(87)秋季リーグ戦後インタビュー 大川慈英投手
(この取材は10月30日に行われました)
大川慈英投手(国際4=常総学院)
――今年度の目標として『大覚醒』を掲げられていました。振り返っていかがでしたか。
「『大覚醒』自体にそれほど意味があったわけではないんですが、結果的に去年の秋だったり、今年の春だったりに比べれば、大覚醒できたんじゃないかとは思います。個人としてもチームとしても、一つというか二つ、三つくらい殻を破れたくらいの成績は残せたかなと思います」
――チーム防御率は0.70と素晴らしい結果を残しましたが、ピッチャーリーダーとして考えていたことは何かございましたか。
「それは特にありませんが、やはりチーム全体がこの秋、全く油断しなかったというのはかなり大きいと思います。最初の3カードを取っても全く気が緩まずに早稲田戦に入れたというのもありますし、早稲田が法政から勝ち点を落としたというところ、こっちとしては『春と同じシチュエーションだな』と思えたところが強かったのかなと思います」
――個人としては9完了を飾り、開幕前の「投げ切る」という目標を達成したように思えます。
「そうですね。立教戦で本当に要らない失点をしてしまったんですが(笑)、でもある程度リーグ戦においては投げ切ることができたんじゃないかなと思います。ただ9完了できたなら10完了、東大でしたっけ(笑)。そこは後悔じゃないですが、投げときゃよかったなとは思いますね」
――リーグ戦の全10試合のうち9試合に登板というのはかなり負担も責任も増えたのではないかと思います。
「これは自分の考えで、先発や中継ぎとも、抑えは全然違うポジションだと思います。野球には時間制限がないので、ちゃんと抑えないといけない、抑えないと試合が終わらないというところがあるので、そこはある程度責任の重いポジションなのかなとは思います。リーグ戦に入る前も全試合で投げてやるという気持ちでいたんですが、実際にリーグ戦に入ってみて『どんな点差でも行く』というチームの全体的な雰囲気が伝わっていたので、全試合しっかり気持ちを入れられたのかなと思います」
――今季は打者42人に対し四死球が0、防御率0.75とキャリアハイの成績でしたが、その一方で奪三振数は減少しています。
「もともとフォアボールが多いタイプではないんですが、それでも四死球0で行けたというのはなんというか、自分主導であったというか、自分のペースで対戦できたのがかなり大きいと思います。(防御率については)やはりバッターを差し込めていたというのが一番の印象です。あまり調子が良くなくて三振が取れないときもありましたが、一番の自分のアピールポイントであるバッターを差せるというのがしっかりできたから、こういう結果になったのかなと思います」
――打者に対する圧倒度を示すと言われるK/BB%では、今季はリーグ初登板の2年秋(39.4%)に次ぐ23.8%(どちらも小数第2位を四捨五入)という好成績でした。
「やはりバッターと勝負するということを一番念頭に置いているので、そういう面では逃げずに強気で戦えた結果かなと思います。この数字はフォアボールを出さずにどんどん攻めていく(三振を取る)という数値か、めちゃくちゃコントロールがいいかの2パターンに分かれる感じで、自分の場合はそんなバチバチにコースに決めるタイプではないので。自分的には、強気で攻められているかという数値になるかなと思います」
――4年春には奪三振率9.82の好調ぶりを見せるも、法大戦で抱えた負傷のため、優勝決定戦は手術翌日の病室で迎えることになりました。当時の悔しさは無量だったと思いますが、今季はご自身でマウンドに立ち、明大の優勝を決定させました。
「自分が投げていないと楽しくないタイプなんで(笑)。楽しくないと言うと少しあれですが、面白くないというか。結果的に優勝決定戦は負けましたけど、自分的には本当に面白くないですし、なんて言うんですかね、今回の優勝した瞬間にいられたのは、難しいな(笑)。楽しいでもないし、面白いでもないし(実感があった?)そうですね」
――優勝決定戦はかなり力強く腕を振っていた印象がありました。
「そうですね。MAX155キロなんですが、優勝決定戦ではアベレージが154キロ出ていて(注 神宮球場に設置された弾道精密測定機器による)。初めてそんな出ていたので、そこが成長かなとは思います。(実際マウンドに立たれた時の心境は)どんな気持ちというか、なんて言うんですかね。もう抑えるしかないですよね(笑)。特に複雑な感情はなくて。もう今季は打たれれば死ぬと思って投げていました。進路もそうですし、もうプロ野球選手になれなかったら俺、死ぬなと思って」
――最終回、前田選手(早大)の特大右飛に全員が息をのみました。ズバリ、あれは神風でしょうか。
「いや、神風。完全に神風です(笑)。後で見返したら、フォームの面でもボールを決めに行こうとしすぎちゃって、自分のやりたい動きができていなかった上に、パンって合わせられちゃったところだったので、ほんとに運ですかね。完全に自分的にも〝差せた〟感じはなかったので『あーあ』と思って振り返ったら、田上(夏衣外野手・商2=広陵)がこっちを向いていて。動画を見たら、めちゃくちゃ風が吹いていて。こんなこと言ったらあれですが、これまでこの4秋以外は風に嫌われて、ボールをどんどん運ばれてしまっていたんですが、最後の最後で神宮がこっちに振り向いてくれたのかなと思いましたね」
