(9)石田篤史

1999.01.01
 明治の卓球部は競技部と一般部に分かれている。競技部には高校時代インターハイなどで成績を残しスポーツ推薦などで入学した選手が、そして一般部にはそれ以外の推薦制度や一般入試などで入学してきた選手が入部する――というのが普通だが、競技部に一人、異色の選手がいる。石田篤史(政経4)だ。

競技部との出会い

 インターハイ上位選手が名を連ねる競技部の中で、石田はといえば、特に成績を残してきたわけではない。高校時代、卓球部に入ってはいたものの、インターハイとは縁もゆかりもない、そんなレベルの選手だった。それでも「大学でも卓球を続けたい」。その気持ちだけははっきり自分の中にあった。そして高校の恩師に相談し連れてこられたのが、競技部の練習する西調布の合宿所だった。

 「何て球を打つんだろう…」。そこには、今までの石田の卓球レベルをはるかに超えた世界が広がっていた。台と離れたところで、ものすごい速さのボールを打ち合う選手たち。そしてそこには石田の知っている選手もいた。水野(営4)、小野主将(商4)、石崎(政経4)。「3人のことは高校のときから知っていた。卓球レポート(卓球専門雑誌)を読んでたけど、よく出てきていたから。自分はファンみたいなものだった」。石田が競技部でやっていくのは決して容易なことではない。だが「すごい…一緒にやりたい。自分も強い球が打ちたい」。石田は競技部入部を決意した。

入部後の苦難

 そう強い決心のもと入部したはずだったが、それでも練習は苦しかった。マネジャーをやるということを条件に入ったが、「レベルが全然違くて、ついていけない。泣きそうになった」。そう石田が語るように、並の選手が競技部に入るということは、大人の中に子供が一人混じっているようなもの。練習相手にさえならない。マネジャーとしても何をすればいいのか分からず、「いる意味あるのかな」。そんな気持ちもよぎった。

 そんな中、石田が考えたのは「自分にしかできないサポートの仕方もある」ということだった。「卓球で入学してきた選手たちが、普通に受験して入ってきた人たちと同じ授業ができるわけない。分からないから授業も途中で出て行っちゃう。でも学生なんだし、ちゃんと4年間で卒業してほしい」。

 自分にしかできないこと――選手たちに勉強を教えることで、石田は石田なりのサポートをしていった。

 またあやふやだったマネジャーの仕事も、次第に分かってきた。リーグ戦のバックアップ。ボールに部旗の管理、おしぼりに飲み物の準備、OBへの対応。やることは数え切れないほどあった。

 そんな石田に選手たちがくれたのは、「石田がいてくれて落ち着いた」「ありがとう」という感謝の言葉だった。そんな言葉が、「自分ができることなんて限られているけど、そう言ってもらえるのがうれしい」と、石田の活動のモチベーションにつながっていった。しかしその一方、「選手」としての石田の存在は段々と薄らいでいった。

選手としての自分

 そんな石田も4年生。今年が大学最後の1年だ。「バックアップもいいけれど、社会人になったらもうこんな風に卓球はできない」。そう思い決意した、全日本学生選手権予選への出場。シングルス出場は決めていたが、ダブルスは相手があって初めて出場できる。ほかの選手と比べ、レベルが格段落ちる石田にとっては関係のないもの…そう思っていた。

 そう思いながらも、ふと出た「ダブルスにも出たいな~」という言葉。本人もまさかできると思って言ったわけではない。だが「おれと組む?」。予想外の言葉が返ってきた。同じ4年生の鰐石(政経4)だった。「おれなんかでいいの」という気持ちと同時に「わにちゃんとなら絶対楽しくできる」。そう思った。「ミスしていいし、好きなようにやっていいよ。おれも好き勝手やるし」(鰐石)。今までの分を取り返すように石田は練習した。

 そして迎えた8月13日の大会当日、コートには石田と鰐石の姿があった。まだ予選1回戦。しかし石田と鰐石の台だけは、まるで代表決定戦のような盛り上がりを見せていた。石田のフォアが決まり、互いにほえガッツポーズをする、セット間には高山監督からアドバイスを受ける――そこにいたのはサポーターとしてではなく、間違いなく「選手」としての石田だった。そしてそんな石田に、ワンプレーごとに送られる声援。今まで石田が支え応援してきた、卓球部の仲間からだった。「こんな応援の中やるなんて、何だかこっぱずかしかったけどうれしかった」。

 結果は1セットを奪ったものの、3対1で初戦敗退。しかし試合が終わった瞬間、明治の選手たちからは、たくさんの惜しみない拍手が送られた。「すごく楽しかった。高山さんも自分みたいなのにも、わざわざ来てアドバイスをしてくれて。本当にうれしかった。卓球部に入って良かった。悔いはないです」。負けはしたものの、石田からは、やりきったという満足気な笑顔があふれていた。

 しかし石田の卓球部生活はこれで終わったわけではない。9日から始まる秋季リーグ戦。4年生にとっては最後のリーグ戦だ。石田は自らのことを「熱狂的な明治ファン」という。「明治が優勝してくれたり、個人が勝ってくれたりするとうれしいよね。熱狂的な明治ファンだから」。そんな石田にとって9日から始まるリーグ戦は、嫌でも気合が入る。明治の卓球部にあこがれ、ついには部員にまでなってしまった男、石田。今度はサポートする側で、「明治大学・卓球部競技部」のメンバーとして、優勝のため最後まで戦う。

◆石田篤史 いしだあつし 政経4 明大明治高出 171cm・65kg