(14)全日本直前インタビュー 住吉りをん 「今までやってきたことの全てを出し切る」 

2025.12.16

 国内最高峰の大会である全日本選手権(全日本)がいよいよ12月19日に開幕する。この大舞台のために選手は日々研さんを積んできた。今シーズンの大一番を前に、選手それぞれの思いを伺った。

(この取材は12月11日にオンラインで行われたものです)

第4回は住吉りをん(商4=駒場学園)のインタビューです。

――現在の体の調子はいかがですか。
 「すごく元気で痛いところはほぼなくいい状態で練習できています。メンタルもすごく安定しているしスケートの調子もいい状態になってきているので、とにかくインフル、風邪とかにならず、けがしないというのを一番にとりあえず体に疲労をためないように整えています」

――大学には行かれていますか。
 「そうですね、週に1回ゼミだけ行くようにしています」

――座禅は今も行われていますか。
 「はい、続けてやっています。(毎日やられていますか)そうですね。だいたい毎日10分弱ぐらいでやっていて寝る前の習慣になっています」

――現在の練習量としてはどのくらいでしょうか。
 「基本的にあまり変わってないですね。練習量を極端に増やす、減らすというのはあまりしていなくて。だけどその中の割合としてジャンプをガッと集中して短い時間でやるという感じで。1日2、3時間ぐらいです」

――今シーズン海外遠征が多く大変お忙しい日々を送っていらっしゃいますが、リフレッシュはできていますか。     
 「なるべくオフは取るようにしています。1日オフがあったら、外に行って何かしら景色を見たりパン屋さんに行ったり、カフェに行ったりもします。でも逆に今日は疲れているなという日は家から出ずに本を読んだり、パンを自分で作ってその合間の時間に本読んでみたいに、元々はインドア派なので外に出たら出たで好きで気持ちいいなと思うのですが、家の中もすごく好きなので、どっちもの休日はつくっています」

――全日本に向けて現在の心境を教えてください。
 「今はあまり緊張の波が来ている感じはしなくて。すごく気持ちよく楽しく練習ができています。その中でも全日本の会場の雰囲気とか、リンクでの視界だったりとか、自分の感触、聞こえるもの、見えるものとかをイメージしておく練習をすでにしているので、それがどんどんより明確になっていったらイメージできているからという感じで試合に安心して臨めるかなと思います」

――全日本は毎年独特な空気感があると思います。最初に緊張を感じるポイントはありますか。
 「そうですね。私の場合は弱めの緊張がメイクの時とか、アップに入った時とかからあって。全日本の会場に流れている雰囲気がすごく独特で、それが会場についたタイミングで何かそういうものを感じるところがあって。去年はそこで『顔がこわばってたよ』と後から言われて。自分の中で一番感じたのは6分間練習が終わって、自分の本番前に1回靴を脱いで履きかえたあたりで心臓がえぐられるような緊張がSP(ショートプログラム)もFS(フリースケーティング)も同じタイミングで来たんです。グッという緊張が。逆にそれを感じて、『緊張してます』みたいに吐き出したのがそれはそれでよかったのかなという気がして、今年も心臓えぐられるような緊張がどこかのタイミングできっと来るんだろうなと思っているのでそういう時に吐き出したり、なるべく話して外に出すのが去年みたいにできたらいいのかなと思います」

――今年は五輪シーズンということもあり、多くの選手がここに照準を合わせてくると思います。住吉選手が現時点でプログラムので課題と感じている点があれば教えてください。
 「プログラム自体は最初のポーズから最後のポーズまで1点も気になる部分のない状態に仕上げてこられた自信があるので、あとはとにかく余計な思考が入る隙間をなくすことにフィンランド(GPシリーズフィンランド大会)の後からフォーカスしてきて、動き一つ一つに対して、自分がその動きをした時に機械的に頭の上に浮かぶことが行われるというか、脳みそと体がしっかり連動することで余計な考えが入らないようにというトレーニングを今はしています。それがまさに本番でできれば、何の問題もなく集中したまま最後まで滑り切れるかなと思います」

――続いてここまでの今シーズンについてお聞きします。初戦のロンバルディア杯で優勝、連戦となる中で臨んだ東京選手権では優勝を果たしました。シーズン前半を振り返ってみていかがですか。
 「そうですね。夏終わりくらいからすごくいい調子を維持することができて、自分の体を思った通りに動かすことができる状態を維持できていたので、そこがやはり試合でも不安なく、自分が思っている通りに体が動いてしっかり試合でも出せれたというのが、試合でもいい成績を残すことができた要因だと思っています。でもシーズン後半、フランス(GPシリーズフランス大会)が終わってからそれが崩れていたので、フィンランドでのことはやはり必然だったのかなと思います。ロンバルディアとかブロックとか、フランス大会のときの自分の体の動きと脳みそからの指令がしっかり体にいって、自分のイメージ通りに試合を運ぶことができている状態が自分にとっていい状態で、それに今また戻すことができているので、よくも悪くも、良かった試合、悪かった試合とで比較して自分の中で理解することができて、良い状態に今戻すことができたし、さらにそこに4回転の調子も夏以上にいいものに今なってきているので、4回転に関してはもう思いっきりしっかり集中していって、それ以外はとにかく自信を持っていける状態に仕上げてこられているかなと思います」

