(118)第552号特別インタビュー⑭/射場雄太朗長距離コーチ

2025.12.28

 今回は明大スポーツ第552号で扱った選手や指導陣の、掲載し切れなかったインタビューをお届けします。

 第14回は射場雄太朗長距離コーチのインタビューです。(この取材は11月28日に行われたものです)

――今年度から寮への住み込みが始まりましたが、選手の生活面の印象はいかがでしたか。
 「最初に断っておくと、ほとんどの選手は規律正しく、競技に対して前向きに生活しています。ただ箱根駅伝で上位、トップを狙う組織としては『大体できている』では足りません。徹底し切れていない部分で、取りこぼしがあったのは事実です。1週間のうち大半はしっかり練習に出て、時間も守りますが、中には規律違反や不注意によるミスをする選手がいました。選手は息苦しいと思うかもしれませんが、箱根予選のように『1秒を削り出す勝負』の世界では、ちょっとした緩みやほころびがチームの結果を左右します。そういった細部の徹底という点では、まだ課題があると感じています」


――明大の選手たちに対し、どのようなイメージを持ちましたか。
 「明治の選手は高校時代に全国大会など大舞台を経験し、活躍してきた選手が多いです。そのため、自分の考えや競技に対する哲学、こだわりをしっかり持っています。指導の際も、1から10まで指示を出すというより、まずは各々の考えを聞いた上で話をすることを心がけています」

――長距離コーチとして、普段からどういった声かけを意識されていますか。
 「何かを伝えるよりも、まずは『聞き出す』ことを大切にしています。問いかけから始め、選手が自分の考えを言葉にする中で、本人も気づいていなかった思考を再確認してほしい。問いかけにうまく答えられなかった時は、『考えているようで考えていなかった』という気づきにつながればいいと思っています。選手が日々何を考えているのかを再確認するため、あえて同じような質問を繰り返すことも多いですね」

――5月の全日本大学駅伝予選会(全日本予選)はいかがでしたか。
 「4月にチームに加わって予選まで2カ月足らずでした。前監督が退任されてからの空白期間を整え直す段階で大会を迎えたのが正直なところです。『もっと万全なメンバーを組めたら』という思いはありましたが、当時のベストは尽くせたのではないかと思います」

――その後、夏合宿ではどのようなことを重視して練習を進めましたか。
 「昨年度の予選会が暑い中での過酷なレースだったことを踏まえ、6月から8月は暑い中で土台固めと足作りをすることを重視しました。同時に、脱水症状を防ぐために氷の用意やこまめな給水など、安全に練習できる環境作りを徹底しました。結果として倒れる選手が出なかったのは狙い通りでしたが、振り返ればもっと練習したかった、今年度用意してもらったマイクロバスを活用して、クロスカントリーなど多様な地形での練習をもっと増やしたかったという反省もあります」

――長い夏合宿の中で、継続すべき点や改善すべき点は見えましたか。
 「私は主に選抜外のAチームに帯同しました。普段は授業などで練習時間がバラバラですが、合宿で同じ空間・同じ時間を共有することで、選手たちは普段以上に集中し、前向きな声掛けをしていました。特に、4年生の井坂佳亮(商4=水城)が呼び掛けて始めた夕食後の『1人スピーチ』は良かったです。選手たちがみんなの前で話す言葉は非常に前向きで『BチームでもA以上に』といった発言は責任ある行動につながっていました。一方で課題は、やはり私生活と同様に『詰めの甘さ』です。合宿後半に疲れが出てくると注意力が散漫になり、ストレッチなどのケアが疎かになる選手もいました。自分たちで決めたことを貫き通す。これが今後の課題です」

――Bチームの中で、特に成長を感じた選手はいますか。
 「早々にAチームに上がりましたが、小川心徠(情コミ1=学法石川)と宮下十碧(商2=鹿児島実業)の2人は非常に良い練習ができていました。練習前の準備から他の選手より一足早くストレッチや補強をしており、その姿勢は他選手から見ても突き抜けていました。小川が予選会(箱根予選)のメンバー14人に入ったことは、他の1年生にとっても刺激になったはずです。また、1年生の三平弦徳(営1=伊賀白鳳)、山本拓歩(農1=浜松日体)、中野大翔(法1=成田)、小松映智(理工1=名経大高蔵)の4人も印象深かったです。残念ながら最後はケガで離脱しましたが、ハードな練習への姿勢やケアへの取り組みは申し分ありません。頑張りすぎて無理をさせてしまったのは指導側の反省でもあります。彼らの気持ちを結果につなげられるよう、ともに向き合っていきたいです」

