シーズン直前インタビュー 樋口新葉(1)

フィギュアスケート
2020.10.02

 新型コロナウイルスの影響を受け、リンクが一時閉鎖されるなど練習中断を余儀なくされたフィギュアスケーターたち。自粛期間を経て抱いた、シーズン前の思いについてのインタビューをお届けする。

(この取材は8月22日に行われたものです)

 

初回は樋口新葉(商2=開智日本橋学園)のインタビューです。

 

――最近の調子はいかがですか。

 「気になるのは(3回転)アクセルだと思うのですが、アクセルはかなり調子もいいし、コンスタントに着氷できている状態なので、今シーズンは最初の試合からしっかり回ることができるのかなと思います。他の3-3だったり、アクセル以外のジャンプも安定してきているので、このまま変にケガをしたりしないように、そういう小さなところに気をつけながら頑張っていけたらいいなと思います」

 

――昨シーズンは樋口選手にとって大きなシーズンだったと思います。改めて昨シーズンを振り返っていかがですか。

 「やはり一番大きかったのは、全日本選手権(以下全日本)に照準を合わせるように最初から設定したことですかね。全日本でピークを迎えられるようにGPシリーズなども徐々に(調子を)上げていった感じだったので、それが調子が上げていけた理由かなと思います。でもGPシリーズは結果を出したいというわけではなかったので、そこの気持ちの甘さは結果として出てしまいました。そこで、一番調子が悪くてもレベルが高くなるように設定していけたらいいなと思いました。あとは全日本で結果を出せたことで、そこからさらに上を目指せるようになったので、四大陸選手権(以下四大陸)でアクセルを入れることもできたし、他のジャンプの安定感も一昨年やそれより前とは違ったなと思います」

 

――全日本選手権にこだわる理由を教えてください。

 「世界選手権などに出たいというのが一番です。そのためには全日本を勝ち抜かなきゃいけないのですが、それが一昨年などはケガでできませんでした。やっぱり表彰台に乗りたいし、1年の中で一番大事なのは自分の中では全日本だと思っているので、そこで結果を出すのは自信にもつながると思っています」

 

――昨シーズンうまくいった要因は何だとお考えですか。

 「先ほどを言ったように、シーズンが始まる前から設定をちゃんと決めて、全日本で一番いい結果を出すと決めていました。そこで全日本までにどういう練習やトレーニングをするのかを明確にして、それを計画的にこなせたことで、結果も残せたしケガもしなかったんだと思います。長期間で集中しなきゃいけないという不安はありましたが、何とか計画通りにこなせたのが理由かなと思います」

 

――昨シーズンは大学に入学し、環境も変わりました。

 「本当に友達に助けてもらってばかりでした。新しい友達と関わることで自分の考えを共有できたし、逆に相手の考えも共有してもらえました。今まではスケートの友達だったり、相談をしても大体似たような答えが返ってくるので、本当に小さい範囲で生活している感じだったのでした。でも、一般入試で入った子とかと関わったことで、自分が今まで考えもしなかった考えなどを共有できて、世界が広がって、選択肢も増えました。それが結果としてスケートの練習とか試合で、『こういう時にいつもはこうしてたけど、今日はこういう風に考えることができた』とか新しく色々考えることができていて、突然何かが起こっても冷静に対応できるようになった気がしています。でも実際振り返ってみると、本当に焦っていたときもあったし、スケートのことは集中できていたにしろ、やっぱり学校のことだったり、そんなに考えなくてもいいことを考えなきゃいけなくて大変でした。でもそれも、逆にそういうことを考えながらでもスケートに集中できるという経験値になりました」

 

――シニア合宿を振り返っていかがですか。

 「今年は合宿がこれ(シニア合宿)だけだったので、これにかけていたというわけではないですが、大事な合宿だし、日本のトップの人たちが集まる合宿なので、モチベーションもすごく高かったです。そこで四大陸ぶりにアクセルを跳べました。体の動きも良かったし、合宿ではみんなで生活したりしたので、スケジュールは分刻みで大変だったのですが、楽しみながら収穫も多い合宿になったかなと思います」

 

