
『記者の目』消えた勝ちへの執念 〝人間力野球〟に立ち返れ

あと一押し、あと一球、あと一本。ここ一番で力が発揮できない。〝秋に強い明治〟の姿が見えなかった。初戦・法大1回戦の引き分けから、3連敗スタート。春の6敗全てが1点差だった明大は、どの大学よりも一球の重みを感じたはずだった。
それなのに、執念が見えない。4年生主体の打線はチームの徹底事項を守れず、同じ球に手を出し凡退。「勝ちへの気持ちを前面に出したい」(吉田有輝主将・商4=履正社)。4年生がそう語っても、劣勢時に静まり返るベンチで声を出すのは3年生エースの森下暢だけ。明大野球の代名詞である〝泥くささ〟が消えてしまった。
「私生活の甘さが出てしまった」。優勝を逃した直近4季、お決まりとなったせりふが今季も選手の口から出てきた。〝人間力野球〟とは何か。グラウンド外の姿勢が、どう野球に影響するか。口で言うのとは裏腹に、選手たちは理解できていない。
予兆はあった。今から4年前。現4年生が入寮するとともに、前寮長の松岡功祐氏(昭40農卒)が退職。大人の目が減り、部の雰囲気が変わり始める。「本当に今の明大は緩いよね」(善波監督)。私生活に厳しい松岡氏の指導を受けた世代がいなくなった今年度。主力選手が試合当日に寝坊すれば、ベンチ外の選手は球場へ応援に来ない。緊張感がなくなり、チームはまとまりを欠いた。そんな野球以前の問題を抱えた集団が、緊迫した神宮で成果を出せないのは当然だ。サヨナラ勝ちを収めた最終戦の立大2回戦も同じ。勝負を決めた10回まで好機に代打を3度送るもことごとく凡退。犠打の失敗やサインミスも起こり、締まりのない野球だった。
一方で12季ぶりの優勝を果たした法大は「3年間で一番チームがまとまっていた」(森下暢)。法大戦は3戦全てで9回に失点して勝利を逃した。チーム打率1位の強力打線はさることながら技術以上に差があったのは〝組織力〟。常に体を乗り出す応援や、単なる出塁を爆発的に盛り上げる熱気。春5位からはい上がってきた法大は全員が勝利への執着心を見せていた。
来季こそ〝奪冠〟するために。泥くさく、勝ちに貪欲に。そして私生活から全力で勝ちを考えた先に、初めて優勝が見えてくるのではないか。次の4年生だけが知る2年前の春秋連覇と秋日本一。「うまくいかないときにどうするか。それが人間力の問われるところ。自分の主張と、周りの人が言っていることをうまくミックスして行動しないと」(善波監督)。〝人間力野球〟の原点に立ったとき、リーグ通算V40への道が開くはずだ。
【浜崎結衣】
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