
(25)逆境をバネに 勝利を呼ぶ守備職人へ 山本伊織

派手な守備で観客を魅了する。昨年度の甲子園準優勝校・星稜高出身の山本伊織内野手(法1=星稜)。挫折と悔しさを味わった高校時代を糧に、激しいレギュラー争いに名乗りを挙げる。
社会人野球の監督だった祖父の影響で始めた野球。始めから打撃より守備が好きだった。マンションでの壁当てを幼少期から毎日積み重ねた。
中学時代はチームの中心選手だった山本。高校でも主力になろうと意気込んで入学するも、同級生となったのは後にプロへ進む奥川恭伸(東京ヤクルトスワローズ)や山瀬慎之助(読売ジャイアンツ)。周囲のレベルの高さに圧倒された。それでも「主役でなくとも、必要とされる選手に」。チームに欠かせない存在を目指した。
高校2年生の夏、初めての甲子園は劇的な幕切れだった。2回戦・済美高戦、サヨナラ満塁本塁打で敗戦。負けた悔しさよりも、何も貢献できなかった自分への悔しさが勝った。「引退した3年生のためにも絶対に上にいく」。そう誓うも、新チームになってから不調に陥る。夏の県大会ではスタメンを外れ「本当に野球が嫌になった」。甲子園に行きたい気持ちさえ薄れてきた中、支えとなったのは奥川から掛けられた「悩んでいても仕方ないからちゃんとやれ」という言葉。チームメートからのしっ咤激励が刺さった。「最後くらい頑張ろう」。気持ちを切り替え、練習に励んだ。
迎えた最後の甲子園。山本が光ったのは、やはり持ち味の守備だった。2回戦・立命館宇治高戦。3点差を追う立命館宇治高の逆転を期待する観声が球場に響く。サヨナラ負けを喫した昨年度の済美高戦と同じ雰囲気が球場を包んだ。だからこそ「自分のところに飛んで来い」。済美高戦では何もできなかった。1年経ち、チームに貢献できる喜びを噛み締めてセカンドの守備についた。9回裏1死一塁の場面。一、二塁間を抜けると思われた打球を捕球し二塁に送球。「絶対に二塁をアウトにできる」。確信を持ち、狙ってのファインプレー。「高校で一番のプレーだった」。自他共に認める好守備は瞬く間に広まり、守備職人として名をはせた。
「高校で野球をやめようと思っていた」。引退後は、同期が大学に向けて練習する中1人野球から離れた生活を送っていた。しかし、野球のない生活は物足りなかった。9月に行われた国民体育大会で久々に試合に出場。母からのアドバイスもあり左打ちから右打ちに変え、3打数2安打と結果を残した。「久しぶりに楽しく野球ができた」。緊張する場面での出場が続き、ずっと野球が楽しいと思えなかったが、この試合で野球の魅力を改めて知った。もっと早く右打ちにしておけば良かったという後悔もある。しかし「苦しくてもやり抜く力を学べた」。逆境を乗り越えた経験は自信につながっている。
大学での目標は、スタメンで出場し、リーグ戦優勝に貢献すること。堅実かつ華やかな守備で明大を優勝へ導く。甲子園を沸かせた守備職人が、次は神宮球場を沸かせる。
[西村美夕]
◆山本 伊織(やまもと・いおり)法1、星稜高、172センチ・68キロ、右投右打、内野手
高校で嬉しかったことは報道ステーションの「熱盛」に出られたこと。
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