(13)シーズン直前インタビュー 樋口新葉(1)

フィギュアスケート
2021.10.05

 昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で大会が中止や無観客開催になるなど、異例のシーズンとなった。なおも続く厳しい状況の中、新たなシーズン開幕を迎える選手たちの思いに迫る。

(この取材は9月22日に行われたものです)

 

8回は樋口新葉(商3=開智日本橋学園)のインタビューです。

 

――最近の調子はいかがですか。

 「最近はプログラムを変えて、アイスショーや試合で何回か滑っていて、アクセルや他のジャンプでも安定してきたかなという感じです」

 

――昨シーズンを振り返っていかがですか。

 「昨シーズンはたくさんアクセルに挑戦して、気持ち的にも試合で跳べるという感覚になってきました。今シーズンは勝負の1年だと思っているので、そこでしっかり決められるようにという気持ちで昨シーズンやってきて、良い方向に向かってきているなと思っています。あとは、アクセルを跳べても跳べなくても最後までやって、大きな失敗がなく演技するというのが今の目標なので、全体的に成長できた1年だったなと思います」

 

――昨シーズンの経験は今の自信につながっているんですね。

 「そうですね。アクセルもそうですが、スピンやステップもしっかりレベルが取れていると思います。さらに今年はアイスショーにたくさん出させていただいているので、本番で滑る機会が多くて良かったなと思っています」

 

――クリーンな着氷に向けて、現在は具体的にどんな課題がございますか。

 「やはり少し恐怖心があって、思い切り跳べなくなるときがあると失敗しやすくて。そういう恐怖心や気負いみたいなものが減ってくれば、だんだん確率も上がっていくのかなと思います。(技術面よりはメンタル面ですね)そうですね。もう跳べるときは良いジャンプが跳べるので、気持ちで持っていけるかどうかという点をもう少し考えていきたいです」

 

――確率的にも安定してきている状態ですか。

 「そうですね。去年よりも良いジャンプが何本も跳べていると思います。練習でも自信がつくような練習ができているので、そこをもう少しレベルを上げて練習していきたいです」

 

――SP(ショートプログラム)『ユア・ソング』について、改めて選曲した理由と込める思いを教えてください。

 「7月に新しくして、それまでは全く違う曲を滑っていたのですが、しっくりこなくてずっと悩んでいて。とても大事なシーズンになってくるので、自分が滑っていて滑りやすいものを選びたくて、それを相談して変えることになって。今は歌詞もあるのでとても分かりやすいですし、伝えやすいので、自分の中でしっかり理解してどういう風に滑りたいかを考えながらできていて、そこはとても良かったです。あとは、歌詞の内容とは全く違って、自分の解釈ではあるのですが『スケートができて楽しい』という気持ちがこのSPでは出せたらいいなと思っています」

 

――FS(フリースケーティング)『ライオンキング』についてはいかがですか。

 「ずっと滑りたい曲だったのですが、映画のイメージが野生的な感じだと自分の中では思っていて。そういう風な感じだと、いざ自分が滑るとなると違うなと思っていて、使うのかを迷っていたのですが、少しイメージを変えて映画の物語に沿って、自分の気持ちや経験を乗せながら『自分が強くなって戻ってきた』ということをイメージして滑りたかったので、それを伝えられるように編曲してもらって、衣装も野生っぽくならないようにしてもらったので、それが伝わったらいいなと思います」

 

――「滑りやすさ」というのはどのような感覚なのでしょうか。

 「とても難しいのですが、ストーリー性がないものはその人によって解釈が違って。観客が見ているときも、どういう風に見たらいいか分からないというか、自分が何を伝えたくて、どう伝わっているかということがごちゃごちゃになってしまっている気がしていて。練習で滑っているときも、この振り付けに対してどういう気持ちで滑っているかということが全く分からなくて変えました。変えてからは歌詞もあって、どういう気持ちでその歌を作ってということが理解できているので滑りやすかったですし、見ている人にも伝わりやすいのではないかなと思います」

 

