(6)「『明治のラグビー部に入って良かった』と最後思ってもらえるように」神鳥裕之監督 新体制インタビュー

2025.04.09

 昨年度、明大は全国大学選手権(選手権)ベスト4となり『奪還』とはならなかった。今年度は平翔太主将(商4=東福岡)が先頭に立ち、スローガン『完遂』のもと、7年ぶりの頂点を目指す。本連載では新チームの監督と幹部となる4年生のインタビューを全6回にわたって紹介します。

第6回は神鳥裕之監督(平9営卒)のインタビューをお送りします。(この取材は4月1日に行われたものです)

――昨年度は選手権で準決勝敗退と悔しい結果になったと思います。昨年度を振り返っていかがですか。
 「自分が監督を4年間やっている中では非常に印象深い1年だったなと思いますね。その前の年、100周年の世代の時に中心だった選手たちがいなくなって、支えになるメンバーがかなりいない中でのスタートだったので、春シーズンは苦労しました。加えて、2年生、3年生など若い世代の中心選手が(U―20)合宿や遠征でごっそり抜けたりして、チームづくりに時間をかけないといけない中でそういうことが重なったりして、春先や夏合宿では「この先大丈夫か」と不安を覚えるぐらいのチームだったんですけど、シーズンに入るにつれてどんどん成長していく姿を見せてくれた部分においては、残った在校生に対しては非常にいいメッセージを残してくれたチームだったなと思います。最後は帝京大に負けてはしまいましたが、7点差というここ数年では一番僅差のゲームで戦うこともできましたし、成長という視点で言えばすごく伸び幅を見せてくれた印象深いチームでした」

――特にスクラムでは春シーズンから大きく成長していた印象でした。セットプレーについてはいかがでしたか。
 「(セットプレーは)明治のラグビー部としては絶対に負けられないエリアですので、それが春シーズン、あそこまでやられるというのは(今まで)なかなかなかったと思いますね。でもそれが故に、実際プレーしている選手たちが一番悔しい思いをしたでしょうし、このままでは駄目だという思いにも駆られたでしょうし、そういうパワーが逆にチームのエナジーになったと思います。その背景には、明治のラグビーを語る上において絶対に負けてはいけないFWのエリア。その中で象徴的なスクラム、セットプレーというのは、コーチ陣、監督含め、私も明治のOBですし、何より選手もそこを感じてくれたというところにおいても、プライドを見せてくれた瞬間だったかなと思います」

――昨年度も最後に帝京大に敗れてしまう結果となりました。帝京大に勝つために、今年度カギになってくるプレーを教えてください。
 「帝京大学は4連覇しているチームなので、ここを越えなければ我々が目標としているところにはたどり着けないと思っているんですけど、あまり帝京にフォーカスしすぎないことも大事かなと思っています。ただ、彼らや強豪の大学に勝利するためには、明治のラグビーの良さとして、まず相手ありきではなくて、自分たちがどうあるべきかが軸であることが、100年の伝統の強みでもあります。我々としては、明治のラグビーの根本である強いセットプレー、大きなFWでしっかりと相手を圧倒していくというところは、極めていきたいという気持ちが一番あります。それにプラスアルファして、現代ラグビーに必要なスピードであったり、単純に走る速さだけではなく、判断の速さもそうですし、動き出しの速さであったり、そういったものも掛け合わせたハイブリッド的な部分もいかに極められるか。今年何かまた新たにこれが必要とか、帝京に勝つためにこれをやるという視点ではなくて、今まで積み上げてきたものをしっかりとベースアップしていくこと。そのベースアップの原点として、明治の根本を忘れないこと。我々はここをぶれずにやっていきたいなと思います」