――4回転も視野に入れていますか。

 「シニア合宿が終わって、東京に帰ってきてから4回転の練習をするようになりました。トゥーループとループとサルコウとルッツの練習をしようと思っていたのですが、トゥーループはもともと足首の捻挫癖がすごかったので、練習はしないで久々に跳んだら、全然痛くなくて、スムーズに練習できたので、今はトゥーループに力を入れて他は時間があればという感じです」

 

――今シーズンのプログラムについて教えてください。

 「ショートもフリーも昨シーズンから継続です。今までのプログラムのブラッシュアップも全然できない状態で、海外にも行けないし、来てもらうこともできなかったので、先生と相談しながら自分でやっていて、去年よりもいいものを見せられるよう練習しています。あとはルールが変わったのですが、あまりプログラムとスピンに関しては変わっている部分はなかったので、去年以上にうまく滑れるようにということだけを考えながら練習してます」

 

――プログラムを変えなかったのは、やはり振付師さんと連絡が取りにくいのが原因でしょうか。

 「それが一番大きいです。本当は5月くらいにリモートで振付するか迷ったのですが、お互い滑れなくて断念しました。陸の上で覚えていても、どの方向に何があって、ジャッジはどっちかなどが何もわからないまま振り付けしても動きもわからない。だったら今のプログラムのほうがいいねという話になりました」

 

――いつも新しいジャンプを習得する際に「最後は自分の感覚」とおっしゃっています。その真意を教えてください。

 「やっぱり他の人を参考にするのはすごく大事だと思うし、最初は見様見真似でやらないとできないこともたくさんあります。そういう感じで始めて、だんだん感覚がつかめてきて、こういう感じかなと考えていくうちに自分のものになっていって、自分のジャンプが完成していくので、その自分の感覚を忘れないようにというのを考えながらやっています」

 

――今シーズンの計画を教えてください。

 「今シーズンは試合数が少ないので、全日本に合わせていったほうが昨シーズンみたいにうまくいくのかなと思っています。本当にどうなるのかわからない中で、そこだけはちゃんと試合が決まっているので、そこに照準を合わせていくしかないという感じですね」

 

――今シーズンは北京五輪のプレシーズンです。

 「前回のオリンピックの前年は本当に何もわからなくて。全然経験もなかったし、色んなことを考えながら過ごしていた時期だったのを思い出します。でも、考えすぎていいことはなくて、自分ができることをやれば結果はついてくると思うので、自分ができることをやって、それをちゃんと見せるということだけを考えてやりたいと思います」

 

――練習ができない自粛期間のマインドはどのような感じだったのでしょうか。

 「最初の1、2週間ぐらいは『本当にどうしよう』という感じでした。でも途中から自粛期間を楽しみ始めましたね。こんなことはもうないと思って、だったらトレーニングはしつつ、楽しいことしようって。寝るなり遊ぶなり、スケートのことを考えない自由な生活をしていました。それはそれで楽しかったです(笑)。週3でトレーニングして、プラスで家で走ったりしました。モチベーション的には、自粛明けに自分がどういう滑りができるか、すぐ元通りに戻るのかなどを考えながら、不安というよりは楽しみな気持ちでした。いつもより追い込んでトレーニングしていて、そのおかげで自粛明けにすぐジャンプの感覚も戻ったし、すごくいい期間にできたなと思います」

 

――陸上でのトレーニングは具体的にはどのようなことをしたのでしょうか。

 「部屋では体幹をやって、あとは走ったりするのがメインでした。他にはジャンプ系で縄跳びなど、とにかく動くことをメインにやっていました」

 

――身体に変化はありましたか。

 「筋肉は余分な分が落ちたなという感じです。食事の面では、トレーナーさんに食べたものを送ったりしていました。好きなものも食べていたし苦ではなかったのですが、ふくらはぎがほっそりしました」

 

――再開後の1日のスケジュールを教えてください。

 「朝練をして休憩、トレーニングに行ってまた練習して、帰ってきて夜練まで寝て、夜滑って終わりという感じです。1日2、3回練習して、あとはダンスやトレーニングをしています。移動は電車を使わず自転車です」

[加川遥稀]

(2)に続きます