(2)悔しさを知った強さ 渡部和博

1999.01.01
 「あの時の悔しさは忘れない」。春の早大1回戦、1点ビハインドの4回2死満塁。一打逆転の場面で渡部(政経4)は打席に立った。「ここで打てば流れがくる」。しかし、打ち上げた力のない打球は平凡なレフトフライ。これで試合の流れを失った明治は、2試合連続完封負けの屈辱を味わった。

 あの日から3ヶ月。夏の高森キャンプでは、監督から熱心に指導を受ける渡部の姿があった。「春は自分が打てば勝てる試合もあった。もう春を繰り返したくない」。そのため、キャンプでは課題である打力向上に取り組んだ。もともと上半身の筋力が強い渡部だが、これまでは上体に頼る打撃で下半身が使えていなかった。しかし、強靱(きょうじん)な上半身を支えるにはしっかりした土台、つまり下半身の強さが必要となる。ハンマーを使って素振りを行うことで、「下半身を使うことを意識させる」(川口監督)練習を徹底して行った。

 オープン戦も終盤に差し掛かった現在。理想高き男は、いまだ自分の打撃の形を追い求めている。不安や焦りがないと言ったら嘘だろう。しかし、渡部は決して下を向くことはない。「今は練習でも気持ちの入り方が違う」。早稲田戦のチャンスで打てなかった悔しさ。それは2年の秋に初めてレギュラーとして試合に出たときにも、4年の春に再びレギュラーの座をつかんだときにも感じなかった、初めて味わう悔しさだった。リベンジの思いは人一倍強い。

 悔しさを乗り越えたときに思う「強くなりたい」という気持ちが人を成長させる。「ずっと早稲田戦の悔しさをバネに練習してきた。後悔だけはしたくない」。悔しさを知った渡部だからこそ、持ち得た真の強さがある。

◆渡部和博 わたなべかずひろ 政経4 倉敷工高出 180cm・79kg 右/左 遊撃手