――昨年度見つかった収穫と課題を教えてください。
 「収穫は、いつどんな時でもこのチームは成長できるということを知らしめてくれたところです。メンバーがいなくなるとか、春のシーズンがうまくいかないとか、どんな状況下でも、明治のラグビー部に所属しているメンバー全員の持っているポテンシャルを信じれば、必ず大学トップレベルまで成長できることをしっかりと見せてくれたというところが大きな収穫かなと思います。課題に関しては少しラグビーのテクニカルなところもありますが、プレーに対する『一貫性』の部分です。大舞台の中でも、いかに練習通りに今までやってきたことを変わりなくプレーに体現できるか。いかにパフォーマンスの波を小さくしていくかというところが次の課題で、それを克服するためには日頃の練習しかないと思います。逆に無意識のうちに体に染み付くぐらいまで反復したり、基礎的なものをやったり、特別なことは何もないと思いますので、その『一貫性』をしっかり求めていくことが大事かなと思っています」

――監督が常におっしゃっている『凡事徹底』の理念と『一貫性』は通ずるところがあると思いますが、どう考えていらっしゃいますか。
 「(凡事徹底は)簡単なようでできないとすごく思っていて、誰もができる当たり前のことを誰もができないぐらい徹底することはすごく難しいことだと思うので、これを常にラグビーの面でもそうですし、ラグビー以外の面でも求めています。ラグビーの面で言えば、例えばこぼれ球のイーブンボールに対してどれだけ早く自分たちのボール確保に動けるかどうか。誰かがするのではなく、頭から飛び込む覚悟でいけるかということであったり、ラグビーのルール上、片膝をついていないとプレーはできないので、一つのプレーが終わったら次のプレーに向かってすぐに立ち上がって仲間のサポートができるかどうか、一つのパスが終わったら次のサポーターになってすぐに動き出すことができるかなどごくごく当たり前のこと、誰もができるようなこと(を求めています)。キックを100パーセントにするとか、スクラムは常に全部押すとか、ある種それは相手がいてできることなので、難しいところです。ですが、自分がこうやろうと決めたら必ずできることはしっかりやるということを常に言っていて、それはフィールド外でも実は一緒で、チームのルールを守ることもそうですし、団体で生活している以上、自分勝手な行動することで周りに迷惑をかけないことなど、日頃からそういうことを守らないと、ラグビーの試合だけでルールを守るぞと言っても誰も信頼しないので『凡事徹底』という言葉をラグビーのエリアだけではなく、むしろフィールド外も含めて全ての面において伝え続けています。これが当たり前にできるようになれば、明治ラグビーを卒業した後、社会に出ても絶対に求められる人材になると自負しているので、ここはこれからもしっかり言い続けたいなと思います」

――今年度のチーム方針を教えてください。
 「チーム方針は、スローガンである『完遂』という言葉(にあります)。ある種これは学生主導で、彼らがどういうチームにしていきたいかっていうことを、我々(コーチ陣)はサポートするという立場だと私は認識しているので、彼らが『完遂』することに対して成し得たいというところが大きな方針の一つだと僕は捉えています。何を『完遂』するかというのは、7年遠ざかっている大学選手権優勝をしっかりコンプリートしたいというところもそうですし、突き詰めていくと日頃の生活であったり、細かな日常的なルールであったり、そういったことからもしっかりと積み上げていってこその『完遂』だと思いますので、彼らもそこを望んでるんじゃないかなと思います。大きなことを成し遂げるためには、小さなことを一つ一つ積み上げて、成し遂げていかなきゃいけないっていうところが、僕にとっては『完遂』の解釈ですので、おそらく選手たちも同じような思いかなと思っていますね」

――今年度のチームの雰囲気はいかがですか。
 「4年生たちはしっかりしているなという印象があります。去年もそうだったんですけども、特に今年の4年生はリーダー陣もそうですけれども、例えば寮長の山川(遥之・営4=尾道)だったり、比較的しっかりと、当たり前のことを徹底したい、させたいっていう思いが強い人たちが集まっています。決して去年はそうじゃなかったというわけではないんですけど、大学生としてはしっかりしている部類の人間が4年生の中にいるので、チームの雰囲気としても、そういった部分ではカチッとしてるイメージはありますね。すごく抽象的な表現ですけど、カチッとした感じでうまくスタートできてるんじゃないかなと思います」