――たとえ神風であっても、これまでのシーズンとの違いは間違いなくあると思います。そこを見出すとすればどんな点でしょうか。
「気持ちの面なんですが、ネガティブなりにも気合いをずっと切らさずに、ケガ明け、リハビリからずっとできたというところで、ずっと前だけを向いて来られたというところが一番かなと思います」
――お母様の「練習では自分が一番下手だと思って、試合では自分が最強だと思って戦え」というお言葉がとても印象的です。3年秋には防御率8.22のところまで一度下がり、ブログには「本気で野球をやめようと思った」と書かれていました。辛い中での練習との向き合い方や姿勢というのは、この言葉と重なる部分もあるのではないでしょうか。
「自分が下手だと『思って』というか、その時は自分が一番下手だったので(笑)、事実として、気持ちとかではなくて、まずはここからやろうというところで練習量を増やしていました。この春から秋にかけてもケガがあり出遅れていたので、本当に気持ちじゃなくて、事実として受け止めてやってきた部分が一番大きいです」
――普段の性格面では、友達が少ないと自虐的にお話されていましたが、読書をされていたり、そういう内省的な一面も大川投手の特徴なのではないかと思います。
「1人でいるのがまず好きですね。『周りの人と群れるのが好きじゃない』というよりは、自分のペースが乱されるのがすごく嫌で。それなら1人でいいよ、くらいの感じなんですよね(笑)。性格的にも、自己完結型で。誰かに何か言われてというよりは、自分で勝手に病んで、勝手に回復して、勝手に上がっていくみたいな感じで。なので基本ネガティブではあるんですが、自分との戦いですね、性格的には(笑)。(食事も普段はおひとりで?)他の野球部の人に比べると、ご飯も全然食べられなくて。周りがめちゃくちゃ早く食べていたりすると、こっちが急かされている気持ちになって嫌で(笑)」
――瞑想やジャーナリングなども積極的に取り入れられていた姿勢が印象的でした。
「そうですね。新しいことをやるのは好きです。新しいことをやってみて、良ければ自分のルーティーンに入れていくみたいな感じで。周りにルーティーンを崩されるのは嫌いなんですが、自分から崩すのはそれほど(抵抗がなくて)。言ってしまえばマイペースなんですが、そういう自分を良くする何かがあれば、どんどん取り入れていきたいなという気持ちはずっとありますね」
――実際にどこかに生きたという実感などはございますか。
「そうですね。何が、というよりかは継続することによって、普通の人よりしっかりと考えて目標を立てたり、あとは対戦相手の分析だったり、そういうところに時間を惜しまないでできるようになったというのは、継続によって忍耐力がついたのかなとは思っています」
――現在は野球選手もデータを読み解く力が必要だと言われます。
「アナライザーがたくさんデータを出してくれているんですが、自分の目でバッターの動画を見て、こういう攻め方した方がいいんじゃないかというものをノートで作って。春の対戦したデータは一応全部出ているんですけど、自分のノートでまとめてみたいな。全カード前に、終わったら毎回反省をして、野球ノートにそれを書いています。完全に自分用ですね。ずっと練習ができればいいんですが、体力面だったりコンディション調整だったりでできないときが絶対にあるので、そこは頭でというか、ノートに書いて、自分の中で復習するというのが大事だと思っています。『野球以外で野球をやる』みたいなことですかね。ただ行き当たりばったりでやっても、という感じで。それじゃ自分は結果が出なかったと思うので」
――ドラフト指名の瞬間、最も感謝を伝えたい方は誰でしたか。
「やはり両親ですね。自分はジムに行ったり治療だったり、自己投資をかなりたくさんするので、本当に両親に迷惑を掛けてきて。その割には連絡も返すのが遅かったり、こっちから何かお願いするときくらいしか連絡しないといった感じで、本当に迷惑ばっかり掛けていたので、やっと少しは恩返しできたのかなと思っています。(ご両親の反応は)電話したら最初は喜んでくれたんですが『まだ入っただけだから』と。入って活躍しないと意味がないので、そこは割りきっていましたね」
――練習のブルペン投球では、打者の打ち取り方までイメージしたピッチングが印象的でした。
「やはりただ投げているだけじゃなくて、練習から自分の中である程度(打者を打ち取る)パターンというか『こういう感じで抑えていく』というイメージがないと、試合でも結果が出ないと思っているので、そういうとこまでやっています」
――常総学院高時代、島田監督から口酸っぱく言われたことなどはございますか。
「それが『ただ投げるな。練習でもそのイメージをしながら投げろ』というところでしたね。当時は正直『何が違うんだろう』という部分はあったんですが、やっとこの大学4年間を経てそこがわかってきたなと思っています。経験と言ってしまえばそれまでなんですが、投げないと分からないこともあるので。勝負に対する気持ちというのは確実に良くなったなと思っています」
――ありがとうございました。
[松下日軌]

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