自転車部 鹿児島で見た3時間49分48秒の激闘/卒業記念特別企画

2023.03.26

 息をするのも忘れるほど、必死にカメラのシャッターを切った。「お願い、お願い、お願い」。心の中で祈りながら、2台の自転車が並びながらゴールに迫ってくるのを待ち構えていた。破裂しそうな心臓の高鳴りは今でも忘れない。

 

◆9・1~4 文部科学大臣杯第77回全日本大学対抗選手権(鹿児島県錦絵町および南大隅町特設周回コース)

▼男子ロード

 白尾――2位

 村上――6位

 林原――9位

 ※宇佐美、小泉、永野、小久保は途中棄権

▼男子ロード総合

 明大

 

 「本当に行くの?」。出発前、母に言われた言葉は今取材の過酷さを物語っていた。台風接近中の鹿児島県、それも空港から車で3時間の地で4泊5日。それが2022年度、自転車部の全日本大学対抗選手権(以下、インカレ)取材だった。大会は予報通りの大雨、強風の中開催された。激しすぎる雨に持参したカッパは意味をなさず、全身びしょびしょになりながら会場とホテルを往復する日々。それでも嫌にならなかったのは、明大自転車部が大好きで、優勝を信じていたからだった。

 

 迎えた最終日、ロードレース。雨が降る中、出場選手155人がスタート地点に並ぶ。24.2キロ×6周、合計145.2キロの戦いが幕を開けた。高低差の激しい山道のコースに加え、降ったり止んだりの悪天候。序盤から多くの選手が棄権となる過酷な状況下で、祈るようにゴールの瞬間を待ち構える。145.2キロの最後、ゴール前の直線に2選手が並走しながら姿を現した。U―23全日本王者・仮屋(日大)、そして白尾雄大(理工4=城北)だった。

 

 自転車部では異例の一般入部。それでも「普通の明大生になりたくない」。その思いで監督に電話し入部した。4年生ではロード班の班長になり「実力に自信が持てるようになった」までに成長。そして大学最後のレース、それもインカレという大舞台で、トップレベルの選手とデッドヒートを繰り広げている。漫画のような展開に思わず息をのんだ。鳥肌が立つほどの興奮と、絶対にその瞬間を逃してはならないカメラマンとしてのプレッシャー。これまでにない緊張から震える手に力を込めて、夢中でシャッターを押し続けた。

 

 3時間49分48秒にわたる激闘の末、両手を広げたのは仮屋だった。1秒差でゴールを通過する白尾。続いて村上裕二郎(営2=松山工)が6位、林原聖真(法1=倉吉東)が9位で走り抜く。わずか36人しか完走できなかった今レースで、3選手が1桁順位に名を連ねた明大。表彰台の頂に立った白尾、その後ろにはためく明大の校旗。明大史上初の男子ロード総合優勝を達成した瞬間だった。

 

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 「鹿児島まで来て良かった」。帰りの飛行機で幸せをかみしめながら眠りについた。観光ができたり、ご当地グルメを食べたり、楽しかった遠征取材はたくさんある。その意味では決して楽しくない、むしろ3年間で最も過酷な取材だった。それでも、選手を信じて現地に赴く。そんな記者活動の楽しさを一番教えてくれたのは間違いなくこの取材だ。一番大変で、一番幸せな思い出だ。

 

 入部当初は種目も用語も知らなかった私の取材にも笑顔で応じてくださり、自転車競技の面白さ、取材活動の楽しさを教えてくれた選手、監督、マネジャーの皆さん。3年間本当にありがとうございました。

 

[西村美夕]

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