――今年のテーマはどのようなものになりますか。

 「もちろん安定感は課題ではあるのですが、リスクの高いジャンプや技を入れていくにあたって、他のジャンプで抜くところは抜くというか、全てのジャンプに力を入れて跳んでいると疲れますしうまく力を分散できないので、前から跳べるジャンプや跳べて当たり前のジャンプはほぼステップだと思って跳ぶというか。そういう軽い気持ちで跳べた方が、3―3やアクセルに集中できるかなと思うので。そういう意味でも安定感というのは大事なことだと思います。それを踏まえてステップアップできたらいいなと思います」

 

――アクセルに挑戦し始めたことで当たり前の基準が上がってきたというイメージでしょうか。

 「単発のジャンプだったり、スピンやステップでミスを少なくするというか、ミスを絶対しないくらいの自信を持ってできるようになったと思います。やはり基本的なことができていないと、大きな技にも挑戦できないので。そこのスキルが大技に挑戦することによって身に付いてきたというか、元々持っているもののレベルが勝手に上がってきているので、そこが去年から挑戦して良かったことかなと思っています」

 

――東京五輪を観戦して五輪に対する思いに変化はございましたか。

 「他の競技の選手たちの心境を全て知っているわけではないのですが、根本的に自分もスポーツ選手ですし、どういった気持ちで五輪シーズンに向かっていって、どうして五輪に出たいのかということは一緒だと思います。そういった気持ちを自分が持っている中で夏の五輪を見て、若い選手からベテランの選手までたくさん出ていたと思うのですが、やはりそれぞれメンタル的なものが全く違う中でそれぞれ強い気持ちでそのシーズンに臨んで、大事な試合で勝って五輪に行くというところはとても大事で、そこを自分は強く感じて。やはり大事なところで勝っていかないと五輪には行けないですし、自分の中でもスケートをやっている中で一番の目標が五輪に出ることなので、絶対に達成したい目標だなということを改めて強く思いました」

 

――改めて五輪にこだわる理由を教えてください。

 「『スケートをやっているのにそういうところを考えているんだ』と思う人もいると思うのですが、自分的にはスケートをやっている期間よりも、これからスケートをやめた後の方が長くて、その人生を充実させるため、より良くするためには五輪に出ていろいろな経験を積んだ方がこのまま真っすぐ進むよりも充実した人生を送れると思っているので、五輪に出場したいです。ここまで頑張ってきているなら出たいと思いますし、今までやってきた練習時間などが無駄になるのが嫌なので、そういった意味でも絶対に出たいなと思います」

 

――五輪シーズンでプレッシャーや楽しみな気持ちなどいろいろとあると思いますが、今はどのような気持ちでしょうか。

 「まだ自分が完璧なスケーターだという自信は本当にないのですが、これからも選手を引退してプロのスケーターになっても完璧と思う人はいないのかなとか、今はそういう気持ちでいて。前回の五輪選考の時にいろいろと選考基準が出されて、たくさん考えて目標を設定して、その中で頑張っていたのですが、やはり知らないことが多かったですし経験もなかったので、当たって砕けるみたいな気持ちでやっていて。うまくいったのですが、結局大事なところでピークが合わないという経験があったので、そこで次の年からいろいろなことを考えながら試合に出るようになって。その中で新しい経験を積んで今シーズンまで来れたので、ここまでの4年間の経験はとても大事なことだったと思いますし、まだまだ足りていないことはあるのですが、その経験があったからいろいろなことに対応できるようになったので、そこに自信を持って今シーズン頑張りたいなと思っています」

 

――どちらかと言うと自信を持って臨めている感じですね。

 「というわけでもないんです(笑)やはりいろいろな選手がいて、その選手たちと戦わなければいけないですし、自分の今のレベルは(五輪に)出られるか出られないかというレベルだと思うので。一つ良かったことと言えば、3枠あることだったり、あとは自分が追う側なのは頑張れるので良かったかなと思います」

 

――ありがとうございました。

 

[加川遥稀]

 

(2)に続きます。