戦があると思います。選手の交代枠も限られていますから、どの選手を残すかの判断が難しくなるのではないかと思いますが。この二つについてお聞きしたいです」

森保監督 「PK戦もふまえて勝っていかなければいけないと思いますが、まずは目の前の一戦一戦を戦っていった上での決勝トーナメントがあるということは忘れてはいけないと思っています。もちろん決勝まで行くつもりなので、その中でPKは二つ、三つあるかなと考えています。選手の起用については、PK要員として最後の時間を戦うことはないかなと思っています。やはりプレーしてる間で勝負を決められるようにしたいからです。疲れている選手をPK蹴れるから、(ボールを)止められるから残そうと考えると、その疲れている選手がいることによってオープンプレーの間で勝てなくなってしまう可能性もあるので。まずはオープンプレーで、そして終わったらPKはPKで考えていきたいと思っています。中村俊輔に(コーチに)きてもらったのも、実はPKの担当がいなくて、そこで俊輔さんに責任を持ってもらい、勝つ可能性を高められるようにと。PKも含めて大会を制していくという考え方でスタッフの編成をさせていただきました」