
(60)【第546号特別企画】大志田秀次駅伝監督インタビュー後編/勝負の1年目
明大競走部・長距離部門の新体制が始まって約2カ月半が経過した。7年後を見据えた、大学を挙げての新プロジェクトが開始している中、大きな話題となったのが大志田秀次新駅伝監督の就任だ。東京国際大の駅伝部監督に創部と同時に就任し、わずか5年で箱根路へ導いた大学駅伝界の名将に託されたのは、伝統校・明大の再建。第1回箱根駅伝に出場した「オリジナル4」であるにもかかわらず、近年は「古豪」と呼称される成績に甘んじてきた。そして昨年度は17年ぶりに三大駅伝全ての出場を逃し、紫紺の襷リレーを見ることはなかった。再び「強い明治」と呼ばれるために、新駅伝監督のもと、紫紺の戦士たちはどのような挑戦を進めているのか。今回は明大スポーツ新聞第546号に載せきることができなかった、40分超のインタビュー内容を3本に分けてお届けする。
――理想のエース像やチーム像を教えてください。
「どんな時でも結果を残し、自分のことは自分ででき、生活や練習風景をだれが見てもストイックだと思うような模範となり、魅力を感じられるエース像を描いています。その部分において明大は皆がエースになる素質があります。互いに尊敬し合い、仲が良くても負けたくないというライバル精神を持って、切磋琢磨(せっさたくま)できることが大切です。『仲が悪いからライバル』ではなく、仲が良いからこそライバルになれる集団は、私が目指す強いチームになれると思います。一人一人が集まり『このチームがあるからこそ前に進める』と思えるようなチーム作りができればいいなと思います」
――大志田駅伝監督が特に注目されている選手や、今後の成長に大きな期待を寄せている選手がいらっしゃれば、ぜひお聞かせいただけますか。
「4年生で言えば、森下翔太(政経4=世羅)は力のある選手だと思っています。ただ、これまではどこかでうまく乗り切れなかった部分もあったように感じています。堀颯介(商4=仙台育英)も同様でしたが、最近の試合でセカンドベストを出しています。彼らはこれまで眠っていたものがようやく目覚めてきたのではないかと期待しています。
下級生では井上史琉(政経2=世羅)や成合洸琉(情コミ2=宮崎日大)が注目株ですし、3年生でいうと石堂壮真(政経3=世羅)が印象的で、彼も期待の一人です。綾一輝(理工3=八千代松陰)や大湊柊翔(情コミ3=学法石川)も復帰すれば、対等に練習できるようになってくるのではないかなと。彼(石堂)は1、2年ケガに苦しみましたが、3年生になってようやく本領を発揮し始めています。正直、最初はそこまで目立つ選手ではない印象でしたが、ここにきて成長しており、とても楽しみな存在です。
また1年生の河田珠夏(文1=八千代松陰)にも期待しています。彼が自分の力をどれだけ信じているか分かりませんが、いずれ駅伝でもレギュラー争いに加わってくる選手だと思います。阿部宥人(政経1=西武台千葉)、岩佐太陽(商1=鳥栖工業)、桶田悠生(政経1=八千代松陰)といった実力のある選手たちもいます。
今年度のチームは、いわゆるエースが一人に絞られるのではなく、日替わりで中心選手が入れ替わるような形になるかもしれません。特定の誰かが引っ張るのではなく、それぞれがチームの中心となって、他の選手たちがそれを追いつこうというような、そういう競争の中にあります。各学年で切磋琢磨し合う環境が整えば、本当に〝強い明治〟が作れると信じています。例えば13人のメンバーを選ぶとき、10人しか選べない状態ではなく『この中から13人を選ばなければいけないのか』と困るほど、選手層の厚さがあるのが本当に強いチームで、理想の形だと思っています」
――全日本予選が終わると、例年であれば6、7月はトラックシーズンに入り8、9月は合宿が続く形になるかと思いますが、今後はどのようなスケジュールで進めていくご予定ですか。
「通常、私たちは1~3月が鍛錬期で、そのあと4~6月が春季と位置づけてチームをつくっていきます。ただ、今シーズンは1~3月をしっかり見られなかったこともあり、5月の試合を終えてから改めて距離を増やすなど鍛錬期にあてることにしました。これまでとは少し違った形で7月の試合を経て、8月の合宿へ向けた準備期間として捉えています。この時期は走り込みや距離走、スピード走をしっかり取り入れて、例年とは違った形で練習を進めていきたいと考えています。例えば月に600キロ走っていたところを700キロに増やし、夏には800キロ~900キロを目標に、しっかりと距離を踏める体を作っていきます。
もちろん100キロ増やすと聞くと驚かれるかもしれませんが、月に25日運動しているとすれば、1日あたり4キロ程度増やすだけですから、朝2キロ、午後2キロというふうに工夫次第で無理なく取り組めるものです。もちろん実際にはそんな簡単に割り振るものではありませんが、そこまで身構える必要はありませんし、やる気さえあれば人はすぐに変わっていけると感じています。
ただ大切なのは、その距離をケガなく、体調を崩さずに積めるかどうかです。例えば風邪を引いて1週間休んでしまえば意味がありません。ですから、走る距離を増やすためには単に量をこなすのではなく、常に自分の体と会話しながらの準備が必要です。エアコンの使い方、水分の摂り方、汗のかき方など、細かな体調管理にも意識を向けていくことが大事です。結局のところ、それも自分でしっかり準備をして、やるべきことをやるという意識の問題になります。
