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(28)全日本選手権直前インタビュー 山隈太一朗

フィギュアスケート 2022.12.20

 いよいよ冬の大一番、全日本選手権(以下、全日本)が開幕する。最高の演技を目指し日々練習を重ねる選手たちに懸ける思いを伺った。夢の大舞台でそれぞれの熱い思いを表現し今年度一番の感動を届ける。

(このインタビューは12月14日に行われたものです)

 

第6回は山隈太一朗(営4=芦屋国際)のインタビューです。

 

――体の調子はいかがでしょうか。

 「いいと思います。体調もいいし、コンディションというか体のキレに関してはすごく良くなっていると思います。自分が思っているよりも動けるようになってきていて、自分の中では感覚があまり良くないなと思う時でも外から見た時はすごく良かったりするのは、実際にはしっかりと自分が動けていることの証拠だと思います。自分の中での感覚も良くなればもっと良くなるのかなというところもありますが、ちょっとそこはそこまで作れたらいいですけどという感じです。全日本に入るとコンディションも良くなっていくと思うので、少し楽しみですね」

 

――ご自身で思っているより動けている理由は何でしょうか。全日本に向けて気を張っているということですか。

 「いや、まさに逆と言うか。もちろん体調管理はしっかりしているし、食べるものも気を付けていますが、むしろ東日本選手権(以下、東日本)の前の方がもっと気を張っていたなと思います。今の方が自然体ではないですが、すごく楽に生活できているなあというのは感じますね」

 

――最後の全日本ということで気持ちが高ぶっているということはないのですか。

 「全然落ち着いています。『最後だからいい演技がしたい』とか、『最後だからいい結果を残したい』とか、そういう風に思うのかなと思っていたのですが、最後だからという気持ちがそもそもそんなに自分の中になくて。むしろここから起こる全てのことや、自分がどういう演技をするか、どういう結果が残るかというのは自分の集大成になるわけで。そこでどういうものになろうと、『それが俺だったな。それが俺の競技人生だったな』というのを示すものになると思うから。最後にもちろんいい演技ができればいいけれど、どんな演技をしても、それが自分らしいと思います。

どんな演技をするかではなく、最後にその場所で滑れることの幸せと、あれだけのお客さんに囲まれてスケートをするということは、この先あるかどうか分からないし。全日本という本当に競い合う雰囲気の中で演技をするということ自体がもう本当この先レアな経験になるというか、この先経験できないことになると思うから、それをしっかりかみ締めて、肌で感じて滑りたいなという思いがすごく強いです。どういう演技かどういう結果を残すか、というところに対しては自分の意識が全く向いていなくて、そういうところから恐らくすごく落ち着いているのだろうなと思います」

 

――目先の結果を気にしないところは最後の全日本を前にしてもブレませんね。

 「もう予選がなくなったというのは大きいかもしれないですね。残されている試合は全部決勝戦なので。何だろう、失うものがないということがあるかもしれないです。東日本の時は、そこで落ちたら最後まで戦い切れなかったという風に感じると思う。やはりそれは失うものの一つだから。失うものが一つあるとすごく恐怖を感じるなとは思いましたね。多分ここから先は決勝戦だから、楽に滑れると思います」

 

――SP(ショートプログラム)やFS(フリースケーティング)でどのようなことを表現したいか改めて教えてください。

 「どちらもすごく大好きな曲で、どちらも手応えがありますが、FSがやはり母親が滑ってほしいと言っていた曲だし、それを届けたいというか、最後にその曲を全力で表現しているところを見せたいですね。自分の中でSPとFSは対照的な気がしていて。動きにしても曲調にしても、SPは自分が滑れている幸せとか楽しさを一番表現しやすいなと思っていて、動きのテンポなどが楽しく踊っているのを表現しやすいかなと。だからSPでは弾けているところを皆さんに見せたいし、逆にFSでは僕が一番好きな感情表現の方法というか、曲調的にテンポの速い曲よりもすごく情感を込めるような、一つ一つの指先からツーっと力が出続けているような、誰かを思うような感情表現の仕方が僕は一番好きなので。SPは楽しく、FSは自分の一番好きな表現をするというところで、すごくメリハリというかコントラストがあるので、そこを出したいというかそれさえ出せればいいかなと思っています」

 

――情感たっぷりな感じの表現方法は、弾けるような感じに比べてどのようにお好きですか。

 「例えばですが『好きなように踊ってください。氷の上で表現してください』という課題が出たときに、僕は『誰かを思う』みたいなそういう情感を込める音楽を使って表現すると思うんですよ。リズミカルに踊るのもすごく好きだけれど、溢れ出すものというかグワーッと自分の中で盛り上がってくるものを一番拾えるのは情感のある表現なので、だから多分一番好きなのではないかなと思います(FSを踊っていたらグワーッときますか?)むしろそうならない日はないですね。もう今の曲に関しては普通に流しているだけで少し動きたくなるような感じがするので、試合前とかたまにSPの前にもFSの曲を聴いています。音楽がまずすごくいいから、僕が滑る滑らない関係なしに、本当にサロメ(サロメ・ブルナー)の編集が完璧すぎて。完璧に仕上がっているので、その曲で滑るというのは嬉しいです」

