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(11)シーズン直前インタビュー 山隈太一朗(1)

フィギュアスケート 2021.10.04

 昨シーズンは新型コロナウイルスの影響で大会が中止や無観客開催になるなど、異例のシーズンとなった。なおも続く厳しい状況の中、新たなシーズン開幕を迎える選手たちの思いに迫る。

(この取材は9月21日に行われたものです)

 

回は山隈太一朗(営3=芦屋国際)のインタビューです。

 

――昨シーズンを振り返って感想をお願いします。

 「一言で言うと最悪ですね。落ちる所まで落ちたなぁって。自分の底だと思っていたさらに下くらい。もう一度上を目指せるかどうか本気で悩むくらい結構成績も落ち込んだし、自分のメンタルもかなり落ち込んだので、何もうまくいかなかったなというのが正直な感想です。練習でうまくいっても試合は全く出なかったりとか、そういううまくいかない中で一番大事な全日本を迎えて、そこで一番良くない最悪の結果が出てしまって…昨年度は思い返してもかなりつらくなるような、最悪なシーズンでした」

 

――調子が落ち込んだ理由について、思い当たる節などはありますか。

 「大学1年の時に自分が持っていた自信とかそういったものがなくなったというか。大学に入ってから中々うまくいかなくて、試合で失敗を重ねていくうちに自信がどんどんなくなっていって、そこからいろいろな道を模索して、さまざまなメンタリティでやってみたりとかいろいろ変えてみたのですが、うまくいかなかったです。失敗のくせが付いていたというのは大きいし、今思い返してみるとすごく背伸びしていたなというのがあります。上で戦わないといけないという高い意識を持たないとやっていけないというか、高い意識を持たなくなった瞬間に自分のレベルが一気に落ちると思い込んでいました。自分ができなくなったことに対してもできなくなったことを認めないで、『本当はできるんだ、やらなければいけないんだ』と思い続けて、実はできていないという矛盾をひたすら繰り返すうちに失敗もおのずと増えていくしそれを改善するためのプロセスがいろいろ間違っていたなと思います。やっぱり背伸びをしすぎた、今の自分をちゃんと見られていなかった、現状把握ができていなかったというところが一番の原因だと思っています」

 

――今はこのようにご自身を客観的に振り返っていますが、気持ちは切り替えられましたか。

 「今年度の夏の2試合が終わってからやっと切り替えられたかな、という感じです。『意識を高く』というのはずっと一番継続してやってきたことなのですが、うまくいかないことの方が多くて。自分の中で意識を高く保てなくなったと言った方が良いのですが、結果が出なさすぎて。意識を高く保とうと背伸びしすぎたというのはそこで気づきました」

 

――切り替えるためには具体的に何を行いましたか。

 「はっきり言って昨年度の全日本選手権が終わった後は本当に信じられない気持ちだったし、そのときはある意味『4回転を跳べば俺は返り咲ける』と思ったんですよ。4回転を跳べばここから一気にのし上がれるって。周りの人からもすごく励ましてもらいました。『今年ここまでひどくて来年一気に良い演技をすれば、そんなにかっこいいサクセスストーリーはないよ』と、そういう励まし方をされてそれがすごく効いたので、その後モチベーションを落とすことなく試合に臨むことができました。4回転を跳ぶというのが僕にとっては相当厳しいもので、そのモチベーションでこの夏までやってきたのですが、それでもやっぱり無理で跳べなくて。でも4回転を無理矢理夏の試合で入れたんですよね。そうすると4回転につられて他のジャンプまで全部失敗するようになって、もう本当に雪崩のように全てが崩れていきました。今まではあまりそういうことがなかったのですが、夏の試合では全部失敗しました。2試合で3回演技して一つも予定通りにジャンプを跳べなかったんですよ。すごいですよね。あまりスケートでジャンプを全部跳べなかったって聞かないからなぁ(笑)シニアでは考えられないような点数を出すし、今まで負けなかった相手にも惨敗するし、昨年度の全日本が終わってからここまで頑張ってきたけど、ちょっともう無理かなと思いました。惨敗した日の夜両親と食事をしていたのですが、『まずは失敗をしないことがこのスポーツの大前提じゃないのか』『みんながボテボテ失敗したり、ノーミスが珍しいのは(スケート以外の競技では)なかなかないぞ』『失敗しないことがこの競技の大前提だから、そもそもできるかできないかのジャンプを入れている時点で間違っている』と両親に言われて。そこで『あ、自分は今までギャンブルみたいなことをしていたのか。ギャンブルをこの競技でやることは絶対に違うな』と思いました。自分の最大の魅力はジャンプじゃなくてジャンプ以外の部分なのに、そこばかりに気を取られているなと両親と話しているうちに気づいて。その時スケートに対する情熱とかが正直なくなっていたので、すごくフラットな状態でそういう話を聞けて、根本的なところに気づけたという感じですね。

 やっぱり人間って意識を高く保ってグワッと熱くなると一番大事なものを見失うんだなと感じました。よくよく考えたらスケートがジャンプだけじゃないというのは当たり前だし、失敗しないようにやるというのも当たり前だし、自分の魅力がわかっているのに魅力に目を向けなかったって、なんでしょう、自分のテリトリーで戦っていないなと。変な話、苦手なことで勝負するというのは、スナイパーが近距離戦をしにいくみたいなものじゃないですか(笑)(※山隈選手はシューティングゲームが好きで、堀選手と一緒にプレイしたりもするそう)。だから、そういう大事なことに『どうして2年間も気づかなかったんだろう?』と自分でもびっくりしました」

 

――ということは、 今までと違いジャンプ以外に重点を置いたプログラムになっているということですか。

 「作る段階では振付師さんが僕の色を全面に出してくれるしプログラム重視なのですが、実際は今まではジャンプ偏重でした。意識の差ですね。ジャンプに意識がいっているか、プログラムに意識がいっているか。でもまだプログラムに意識をしっかり持っていく段階までいけていない、というかやっと意識を持っていく段階に来れたところなので、 12月中盤のピークに向けて、それまでの3試合を通じてブラッシュアップできればなと思います」

 

[向井瑠風]

 

(2)に続きます。


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