(5)上本崇司

硬式野球
1999.01.01
(5)上本崇司
 抜かれた――。ベンチ、そして明治ファンの誰もがそう思ったに違いない。6回表一死二塁、西嶋(商3)が投じた第六球目、快音とともに痛烈な打球が三遊間を抜けていく――はずだった。しかし次の瞬間、飛びついたショートのグラブにボールは吸いこまれていった。捕球後は素早く体を起こし、一塁に送球。スローイングも乱れることなくファーストのミットに収まると、一塁側学生スタンドの興奮は最高潮を迎えた。このプレーで観客をとりこにした選手こそ、高校2、3年生時に出場した甲子園でファンをわかせ、鳴り物入りで明治に入学してきた期待のルーキー上本(商1)だ。

 俊足巧打の内野手 
 柔らかいグラブさばき、50メートルを6秒で走る脚力、広角に打ち分けるバッティング。上背はないが、機敏な動きで見るものを魅了するその姿は牛若丸のようだ。

 才能ある兄との比較 
 高校時代から脚光を浴びた上本が、六大学でも注目される理由。それは昨年早稲田の主将を務め、現在は阪神タイガースの選手である上本博紀を兄に持つからだ。事実、プレースタイルも兄・博紀と重なる。そんな上本が早稲田ではなく明治を選んだ理由は、高校の先輩野村(商2)がいたからである。野村とともに、高校で果たせなかった日本一を成し遂げるために明治進学を決意した。また、中・高は兄と同じ道を進むも、「兄弟で野球をやっているといやでも比較されてしまう。それもいやで明治を選んだというのもある」(上本)と、兄弟ならではの苦しみも明治を選んだ理由の一つに挙げた。

 明治の上本として
 そんな上本に対する周りの評価は高い。高校時代からともにプレーしていた野村は「試合に出て初めて良さが分かるタイプ。派手さはないが、対応力の高さから野球センスを感じる。後ろにいると安心感もある」と期待のルーキーについてこう話す。指揮官も「1年生ながらベンチがやりたいことを分かっている。(上本は)スタメンで出すよ」(善波監督)と開幕戦での試合出場を示唆。戦いの幕が明けた東京六大学春季リーグ開幕戦、上本は8番ショートで開幕スタメンに名を連ねた。開幕戦にルーキーが出場するのは、2002年の原島正光選手(平18営卒・現日立製作所)以来7年ぶりのことだ。
「明治はレベルが高い。でも開幕スタメンを狙っていく」と以前、力強く言い切った上本。開幕スタメンという1つの目標は果たされた。しかし、東大戦ではバットのほうから快音が聞かれず、2回戦の最終打席では代打を告げられた。真価が問われるのはこれからである。投と打で違うものの、先輩野村のようにルーキーで活躍できるか。ついに、明治の上本が神宮第一歩を踏み出した。

◆上本崇司 うえもとたかし 商1 広陵高出 170cm・68kg 右/右