(82)菱川一輝 最高のストレート

2022.10.11

 岩手から逸材がやってきた。投げては最速148キロを計測し、打っては高校通算22本塁打の強烈なスイングを繰り出す。異次元の実力を持つ菱川一輝(文1=花巻東)だが、彼の中におごりはない。得意の打撃を封印してまで追い求めるのは「誰にも打たれない最高のストレート」。怪物が新天地でさらなる飛躍を誓う。

 

運命的な出会い

 「野球を通じて人と出会うことができたのが大きい」。菱川の野球人生は「縁」に恵まれている。最大のターニングポイントは高校時代。「野球人生を変えてくれた」とまで話す高校時代の恩師・佐々木洋監督との出会いである。通っていた幼稚園の近くにあり、幼い頃から親しみのあった花巻東高。「ここで野球をやってみたいと思った」。類まれなるセンスでめきめきと頭角を現した菱川は中学卒業後、憧れの花巻東高に進学する。昨年大リーグでMVPに選出された大谷翔平(エンゼルス)をも育てた佐々木監督の「型に囚われない教え」により、彼の才能は開花した。高校2年で既に球速は140キロを超え、さらには名門打線の中軸を担った。「怪物」と呼ぶにふさわしい実力で将来を嘱望された菱川だが、試練は唐突に訪れる。

 

敗戦が原動力に

 高校2年秋の東北大会準決勝。春の甲子園の切符を懸け、仙台育英高と対戦した。しかしチームは0対1で敗戦。「1点差だが、それ以上の差を感じた」。楽天ジュニア時代から交流のあるライバル・伊藤樹(現早大)に投げ勝てず、春の甲子園出場を逃した。「伊藤のストレートに勝てなかった。もっと頑張らないと」。菱川は変わった。その日以降、苦手だったウエイトトレーニングにも率先して取り組んだ。「ストレートで押していく投球」を追い求め。

 

怪物伝説第2章

 秋の敗戦を原動力に誠実に野球に取り組んだ菱川は高校野球引退後、明大野球部が掲げる『人間力野球』の方針に共感し、進学を決意。入学後は自身の実力を早くから発揮し、今春のフレッシュトーナメントでも2試合に登板するなど鮮烈なデビューを果たした。高校時代は投手と野手の「二刀流」で活躍した菱川だが、大学では投手に専念する。「ストレートでは負けたくない」。大学球界の門を叩いた菱川が追い求める最高のストレート。怪物が投じるその1球に注目せよ。

 

[上瀬拓海]

 

◆菱川 一輝(ひしかわ かずき)文1、花巻東高、174センチ78キロ、右投げ左打ち、投手

「英語は一つも分からない」と勉強面の不安を抱える菱川。野球と学業の「二刀流」はぜひとも継続してほしい。