――GPシリーズフランス大会では自己ベスト216.06点を更新と圧巻の演技でした。
 「あの試合に関してはイメージ通りにできた部分がすごく多くて。一か八かでやってできたみたいな良さじゃなくて、思った通りの体の動かし方をすることができた結果、気持ちいいスケートができた試合になったので、そこが今までと違ってたまたまじゃなくて、しっかり自分の思っている通りに体を動かした結果できたという経験、そこが良かったなと思います。でも一方、あの状態ではまだ全然足りていなくて自分の体が自分のイメージ通りに動かせることが分かって、それをさらに良くするためにそこからブラッシュアップしてきたので、フランス杯でできたこととまだ足りないとわかったことを掛け合わせるための材料としてプラスになったかなと思います」

――昨年度のフランス大会でも高得点を出されていました。フランスとの相性の良さは感じていますか。
 「そうですね。自分にとってやはりこれだけ何度も行かせていただいていて慣れているから安心感だったりとか、イメージもしやすいとか。いろんなルーティン的なものとか、自分にとって快適な試合運びになっているのはすごく大きいかなと思います」

――試合によっておそらく氷の堅さが全然違うと思いますが、氷の感触としては滑りやすさなどはあるのでしょうか。
 「特に他のリンクよりやりやすい、大きく違うことは全然なくて。本当に気持ち的な問題とか、あとは私の場合、視界から入ってくる情報にかなり左右されやすいと自分で感じているので、どういうふうに視界から情報が入ってくるかというのが、何度も行っていてイメージしやすいのはアドバンテージになっていたのかなと思います」

――直近ではフィンランド大会がありました。振り返ってみていかがですか。
 「SPに関してはある程度自信を持って入った中で、ステップはフィンランドに向けてフランスからブラッシュアップしてきた部分だったので、そこでの思ってないミスがあってすごく悔しくて。そこから立て直すことができなかったのが、自分の中で一番悔しいところです。そこの立て直せなかった理由としては、練習での調子が上がりきれてなかったことによる自分を信じきれない状態があったかなというふうに思うので、その細々とした不安が最終的にああいう結果に繋がってしまったのかなと思っています。そういう結果から最初は目を背けたい感じではあったのですが、後から考えるとあれは必然だったなと自分で納得していて。なので、どうしてそういう細かい不安が起こったのかというところを、不安の目を積んでいく作業をフィンランドから帰ってすぐに行ったので、もちろんいい演技ができたら一番良かったのですが、あれがあったからしっかり不安の目を積む作業もできたし、それのおかげで今すごく自信を持つことができているので、結果的には悔しいですけど、それのおかげでしっかり盤石な状態で全日本に向かえているなと思います」

――同大会ではFSの衣装が変わっていました。
 「そうですね。本当に今までの衣装もすごく好きで、ずっとあれでいこうかなと思っていたのですが、やはり飽きてしまっている人もいるかなみたいな。少しイメージチェンジをしようという感じで。振付師さん、シェイリン(シェイ=リーン・ボーン氏)、紀子先生(佐藤紀子先生)とか、衣装さんと相談して私自身あの色合いがすごく好きなので、色合いを変えず、だけど少しイメージチェンジして、少し風をきるように布がひらっとしたりとかして、よりスピード感が現れるような生地感にしていただきました」

――全日本では、どちらの衣装を着られる予定ですか。
 「一応新しい仕様、フィンランド大会のほうでいこうと思っています」

――フィンランドに行かれた際に、観光などはされましたか。
 「女子みんなでオールドマーケットとヘルシンキ大聖堂にお散歩に行ってサーモンスープ飲んだり、クリスマスだからなのか、小物とか帽子とかいろんなものを売っているお店があって、そこを見て回ったりとかしてすごくリラックスして楽しめました。(何か買われましたか)そこでは買ってなくて、ムーミンショップで、水筒とか缶に入ったクッキーとかお土産、紅茶とかのムーミングッズを色々買いました」

――今シーズンは国際大会の出場が多かったと思います。その中でメンタル面、技術面で成長を感じた点はありましたか。
 「そうですね。初戦になったロンバルディア杯で優勝したのも大きくて。そこでやはり自分自身優勝することの大切さというか、そこを目指すべきだというところを再確認することができて。それのおかげですごく自分自身力強いスタートが切れたかなっていうふうに思っているので、国際大会の方が割と自分自身楽しむことができるっていうところはあるので、そこで何度か経験を積むことによって、全日本に向けてすごくいい準備を重ねられたシーズンにできたのかなと思います」

