(4)第547号拡大版 樋口新葉選手 独占インタビュー Vol.2

2025.07.17

 明大スポーツ第547号1面では、樋口新葉選手(令5商卒・ノエビア)の特集を掲載した。本記事では、拡大版として紙面に載せることができなかったインタビューを掲載する。

――先ほどのお話にも出ましたが、今のスケート界は樋口選手にとってどのように見えていますか
 「スケーターのことだと4回転を跳ぶ選手が増えてきて、女子でもジャンプを跳ばないと点数が出ない試合がたくさんあると思うんですけど、もちろん先ほども言ったように勝たないと意味ない部分が試合ではどうしてもあって。そのために技の難度を上げたり、難しい構成にしたりすると思うんですけど、それ以外にフィギュアスケートの魅力がたくさん詰まっているなと私は感じているので、ジュニアの選手だったりこれから上を目指す選手も表現することに対して、もっと楽しんでできたらスケート界全体がもっと面白くなるし、ジャンプ以外でもっとみんなが点数を出していけると思っています」

――『ライオンキング』の演技と、昨シーズンのFSの演技を見た時に、技の間の振り付けや一つ一つの表現がすごく洗練されているように見えて、表現に特に意識をしているのかなと感じました。
 「意識しています。もちろん意識はしているんですけど、感情的に滑るのが好きなので、そういった意味ではシーズン通して同じ曲、振り付けじゃないですか。でも毎試合違う表現をしていて。毎試合違うモチベーションで滑っているというのはそういうことです。同じものをやっていても、全部の試合で違う作品になっているというイメージです。やはりオリンピックシーズンのプログラムと昨シーズンのプログラムだと、そこから2、3年はすごく私の中では大きかったというか波のあった年だったので、その期間ですごく辛い思いもしたし、オリンピック出られてうれしい気持ちもあって、本当に自分の人生における大事なポイントみたいなものがすごく詰まった3年間だったので、そこの自分の内情というのを昨年は出せたと思います。それぞれのシーズンによって目標やモチベーションは全然違うと思うんですけど、どの試合のどのシーズンと比べてもそれは違いが分かると思います。特に昨シーズンは納得いくように勝ちにいけるようなプログラムを作ったので、本当に細かいところまで意識して作って練習をしてきたので、違いが分かったりしてもらえるとすごくうれしいです」

――大学4年時に取られた休養というのは、お話を聞く限りマイナスというよりはプラスに働いたと思うのですが、ご自身でプラスに働いた要因として考えられるものはありますか。
 「辞めるつもりで休養をはさんだので、プラスに働かせるというよりかは、プラスもマイナスのないように終わらせるようなイメージでした。でも『スケートから離れたい』というか、こんなにずっと一緒にスケートといたのに嫌になっちゃったというか。その期間でスケートと完全に離れて、学校に行ったり、スケートに関係ない友達と話したり、これからどうしようと考えていく中ですごく視野が広がっていきました。スケートに対する思いというのが、今まではスケートが絶対みたいな感じだったのから人生の一部としてスケートがあるというふうに変わったので、そこがすごく自分に円滑に働いた部分だと思います。いろいろな人に自分の当時の心境を話している中で、最終着地点がスケートだとしても、例えばどうサポートに回るかとか、自分がショーをするのかとか、どういうふうに道をたどってもいいけど最終的にスケートに戻ってこられるといいよねという話をしていた中で自分にできることって何だろうと考えたりして。そこで競技に一回戻ってやり残していることをしっかり納得いく状態で終わらせて、次のステップに進んだ時に自分が指導やアイスショーで表現することができるようにといろいろ考えることができたのが休養期間で、それが結果的にはプラスだったと思います」

――大学時代は勉強と授業の両立が難しかったと思うのですが、振り返ってみていかがですか。
 「1年生の時は対面授業だったので結構しんどいなと感じました。私は本当に要領が悪いのでやり方がわからないことも多かったり、スケートの関係で最初のガイダンスに行けなかったりとか初回の授業に行けなかったりすることがあったので、友達をつくって聞くしか方法がなくて。すごくいろいろな人に頼って過ごしていたのですが、2年生からはコロナ禍になっちゃったので。でもそれが逆にオンライン授業でどこでもパソコンで受けられて、課題が出せたので、そこはすごく助かった部分だなと思います。そんな中でも毎週のテストもあったりしたので、そういうのはみんなで話して『どれだった?』とか言ってやったりだとか、本当に協力しながら過ごしていました」

――大学生のうちにやっておいた方がいいこととか、そういうことをやって役に立ったなと思うことがあれば教えていただきたいです。
 
「大学生活はスポーツやっている人もやっていない人も、本当にいろんなジャンルの人とお話をして、自分が最終的にどういう人生にしたいのかみたいな決められる材料になるのと思うので。というのも、私はスケートしかしてこなかったので普通の一般企業に就職することはできなかったけれど、普通の生活をしている皆さんは大学卒業したら普通に働く人生が待っていると思うのですが、大学4年間はすごく自立できる期間だと思っているので、その期間でいろいろなジャンルの人から話を聞いて『自分はこういうふうに思う』という意見交換をすることで自分の芯みたいなものや、自分が何をしたらいいのか、何をしていきたいのかということがすごく明確にできると思います。それこそ視野が広がる機会でもあると思うので、いろんな人と話す機会をすごく大事にしてほしいです」

――樋口選手にとってフィギュアスケートとはどのような存在ですか。
 「今まではスケートしかない、この道で生きるしかないと感じてしまうようなものでしたが、今は自分の生活があってその上に欠かせないものがスケートというイメージです。自分の中にいろいろな軸があってその中の一つがスケートというような印象なので、すごく大事なものではありつつも頼りすぎない、自分の心の支えのような存在だと思っています」

――樋口選手にとっていい演技とはどのような演技ですか。
 「そのとき自分が目標にしているもの、あるいはテーマになれているかどうか、その試合で出せているかというのが納得感につながるのだと思います。これは自分からの視点ですが、やはり競技となると見ている人がいて点数をつける人がいるので、きれいに点数が出るような演技というのがいい演技だと思います。滑っている側の視点と見る側の視点でいい演技の概念が変わってきてしまうところも一つ面白い点だと思います」

――ありがとうございました。

[髙橋未羽、杉山瑞希]