(12)復活の秋へ 上本崇司

2011.09.09
(12)復活の秋へ 上本崇司
 いつまでも出口が見えなかった。「おかしいな、何で打てないのかな」。大学入学と同時に常についてまわったという打撃不振。昨秋の打率は1割を切り、今シーズンこそはと臨んだ春季リーグ戦でもケガや風邪からから調子を崩した。シーズン中にもかかわらず体重は6キロ減り、打率は1割8分7厘。目標としていた3割には到底及ばず「最悪だった」。こう絞り出すのがやっとだった。

 不調にあえぐ上本(商3)にできること。それは、ひたすらバットを振ることだった。「打ちたい」という気持ちたった一つでいくらでも振り込めた。ノルマは定めず、自分が納得するまで何回でもバットを振る。高森キャンプでも夜遅くまで延々とバッティングをこなした。低めのボールを打つ力がないことを指摘されると、ティーバッティングで低めの対策に力を入れた。そのまま日もなく行われた韓国遠征ではフォームを少し修正。ボールへの反応が速くなり「調子がよかった」。少しずつ、しかし着実に手応えをつかんでいく。「いけるかもしれない」。かすかな自信を手に夏の佳境をこえた。

 ひと夏の取り組みはうそをつかなかった。先の高森キャンプや韓国遠征を終えてのオープン戦、読売巨人軍との一戦。初回、朝井投手(読売巨人軍)のストレートを振り抜き左前へ。グラウンドで久しぶりに放った安打だった。9月に入りリーグを目前に控えた対日体大戦でも、練習してきた低めを完璧にとらえ中堅手の頭上を大きくこえる三塁打。「たまたま」と笑ってみせたものの、その表情にはしかと自信が刻まれていた。

 打ちたい気持ちは結果が出るほど膨らんでいく。だが「自分の役目はまず塁に出ること」とボール球には決して手を出さなかった。ストライクだけを思い切り振る。それも高森キャンプで学んだことだった。「打率3割越え」にこだわる上本だが、出塁するためなら、気持ちを抑えることも厭わない。

 やれることは全てやった。あとは「自分のスイングをするだけ」だ。「最悪」とうつむいていた上本はもう打席にいない。「秋は絶対に打ちます。自分が打って優勝します」――。復活の秋へ向け、その目は決意で溢れていた。

◆上本崇司 うえもとたかし 商3 広陵高出 170cm・70kg 右/右 内野手