小説『明け方の若者たち』カツセマサヒコさんインタビュー・拡大版①

明大スポーツ新聞 2022.04.02

 4月1日発行の明大スポーツ第518号の企画面では、明大前での思い出などを語ってくださった小説家・カツセマサヒコさん。新聞内ではやむを得ず割愛したインタビュー部分を掲載いたします。

(この取材は3月2日にオンラインで行われたものです)


――今回取材を受けてくださった理由を教えてください。

 「明大前という土地や場所の空気や、それに関わった作品についての取材ということで、ぜひ受けたいなと思いました。コロナの情勢次第でどうなるか分からないですけど、(新入生が)これから通うことになるキャンパスの街なので、好きになって欲しいなという気持ちもあり、受けようと思いました」

 

――『明け方の若者たち』はプロットの段階で内容が二転三転したというインタビューを拝見しました。最初とはかなり物語は変わったのですか。

 「そうですね。最初は全然違う物語で、高校生が主人公の物語とか、あとは『明け方』と同じ若手社会人の話でも、メンバーが6人とかでした。仲良しな同期グループの話を最初は考えていたんです。ただ、プロットを考えていると「俺にはまだ6人を書き分ける力がない」ということにすぐ気づくんですよ。それで、もっと人を減らしてと書き換えていくうちに、たどりついたのが『明け方の若者たち』です。プロットだけでなく、初稿と改稿でも内容は変わっています。初稿の時点では時系列がごちゃごちゃになっていました。1章で出会って、2章はもう別れた後みたいな。時系列をばらすことに憧れていたんですけど、「読みづらくないか?」と単純に思いやめました。ただただカッコつけたかったんでしょうね(笑)。まず分かりやすく書こうと気持ちを改めて進めていきました」

 

――題名を『明け方の若者たち』にした理由を教えてください。

 「結果オーライでとても気に入ったタイトルになりましたが、最初は全く違うタイトルを付けていました。初稿を書き終えた段階ではタイトル未定のままで、最初に付けたのは『淡い時の幕は降りて』です。青春の終わりを表したようなタイトルを付けていたのですが、東野圭吾さんの小説に似たタイトルの作品があって、編集者さんから「やめましょう」と言われたんです。嫌だ嫌だとごねたんですけど、変えることになって。ただ、その時にはもう『淡い時の幕は降りて』のつもりでいたので、他のタイトル案が浮かんでも個人的にはパッとしなかったんです。なんとか15個くらい案を出して、それでも思い入れはないから身内と出版社に人気投票をやってもらったら『明け方の若者たち』がダントツの一位になりました。それで「あー、そんなにいいんだ、これ。知らないけど」みたいな感じでタイトルに決まって。ただあまりに悔しかったので『淡い時の幕は降りて』は英語に変えて、『the end of the pale hour』というサブタイトルとして残してもらうことにしました」

 

――物語に出てきた明大前のスポットでのエピソードを教えてください。

 「宮古に関してはすずらん通りにある1号店と、はずれたところにある2号店が存在します。僕のサークルはなぜかそれをファーストとセカンドと呼ぶんですよ(笑)。まだ当時はラインとかもなく、インターネット掲示板にサークル専用のものがありました。そこで「宮古行きたい人」みたいに書き込むと、4、5人くらいはすぐに集まるんです。それが楽しかったから、あの雑な生活を描きたいなと思ったし、僕の中で宮古の2号店がすごく大事な場所になっています」

 

――1号店よりも2号店に思い入れがあるのですか。

 「そうなんですよ。おかみさんにサークル丸ごとお世話になっていて。先輩が電車を逃してそのまま店に泊まったこともあって、昔は夜になると布団をひいてくれていたんですよ(笑)。今は絶対やってないだろうけど。それでサークルの後輩が実際にそこでバイトを始めたりとかして、思い入れがあるのは宮古2号店でしたね。そもそも、小説に出てくる〝勝ち組飲み会〟を本当にやるんだったら、たぶん六本木のクラブとかを貸し切ってやるんですよね。総合商社などのトップクラスとされる企業に行く人たちは、遊び方も知っているので。なので、沖縄料理屋で済ます程度の人たちだっていう皮肉の意味も含めて、明大前の沖縄料理屋を書いているんです。もしも実写化されたらお店に少しは恩返しできるかなという気持ちもあり、ディテールは細かく書いたのを覚えています」

 

(宮古2号店)

――くじら公園での思い出はありますか。

 「えっと…ほぼないです(笑)。ただ、くだらない飲み会から男女が抜け出す、みたいなシーンにすごく思い入れがあるというか、好きな小説や映画にそういうシーンが多く登場していたんです。要するに王道な出会いというか展開のシーンですが、自分もそれをやりたいと思って『じゃあ、ぼろい沖縄料理屋から抜け出した二人はどこにいくんだろう。あの明大前で』と思った時に、浮かんだのはくじら公園のようなひっそりとした公園しかなくて。そのルートをそのまま書くっていう感じで書きました。そのせいなのか、くじら公園のシーンについては現実の景色とは違った印象で書いている部分が多いです。小説では滑り台の上で乾杯をするのですが、実際の滑り台は大人が2人入れるほど広い場所じゃない。また、ちょっと逆光気味に彼女が見える設定で書いていましたが、実際はそんな位置に街灯などないみたいで、『(映画の撮影の際)逆光になりようがなかったです。だから照明一個増やしました』と監督に言われて、映画ってすごいなと思ったのを覚えています(笑)」

 

――すずらん通りでの思い出はありますか。

 「飲食店であれば、だいたいのお店は行った気がします。でも、卒業して数年経ってから行ってみるとお店が新しくなっていたりもしていて、当時の強い思い出がある場所はそんなに残っていないです。あんなにゆっくりと時間が流れているように思える明大前でも景色は変わっているんだなということが、やけにはかなく感じました」

 

[堀之内萌乃・新津颯太朗]


インタビューの後半はこちら



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