 

――感情が湧いてきて伝えたい相手は、やはり曲を選ぶきっかけともなったお母様ですか。

 「どうなんでしょう、あまり伝えたいという感じではないですね。伝えたいというか、『伝わってくれればいいな』くらいです。その人にターゲットを絞るわけではなくて、これは表現の方法として間違っているかもしれないんですけど、自分が出すということにフォーカスしている感じです。自分が思っているものや感情を、全力で放つんですよね。自分の動きや感情表現で、それを皆さんが受け取ってくれたらいいなと思います。受け取ってもらうために出すのではなく『自分がとにかく出す』みたいな。自分がそれで思い切り感情を発散していること自体が目的だから誰かに届けるためというよりも、悪く言うと自己満のような感じなのですが。『僕が僕なりの表現を全力でします。それが皆さんに伝わればいいなと思います』という感じで、誰かに伝えたいというよりも自分で表現したいものにする、出したいものを出すという感じですかね。予選の時は見ている方に『(山隈選手は)予選通過できるかな?』みたいな怖さがあって、皆さんやはり結果が頭の片隅にあったと思います。次はその結果を気にせずに見てもらえる、ある意味で全日本はすごくいい場所でできるのではないかなと思います。

 大学に入ってからほとんど無観客の大会で、僕が育ってきたスケートの世界とは少し変わってきてしまっていて、本当に寂しい気持ちです。歓声が聞こえてくる全日本をもう味わえないのは悲しいですけど。思わず皆が声を出してしまうような、そんな演技ができれば最高ですが(声を出してはいけない)ルールなのでね。そこは少し寂しいなと思います。それでもやはり皆さんがいるというだけで、観客席を見た時にそこにお客さんがいるというだけですごく力をもらえるし、本当に満員の観客の人たちの前で滑るのが本当に今も楽しみですね」


 「今回の会場の東和薬品RACTABは、僕が最初に出た全日本の時に会場だった場所で。最初と最後が同じ会場ということで縁を感じるし、大阪は地元なので楽しみですね。あの場所は会場の雰囲気も好きなので、やはりあそこでもう 1 回滑れるのはとても楽しみです。一番初めに全日本の感動を得られた場所だし『わー、これが全日本か』と思いながら滑っていた思い出があるし。あの時と今で感情は違いますが、同じように楽しむことができたらなと思いますね」

 

――最近はスケート以外に何をしていますか。

 「最近ですか……家とリンクの往復しかしていないです。あ、でもサッカーワールドカップは今のところほぼ全試合、5試合ぐらいちょっと観れていないのがありますが、ほとんど全部フルで観ています(リアルタイムでですか?)いや、見逃し配信で観ています(笑)。グループリーグは途中までリアルタイムで観ていましたが、12月の2週目くらいからはさすがにしっかり寝るようにしています。あとはFIFAのゲームもやりました。もう最近『自分がサッカー選手だったら』と思うことが多いですね。(本当にサッカーお好きですね。もしサッカー選手だったらどのような選手だったと思いますか?)多分ものすごいエゴを持っているストライカーだと思います。小学校2年生の時ぐらいまでやっていましたが、超わがままなFW(フォワード)だったことだけ覚えています。すっごいめちゃくちゃうまいとかではなかったのですが、めちゃくちゃ点は決めていたので、珍しいタイプのFWだったなと今になって思います。ただその代わりチームプレーが全くできていなくてとても怒られていました。あのまま育っていれば面白いFWになっただろうなあと自分で勝手に思っています(笑)(ということは個人競技のフィギュアスケートが向いていたのでしょうか?)いや、向いている、向いていないで言ったら僕向いていないと思いますよ。多分育ってきたものによるのだと思います。小さい頃から表現するのが好きだったかと言われたら、踊ることは好きでしたし、表現するのもすごく好きだったけれど、その好きはサッカーと同じぐらいというか、サッカーが昔は一番好きでしたから。スケートの方はシフトしてからどんどん好きになっていったし、ノービスとか、ジュニアの最初の方とかそういうのを意識せずにやっていましたし。自分で『スケートが好きなんだな』と認識したのは高校ぐらいからです。みんなには『サッカーをやっていたら全国なんか行けなかった』と言われますが、僕は行けたと思っています(笑)。むしろサッカーだったら多分とても練習していると思います。氷がなくてもボールがあれば練習できるので(笑)」

 

――最後に全日本に向けて意気込みをお願いします。

 「また大阪のあの会場で滑れるということ、僕の最初と最後の全日本が同じ会場ということにはすごく縁を感じますし、その場所でまた滑れることがすごく幸せです。またあの満員のお客さんの前で、全日本でしか味わえないあの雰囲気を味わうことができるということがすごく楽しみです。最後にその雰囲気を感じて、その幸せを全身で表現できたらなと思うので、皆さんもぜひ最後に僕の演技を心の底から楽しんで観てもらえればいいなと思います。皆さんに感謝の念なども伝えられるように、全力で表現するので、応援よろしくお願いします」

 

――ありがとうございました。

 

[向井瑠風]


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