壮絶な乱打戦に終止符を打ったのは、期待されながら控えに甘んじていた男の一振りだった。８対８の同点に追いつかれて迎えた９回２死一塁。代打・小川が１ボールから、外寄りの甘い直球を振り抜く。「打った感触で抜けると分かった。これほど完璧な当たりは久しぶり」と評するほどの鋭い当たりが、右中間を切り裂き、法政に引導を渡した。「神宮の舞台にはなかなか立てませんでしたが、応援して下さる皆さんに感謝を表すにはプレーしかなかったです」。二塁ベース上では雄叫びを上げガッツポーズ、スタンドの歓声にも手を挙げて応え、応援してくれるファンに身体全体で感謝した。
　高校時代は名門横浜高校の主将として、夏の甲子園ではチームをベスト４に導いた。鳴り物入りで明治に進学したものの、なかなか出場の機会を手にすることができず、くすぶっていた。しかし、今年の夏のオープン戦からは徐々に結果を残し、代打としてベンチ入り。ここぞの場面で出たリーグ戦初安打が殊勲打となった。「とにかく期待に応えられてうれしいです。チャンスは小川みたいな流れになってほしいです」。好調な打線に強力な新戦力が加わった。優勝へ向けこの男の活躍がカギになりそうだ

　さらに期待の大砲も本格化の兆しだ。６番ライトでスタメン出場を続ける中嶋（法２）が絶好調だ。１対１の同点で迎えた３回。３番島内（法４）のヒットなどで、１死一、三塁のチャンス。「三上投手（法政）は立ち上がりからストレートが多かったので、狙っていました」（中嶋）と勝ち越しの３点本塁打を左翼席に突き刺す。６対７と１点ビハインドで迎えた７回には、１死二、三塁から、レフトへ２点タイムリーを放つなど、４打数２安打５打点の大活躍。ここまでの４試合、14打数６安打６打点１本塁打で打率は４割２分９厘。大学日本代表にも選ばれた若武者が、劣勢の中で流れを変えた。

　勝ちはしたものの、不安要素はある。６回、楽勝ムードが一変した。２回に打たれたソロ本塁打のみに抑えてきた野村が突如崩れる。１番・建部（法政）を空振り三振に打ち取ったが、ヒットと四球で満塁のピンチを迎える。しかし、流れは止められない。５番・原田（法政）に２点タイムリーを打たれると、今村と木下にも連続で適時二塁打を打たれ、この回一挙６安打３与四死球（２死球）で６失点。試合後、野村は「悪い流れを止められなかった」と語り、川辺（商４）も「（野村の）調子はまあまあだったけど、同じテンポで投げ過ぎてしまった」とバッテリー揃って反省を口にした。

　春は貧打に喘いだ明治。失点は重ねたが、打線の力で打ち勝てたのは大きい。９回２死走者なしと勝ちが消滅する寸前から勝利をもぎ取った。竹田主将（文４）も「春から秋への練習は間違いなかったです。自信になりました」と笑顔を見せた。４季ぶりの王座奪還に向け、勢いそのままに突き進みたい。