(67)~The road to Recapture~ 神鳥裕之監督 「最後の最後まで、突き詰めていく」

2025.12.01

 「最後の1分1秒までスキを見せず、全力を尽くす」。平翔太主将(商4=東福岡)がスローガンである『完遂』に込めた意味だ。関東大学対抗戦、全国大学選手権制覇の渇望を胸にラグビーに向き合ってきた4年生は明大での日々を振り返って何を語るのか。4年間の総括とラストシーズンの意気込みを伺った。11月7日より連載していく。

 第25回は神鳥裕之監督(平9営卒)のインタビューをお送りします。(この取材は11月9日に行われたものです)

――今年度のチームはいかがですか。
 「去年試合を経験した選手たちが多く残るチームなので、経験値という面では非常に高い選手がそろっている印象かなと思います。やはり明治のラグビーは、セットプレーのスクラム、ラインアウト、モールにすごくフォーカスされますが、そのレベルにおいても昨年のチームがスタートした時よりはレベルの高いところにあるので、そういう部分では本当に楽しみなチームだと感じます」

――幹部陣の印象はいかがですか。
 「(平)翔太(主将・商4=東福岡)はどちらかというとたくさん話すタイプではないので、オフフィールドの面も含めて、チームを静かにまとめるタイプです。利川(桐生・政経4=大阪桐蔭)は背中で引っ張るタイプで、楠田はグラウンド上も含めて話すのが上手なタイプなので、翔太がより全面的にキャプテンとして自分の考えていることを伝えることができるようになれば、もう少しこのチームがまとまっていくかなと思います。それぞれの良さがバランスよく出てきているんですけど、チームの顔として、しっかりと考えていることを伝える重要性を感じて、そういうことが少しでも増えてくれば、かなりまとまってくるかなと思います」

――春先は『明治のFWを再構築すること』を目標として掲げられていましたが、メンバーの入れ替わりが激しい中でクオリティの維持はいかがですか。
 「シーズン序盤にいろいろなことがあって、チームとしては出遅れたところはありますが活動自体は、春季大会、夏合宿でも継続して、FWの強化をやっていたので新しく入ってきている佐々木(大斗・政経1=常翔学園)辺りがチームに加わって、さらに充実したものになっていると思います。そのため昨年のレベルよりも高いところからスタートをして、春夏を通じて継続した強化がうまく進んでいて、そこにケガもあったけれども、逆に新しい選手が芽を出してきたところを合わせながら、今ケガ人たちも戻ってきているので、そういう部分において非常にいい形で成長プロセスを経ているイメージです」

――今年度の対抗戦は混戦ですが、その中で明大の立ち位置をどう見ますか。
 「我々は残り2戦になっているんですけど、自分たちのことにフォーカスするということが一番大事になるかなと思います。いいことも悪いことも、こういう状況になった時にいろいろな声が聞こえてくるのは、明治のラグビーの宿命でもあり、逆に我々はそういうチームにいることをプラスと捉えて。今までの戦いぶりを見ると、ちょっとしんどいんじゃないかとか、いろいろな声援や叱咤激励が聞こえてきますけど、こういう時こそ自分たちはしっかりと自分たちのやっていることにフォーカスをして、目の前の敵に勝っていくマインドが必要かなと思います。それができれば、対抗戦の優勝が見えてくるはずなので、自分たちは目の前の帝京大、その次の早明戦としっかり勝つ気持ちでしっかりやりたいなという気持ちです」

――昨年度の早明戦を振り返っていかがですか。
 「早明戦は毎年それまでの戦績や今年のチームの調子が全く参考にならないのはずっと我々の時代から言われていますので、そういうものが本当に顕著に出たゲームだったなと思います。昨年度の早明戦は下馬評だと早稲田の方が評判が良かったですし、(早大は)帝京に大勝し、我々は帝京に負けて臨んだ試合でした。優勝するためにはかなり条件が多かった状況で挑んだ試合ですけど、蓋を開けてみれば本当にあと一歩のところで我々が勝利できる展開で、見ている人にとってもお互いのスタイルがぶつかり合うような、100回目の早明戦としてものすごく盛り上がったゲームでしたので、我々としては早明戦らしい試合をできたなと思います。結果的に勝者として終わりたかったですが自分たちの力を出し切れたゲームだったという印象でした」

――早大の警戒するプレーを教えてください。
 「一つはやはり10番の服部(亮太)くんのロングキックでエリアを取ってくる戦いと、従来の早稲田のスタイルの速い展開は、今年のゲームを見る限りさらに磨きをかけているような印象があるのでそこはしっかり警戒したいです。あとは日本代表で活躍している矢崎(由高)くんもおそらく出てくるでしょうから、このキーマンをしっかり抑えることは重要になると思います」

――目指すチーム像を教えてください。
 「『一貫性』を持つこともそうですし、監督やコーチやスタッフが言いたいことを、4年生が必死に体現、発言、行動してくれるようなチームを目指したいです。それは学生スポーツの究極というか、そういうことができれば結果は必ずついてくるだろうという僕自身の思いもありますので『完遂』というスローガンを掲げた以上は、それにふさわしい行動を、最終的には選手全員がとっているチームを目指したいなと思います」

――神鳥監督にとってスローガンである『完遂』の意味はどのようなものですか。
 「完遂は『完璧に遂行する』ということだから結果を見がちです。しかし、そうではなく完璧に遂行できるような状況をつくる確固たる覚悟と関わり、このプロセスこそが『完遂』だなと思います。人間はミスもするので、1年間『完遂』と言って、例えば遅刻しました、じゃあもう完遂できてないという捉え方にすると、どんどんチームはネガティブな方にいってしまいます。そういうことが起きた時に、それを良くするためにどうすればいいかを真剣に話し合えるような組織、関係性、ムードをつくことが私の考える『完遂』です。それを4年生が体現してほしいという話につながりますね。いっぱいミスをして『完遂』じゃないと怒るのではなくて、起きている状況をどう改善していくか、言葉通りの雰囲気にするためにどうすればなれるか、それを本気で真剣に考えるような雰囲気をつくっていくことが本当の意味での『完遂』だと思います。それを、最後までしっかり突き詰めていくということがこの10カ月で固まった自分の中の『完遂』だと思います」

――明大ファンの皆さんに一言お願いします。
 「今年度はいろいろな心配をおかけしたり試合の内容についても、(対抗戦の)開幕戦で敗北して期待を裏切るようなスタートにはなりましたが、チームは着実に目標に向けて成長してきており、自分たちのことを信じて戦うので、応援してくれる方たちも我々の優勝を信じて応援してほしいなと思います」

――ありがとうございました。

[晴山赳生、近藤未怜]

◆神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)平9営卒。2013年度より、リコーブラックラムズ(現リコーブラックラムズ東京)で8年間指揮を執る。2021年度より明大ラグビー部の監督に就任。監督就任1年目の2021年度、創部100周年の2023年度でチームを選手権準優勝に導く。大学時代にはナンバーエイトとして活躍し、大学1、3、4年次に選手権優勝に貢献した。