――エース核の綾一輝選手(理工3=八千代松陰)がケガを抱える中、どのような声掛けをされましたか。
 「彼は2年時からケガが続いており、早期復帰したいという思いが行動に表れていました。それだけに、8月にケガをして箱根予選に出走させてあげられなかったことは、スタッフとしての責任を感じています。現在は外部の専門家の力も借りて治療を進めています。来年度は彼にのびのびと走ってほしいですが、その思いが重圧にならないよう気をつけています。私自身もケガが多かったので分かりますが、一番の解決策は足が治って走れるようになること。現状はしつこく言い過ぎず、話を聞いて見守ることを大切にしています」

――箱根予選では通過を逃したものの、大湊柊翔(情コミ3=学法石川)選手、森下翔太(政経4=世羅)選手、堀颯介(商4=仙台育英)選手の3人の走りを見て、役割を果たしたように感じました。
 「彼らは役目を果たしてくれましたが、ポテンシャルを考えれば62分台で走れてもおかしくない選手たちです。森下は、大学2年時から苦しんできた中で、きっかけとなる彼らしい走りを見せてくれました。大湊は5月に腰を痛めてから、あえてBチームでじっくり足作りをするプランを選びました。9月から調子を上げてあのような走りができたのは、プラン通りだったと言えます。堀に関しては、選抜合宿でもチームを引っ張る走りをしていましたが、まだ殻を破りきれていない印象でした。ただ、その後のMARCH対抗戦2025で自己ベストを更新し、本来の姿に戻ってきたと感じています」

――他に印象に残った選手はいますか。
 「よく走ったのは古井康介(政経4=浜松日体)です。箱根予選前はプレッシャーからか不安が走りに出ていて心配していましたが、ふたを開けてみれば最上級生としての経験を生かした見事な走りでした。また、ロードに強い土田隼司(商2=城西大城西)もよく粘りました。本選でさらに味が出るタイプだと思うので、個人的には彼が箱根路を走る姿を見てみたいです。一方で、井上史琉(政経2=世羅)は期待していた分、レース中に足をつってしまったのが悔やまれます。水分補給や余力の問題など、来年度までにクリアすべき課題が見えました」

――上尾シティハーフマラソンやMARCH対抗戦を経て、感じたことはありますか。
 「箱根出場校との差が如実に出たと感じています。箱根予選を走った10人だけでなく、チーム全体の力の差です。選手たちにも伝えていますが、大湊や綾といった特定の誰かだけでなく、全員が強くならなければ来年度の箱根は見えてこない。序列に関係なくチーム全体のレベルを上げていくことが急務です」

――MARCH対抗戦では、桶田悠生選手(政経1=八千代松陰)がスランプを脱する走りをしました。
 「彼は真面目ゆえに、結果が出ない焦りが能力にふたをしていました。レース前、彼には『能力は上がっているから、結果が出るタイミングはコントロールしなくていい。やるべきことを続けていれば必ずブレークする』と話しました。今回の結果で焦りが消え、良い精神状態で走れるようになれば、さらに記録は伸びるはずです」

――大湊選手は新チームの主将になりましたが、エースとしての走りをどう見ていますか。
 「MARCH対抗戦の大湊は、課されたプレッシャーに翻弄(ほんろう)されて力を出し切れない印象でした。ただ、直前の合宿ではトップクラスの練習ができており、能力に疑いはありません。これからはエース、そして主将という重責を背負うことになりますが、それを乗り越えた時、彼はもっと強くなれます。彼の走りがチームメートに大きな刺激を与えるはずです」

――大湊主将、綾副将の新体制についてどのように捉えていますか。
 「大湊が自ら『キャプテンになります』と申し出た際、同級生たちもすんなりと受け入れました。綾も自ら副主将に立候補し『キャプテンをしっかり支えたい』という強い意志を感じます。2年連続で本選を逃した重圧はありますが、役職のない選手も含め、全員でチームを引っ張っていってほしいです」

――今後、特に期待している選手を教えてください。
 「たくさんいますが、まずは3年生の石堂壮真(政経3=世羅)。全日本予選と箱根予選の両方で悔しい思いをした経験を、来年度の糧にしてほしいです。また、成合洸琉(情コミ2=宮崎日大)と阿部宥人(政経1=西武台千葉)にも期待しています。成合は病気で箱根予選を逃しましたが、勝負強さと集中力を持っています。阿部は1年目にケガで苦しみましたが、将来の明大の中心を担うポテンシャルがある。来年度は練習をコンスタントに継続させ、本番で力を発揮させてあげたいです」

――最後に、ファンの方々へメッセージをお願いします。
 「箱根予選では、どの大学よりも多くのファンや保護者の皆様が沿道で応援してくださいました。予選12位という結果に厳しい言葉も覚悟していましたが、温かい言葉をいただき、改めて期待に応えなければならないと強く感じました。私や大志田秀次駅伝監督の頑張る原動力は、皆様の期待にあります。結果で恩返しすることが最大の役目だと思っていますので、引き続き見守っていただければ幸いです」

――ありがとうございました。

[橋場涼斗]