長距離種目は、自分自身がしっかりと準備し、継続して鍛錬できるかどうかで強くなれるかが決まってきます。過去の明大の先輩たちで今も競技を続けている者の話を聞いても、当時からやっていることは本質的に変わらないのですが、彼らは自分たちで『あいつに負けたくない、この記録を出したい』という強い思いで自分を追い込んでいました。自由という言葉があるとしても〝自由に練習できる〟ということは〝自由に自分を追い込める〟ということです。過去の先輩方はその自由をもとに自分で練習を組み立て、責任を持ってやり切る力に変えていた。今の(明大の)選手たちは、まだその意味での自由の使い方を理解しきれていないと感じています。ですので、6、7月はそうした意識改革も含めて、チームとして変わっていけるように取り組んでいきたいと思います」
――これから10月には箱根駅伝予選会があり、そこを突破すれば1月には本選が控えています。大志田駅伝監督がこれまで東京国際大で培ってこられた指導のご経験や、現在の明大のチームカラーや特長を踏まえたときに、箱根予選や本選で戦っていく上で、チームとして特に必要になってくるものはどのような点だとお考えでしょうか。
「やはり大事なのは〝自分で走れる力〟をつけることだと思っています。集団の中ではある程度しっかり走れていても、いざ一人になったときに、自分のペースで走り切ることができない、個人走ができない選手が多い。それが現時点での課題の一つだと感じています。予選会のレース運びに関して言うと、最近では集団走が主流ですが、私は個人的にそのやり方には少し懐疑的なところがあります。もちろん、私個人の意見で完全に否定するつもりはありませんが、体調やレースの流れを見ながら自由に走っても良いのではないかと考えています。公園の中に入ってから明大の選手を見つけて徐々に集団になっていく、と言った方が大崩れしないのかなと。また普段の練習から「個人走」を意識して、一人で走り切れる力を養っていきたいと思っています。トラックの練習でも、自分が先頭を引っ張るくらいの気持ちで取り組まなければ、本当の力は身につきません。今は1列で走っている練習も、あえて2列にしてみる、あるいはリーダーをいつも決まった上級生に限定せず、あまり引っ張る機会のない1年生に任せてみるなど、練習の中で積極性や自主性を育てていきたいと考えています」
――監督が集団走に対してやや懐疑的なお考えをお持ちだということですが、それは先頭で引っ張る選手が思うように動けなかった場合に、全体の流れが崩れてしまうというリスクを懸念されてのことなのでしょうか。
「やはり選手たちが、余計なことを考えすぎてしまうのが問題だと思っています。『このペースでいいのか、速いのか遅いのか』といった判断に迷ってしまう。ペース走をやっている大学はたくさんあるので、誰かにくっついていけばいいと思います。『うまく引っ張ってくれる選手がいれば、それが自チームでなくてもついていけばいい』という感覚です。もちろんそのうまい選手が自チームで、引っ張ってもらうこともあれば、相手を使う場面もあるでしょう。自チームに寄り添うことにこだわりすぎることもないと思います。
普段のレースも『誰かがいるからその後ろについていこう』という判断を流れの中で選択していきますよね。余裕があったら前に行ったり、後半を考えて無謀なペースを避けたり。予選会だから、集団でいかなければいけないということはありません。無謀でないペースで走れている人がいれば、それをうまく利用して、しっかり走り切れると思っています。
このような走り方をチームとして実践できるかどうかは、今後の方向性を見ながら判断していくことになります。ただ、その前提としてまず個の力をつけなければいけない、地力をつけたいと思っています。個の力をつけなければ集団走でも意味はないし、集団走に頼って実践していけば、箱根になったら走れません。長距離は何が起きるか分からない種目です。だからこそ〝自分のレースができる力〟を持っていることが最も大切です。最終的にはそれが〝自分自身を守る力〟になりますし、その力はトラックレースにも生かせます。駅伝のための練習がトラックの記録にもつながるように、トラックの練習が駅伝にも生きてくるといった両方に生かせるような、柔軟で強い力をつけていきたいと考えています」
――今年度が駅伝監督として1年目のシーズンになるかと思いますが、今シーズンのチームとしての目標、そして選手たちに求めていきたいことがあれば、ぜひお聞かせいただけますでしょうか。
「選手にとって、予選会を突破するというのは当然の目標です。ただ、それだけではなく、シード権をしっかり目指すということも非常に重要です。そして秋以降には、自分自身の記録に挑戦していくこと。これはどんな種目でも同じですが、記録を更新するというのは本当に大変なことです。5000メートルでも、3000メートルでも、1万メートルでも、ハーフマラソンでもいい。自分が得意とする種目をしっかり見つけて、そこで挑戦し、昨年度の自分を超えていく。それが一番大事なことだと思います」
――明治大学競走部を日頃から応援してくださっているファンの皆さまに向けて、最後に一言メッセージをいただけますでしょうか。
「選手たちは本当に一生懸命、目標に向かって努力を重ねています。その努力する姿を、結果としてしっかり形にしてあげることが、私の役割だと思っています。選手がやりたいこと、かなえたい夢に向かって、私たち指導陣やチーム全体としても全力で挑戦していきます。引き続き、温かいご声援をよろしくお願いいたします」
――ありがとうございました。
[聞き手:橋場涼斗、春田麻衣]
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