小説『明け方の若者たち』カツセマサヒコさんインタビュー・拡大版②

明大スポーツ新聞
2022.04.02

 4月1日発行の明大スポーツ第518号の企画面では、明大前での思い出などを語ってくださった小説家・カツセマサヒコさん。新聞内ではやむを得ず割愛したインタビュー部分を掲載いたします。

(この取材は3月2日にオンラインで行われたものです) 

 

――劇中歌はどのように選曲したのですか。

 「KIRINJIの『エイリアンズ』に関しては、実際にそれをアラームにしているという人と出会ったことがあって、その印象が忘れられませんでした。『こんなんじゃ起きられないでしょ』と思っていたんです(笑)。なのでその時の記憶で選びました。小説の時点で、エイリアンズがかかって(彼女が)アラームを止めようとするのを(僕が)防ぐというシーンはできるだけ映像的に描きたいなと思って何度も何度も描き直したのをすごく覚えています。映画でも一番印象的なのはその『エイリアンズ』のシーンでしたね。寸分狂いなく実写化された気がしたのですごくうれしかったです。曲を使わせてくれたKIRINJIさんにも、ただただありがたいと思いました。他の劇中歌については、僕はほとんどノータッチで、映画チームが選んでいます。きのこ帝国の『東京』については監督の思い入れがありました。劇中にデートでスカイツリーを見に行くシーンが描かれているんですけど『スカイツリーを見に行くデートするの、ちょっとダサいな』と思っていたんですよ。でも、少し調べたら2013年頃ってちょうどスカイツリーができたあたりの年なんです。きのこ帝国の『東京』の歌詞に『赤から青に変わる頃にあなたに出逢えたこの街の名は、東京』というフレーズがあります。監督の中では、東京タワーという赤い場所からスカイツリーという青い場所ができたときに出会えた街・東京だから、その曲をかけたいと思ったそうです。原作を書いている時にはあまり鳴っていなかった音楽だったので、すごくうれしかったですね。マカロニえんぴつについてはもう、ご縁でした。先に『ヤングアダルト』という曲があり、自分が『明け方〜』を描いている時にその曲と出会いました。『今描いている小説そのままだな』ということをはっとりさんご本人にTwitterのDMで伝えて、冗談交じりに「映画になったら主題歌にしてくださいね」みたいなやりとりをして、献本もしたりしました。そこから月日が流れ、本当に小説の映画化が決まり、その後にはっとりさんをラジオのゲストに呼んだら『主題歌頑張ります』と言われて。『なんのことだろう』と思ったら、新曲を書き下ろすとのことでした。映画のタイアップって、本来はもっとビジネス的というか、大人のにおいがするものなんですよ。アーティストのリリースタイミングも大きく影響しますし。でも本当に、このコラボレーションについては作者も映画監督も原作者も思いひとつで『やりたい』と動いて生まれたものなので、うれしかったです」

 

――「私と飲んだ方が、楽しいかもよ?笑」などシンプルでありながら刺さるフレーズはどのようにして考えていますか。

 「『小説なんだからこのぐらい言っても許されるよね』と思って描いている希望のようなものが僕は多いです。自分では言えない、人に言われたこともない、けどもこういうことを言ってくれる人がいたらかっこいいなとか、かわいいなとか、勝てないなっていうものを、特に彼女に関しては言葉を選んで書いていったのを覚えています。一言一言で彼がちゃんと彼女という沼に落ちていくことに説得力を持たせたかったんです。たとえば『私と飲んだ方が楽しいかもよ?笑』なんてよほど自信がないと言えないじゃないですか。それを言えちゃうところに最大のフィクションがあると思っているし、そういう彼女だったからこの本が多くの人の手に取ってもらえたのかなとも思います。でも、あのセリフが話題になったせいで、男友達からも『俺と飲んだ方が楽しいかもよ?笑』みたいな連絡がしょっちゅう来て困ります(笑)」

(出会った日主人公たちが別れを告げる歩道橋) 

――大学生の「根拠のない自信」を作品から感じました。カツセさんも大学生の時感じていましたか。

 「すごく感じていましたね。なぜか万能感に包まれていて。大学4年になるとサークルのトップの代になるじゃないですか。うちは上下関係がややあったので、4年生は本当に神様扱いされていました。しかも就活では内定も取れていたし、まさに順風満帆な状況で、調子に乗っていたんです。まぁそれがどれだけ愚かなことかっていうのは、後から分かるのですが。でも、そのある種の万能感みたいなものはきっとあのとき特有の若さとか、エネルギーを持っているからこそ生まれるものだと思っています。今となってしまえば少し笑ってしまうような痛さもありますが、それを忠実に描きたい気持ちはありました」

 

――大学生活が終わった時に感じたことはありますか。

 「気持ち悪いのですが、もう飽きていたんですよね、大学にも、ダラダラ暮らすのにも。それほど社会人に期待していたんだと思います。それがふたを開けてみたらもっと退屈な日々が待っていて、実績ゼロの自分しかいませんでした。打ちひしがれてばかりでしたし、大学時代に描いた未来とのギャップが大きな摩擦になっていたのかなと思います」

 

――自分の将来に不安を感じる学生もいるかとは思います。

 「『将来が全く楽しみじゃなくなりました』みたいなことは就活前後の大学生からよく言われます(笑)。『まぁそうよね、今気付けて良かったじゃん』とも思うし、その大きな期待がない代わりにマジックアワーなんだという自覚を持つことができたらもっと楽しみ方も変わると思います。後悔なく生きてほしいという気持ちもあり、描いたところはすごくあります」

 

――ありがとうございました。

 

[堀之内萌乃・新津颯太朗]