ラグビー部応援企画①~森喜朗氏~

2009.12.02

日本ラグビーフットボール協会会長を務め、W杯招致を先導した森喜朗氏に話を伺った。

自己犠牲がラグビーの精神

 〝One for all,All for one〟の言葉があるように、ラグビーは1人突出した選手がいれば勝てるというものではなく、仲間を信じて15人全員でトライを取りにいく。現在ではFWもライン参加する姿などがそれを表しています。セービングやタックルなど、嫌な役割も多いですが、自分のポジションに責任持ってやる。今の若者は多少関係が違ってきてはいますが、昔はトライした選手が恥ずかしく、チームのみんなに悪いと思ったものです。そのような自己犠牲の精神がラグビーの神髄であり、魅力でしょう。

 また、わたしはよく、〝人生はラグビーボールのごとし〟という言葉を使いますが、楕円球はどっちに転ぶか分からない不思議なところがあります。わたしの場合もラグビーをやめたことが転機となり今に至っています。体を壊して競技が続けられなくなった時、「ラグビー部を辞めたので大学も辞めます」と当時の大西鐵之祐監督に申し入れたら、「ばか者。そう思うなら今にラグビーを見返すほどの人間になれ」と逆に励まされました。その言葉はいつもわたしの心の中にあり、こうして協会の会長を引き受けているのも、W杯日本招致に責任を持ったのも、少しでもラグビーに奉公できればとの思いからでした。

 早稲田ラグビー部での期間は短かったけれど、グラウンドに入れば上下関係はなく、みんな大人でした。レギュラーじゃなくてもチームに貢献するため、黙々と練習をしていた。ルールを守り、自分をこらえる精神がなければこんな激しいスポーツはできない。紳士だからこそそれができるのです。それが、ラグビーは人間形成にもなるというゆえんです。選手の皆さんにはそんな素晴らしいスポーツをやっているとの自覚と誇りを持ってほしいです。

今は耐える時 格の違い忘れて戦え

 ラグビーの仲間は、先輩がいつまでも後輩たちと伝統を守っていこうという思いが強いです。今の明治は一生懸命努力しているだろうが、何かがかみ合わないのでしょう。しかし、早急な結論は求めてはいけない。また、そんなに早く成果は出ない。どこもいろんな辛酸をなめて戦い続けて強くなるのだから、3年はかかる。ゼロからのスタートだと思って愛情込めて見てやらないといけないでしょう。それには、大学自体が学生と共にどうバックアップしていくか。要は弱いからこそ応援してやらなくてはいけない。国立競技場をいっぱいにすれば、選手たちはこんなに自分たちを応援してくれていると感動するはず。何といっても明治の士気を高めさせることです。

 あいつらにだけは負けないという思いが伝統の一戦にはある。どんなに早慶戦が盛り上がっても国立競技場でやることはない。それが早明戦の意義です。今年も早稲田が強そうですが、格の違いなどは考えない方がいいでしょう。明治を応援にきた人たちに、明治に期待して来てくれるファンに失礼のないように頑張ってほしいです。     (談)

◆森喜朗 もりよしろう 60年早稲田大学商学部卒業後、69年に衆議院選挙で初当選。00年には第85代内閣総理大臣に。現在は日本ラグビーフットボール協会会長を務め、19年ラグビーW杯日本招致に貢献