――今シーズン、スケーティングの伸びが試合を重ねるごとに増している印象です。
 「そうですね。今シーズンはたくさんミーシャ(ミーシャ・ジー氏)もシェイリンもブラッシュアップでレッスンしてくださって、その度にどこならもっと増やせるかなとか、どこにフォーカスするとより良くなるかなとか本当に細かいところまで気を配って練習することができているし、やはりFSに関しては2年目だからプログラムの中にも余裕ができて、より滑りを良くしていくということもできるし、SPに関しても、1年目とは思えないぐらいの熟成度合いに自分の中でできているなと感じていて。だからこそもっとここまでいこうとか、もっとここを綺麗にしようというほんとに細かいところまで追求できているのが、そうやって見て思っていただけるところに繋がっているのかなというふうに思っているので、振付師さんたちへの感謝が大きいです」

――今シーズン、シニアデビューを果たした中井亜美選手(TOKIOインカラミ)がGPファイナル初出場を果たしましたが、住吉選手にとって刺激となった部分はありますか。
 「ほんとにロンバルディアとフランス一緒に行って、練習からすごく真面目にやるし、私生活から何から自分のスケートと向き合っていて。若いのにすごくしっかりしていて本当にすごい子で純粋に尊敬しますし、だからこそあれだけの安定感ある演技ができるんだなと思って見ていて、若さとか、エネルギー、フレッシュさの中に真面目さがあるのが亜美ちゃんの強さだなと思うのでそこは単純に尊敬しつつも、そこに対して自分は5歳ぐらい年が上な分、それだけ成熟したプログラムで対抗できたらいいのかなというふうに思ってやっています」

――次にジャンプ、技術面に関してお聞きします。現時点で4回転トーループの着氷率はどのくらいでしょうか。
 「日によってというところがすごく大きいです。日によって3割~8割みたいな感じでほんとに全然違って、なんとも言えないのですが、平均すると50%とかになるんですかね。そのくらいです」

――8割跳べる日というのは、何か要因があるのでしょうか。
 「元々そんなに跳ぶ回数が多くないのですが、少ない回数でもしっかり跳べる日というのは、まず体の動きがいい日、アップから足の力とか上半身の力が連動して伝わっているなという日は、すごく体が浮くし、回転のかけが早いところがあってそこにプラスしてやはり集中できる練習環境の日は自分の体の動きにしっかりフォーカスできるので確率も上がるかなという感じはします」

――3回転ルッツに関してはいかがでしょうか。
 「ルッツが自分の中でFSにも2本入っていますし、SPでもコンビネーションの中に入っているので、すごくキーになってくるジャンプだと思っていて。実際ルッツに関しては、自分は飛べた時の綺麗さがすごく自分の中で武器だと思っているので。調子が悪かった時期、フィンランドの前とかは集中していれば飛べるみたいな感じだったのが、今は集中に左右されず、しっかり意識を向けるべきところがこことここだという感じで、そこにだけしっかり意識を向けることで確実性も上がってきたので、ルッツのクオリティは元々自分の中で自信があったのですが、そこの精度が上がってきたのが注力してよかったかなと思っています」

――今シーズンジャンプの回転判定がかなり厳しい印象を受けます。回転の入り、空中姿勢、着氷の中で特にどこを意識していますか。
 「そうですね。私の場合、結構高さは自然と意識しなくても出るところがあるので、とにかく回転の初速が遅れないようにというところは一番意識しています」

――全日本で表彰台、1位を目指すにあたって、住吉選手が考えているキーポイントは何かありますか。
 「周りに関しては、どんな演技をするとか自分の制御範囲にないことなので、ほんとに自分ができることを全て出しきるのが、そこに近づくためにやるべきことの全てだなと思っています。順位とか点数とかあとのことは、もう周り次第というところになってくると思っていて、SPもFSも、最初のポーズから最後のポーズまでずっと自分がフォーカスするべきことにフォーカスするための集中がとにかくキーポイントになると思います」

――住吉選手個人でいうと、点数では何点が壁になるのでしょうか。
 「最低ラインとして220点は絶対出さないとダメだと思っています。自己ベストが216点なので、もちろんそこを超えないといけないというレベルではあるのですが、そこを最低ラインとしても220点は最低ラインになると予想しているので、できる限りの全てを出し切って、もう出せる限りの点数を出すという気持ちでいます」

――改めて全日本へ向けて意気込みをお願いします。
 「もう今年の全日本は、とにかく今までやってきたことの全部を出し切る全日本にしたいなと思っているので本当にやってきたことを信じて一つ一つ丁寧に最初から最後まで集中を切らさずにできたらなと思います」

――最後にファンの皆さんへメッセージをお願いします。
 「いつも応援ありがとうございます。全日本では全てを出し切って、自分自身も喜んで周りも喜んで自分も周りも感動させるような演技ができたらなというふうに思うので、温かい応援いただけたら嬉しいです!よろしくお願いします」

――ありがとうございました。

[杉山瑞希]