――新幹部の印象はいかがですか。
 「平(翔太・商4=東福岡)は最終的に面談した時に芯があって、しっかり物事を考えていたので、外にそういうのを醸し出したり発信するのはどちらかというとキャラ的には苦手と思っているかどうか分からないですけど、してなかっただけであって、実際面と向かって2人で話をするとものすごくしっかりしてるので、そういった意味ではすごく芯があるキャプテンと思っていますね。だから彼に対してはそういう思いを発信し続けることも、この1年間で成長していってほしいなという期待はすごくあります。バイスキャプテンの2人、利川(桐生・政経4=大阪桐蔭)はラグビー特有の体を張って、先陣を切って戦うファイターですので、そういうところでリスペクトを集めてほしいです。楠田(知己・政経4=東海大仰星)はこの3年間、ケガも多くて悩み苦しんだところがあって、そういう苦労も周りの選手は見てきてるので、そういう選手でもしっかり我慢強く頑張ってくれれば、リーダー陣に周りから推されるんだといういいロールモデルを作ってくれたので、しっかりとやり切って、そういう選手たちの手本になってもらいたいなと考えると、非常にバランスのいい3人がそろったというイメージです」

――神鳥監督がスタメン選考において重要視している点はどのようなところですか。
 「一つは『一貫性』を持ってプレーできているかどうかです。ある試合がすごく良かったけれども、次の試合ではあまり良くないという選手よりは、1試合だけじゃなくて2試合、3試合しっかりとパフォーマンスを出すことがすごく大事ですし、紫紺のジャージーに袖を通す以上は、最後の最後までしっかり諦めずにプレーをすることであったり、周りのメンバーから推挙されてリスペクトされる取り組みであったり、こういったところも選考の一つの基準には入ってきます。見ているコーチの推薦も当然あるので、彼らの考えもリスペクトしていますが、監督の立場として今見ているのはそういう取り組みであったり、紫紺のジャージーを着るにふさわしいかどうかというところをしっかりと見ながら最終的に決めています」

――春シーズンはどういったところをチームに求めていきたいですか。
 「まずは明治らしさ、明治のFWをしっかりともう一度再構築します。倉島(昂大・令7営卒)という3番が抜けて、特にバックローの顔となった木戸(大士郎・令7文卒・現東芝ブレイブルーパス東京)、明治の顔だったキャプテンがいなくなっているので、明治といえばFWと言われるぐらいのチームだからこそ、それがどれぐらい春の大会で存在感を示せるか。去年の春の大会でそれは全くけちょんけちょんにやられたので、そこのスタートアップの違いをまず個人的には見てみたいなと思います。万が一、去年ぐらいけちょんけちょんにやられたとしても、あれだけの成長力を見せてくれた去年のチームもあるので、心配はしないで長い目で見ていきたいと思います。少なからず去年よりはしっかりとベースアップの時点でレベルアップできていると思いますので、FWがどれだけ春の時点でやれるかというところをしっかり見たいなっていうのが一つです。あとは、今はそこまで難しいことをやっていないので、基本的なスキルであったり、当たり前のことをどれだけゲームの中で徹底できるかというところも見ていきたいですし、そういったことをコツコツとパフォーマンス上で続けられる選手を、秋に向けてどんどんピックアップしていくためのセレクションにしたいなと思っているので、そういったところも見たいなと思います」

――最後に、今年度の目標をお願いします。
 「明治のラグビー部の目標が大学選手権の優勝、日本で一番強いチームであり続けるということに対してもブレは全くありませんので、いつ何時も掲げている内容を変えるってことはありません。今年も大学日本一を今年こそは成し得られるようにチャレンジしていきたいと思います。最後に去年のチームもそうだったんですけど、究極は『明治ラグビーに入って良かった』と学生たちに最後思ってもらえるようなシーズンにしたいといつも思っています。去年の4年生たちはそう言ってくれたので、ほっとはしましたけれども、『明治に来て良かった』と思える、一番直結する結果が大学選手権の優勝だと思っているので、そこは追求していきたいなと思います」

――ありがとうございました。

[晴山赳生]

◆神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)平9営卒
2013年度より、リコーブラックラムズ(現リコーブラックラムズ東京)で8年間指揮を執る。2021年6月1日より明大ラグビー部の監督に就任。監督就任1年目の2021年度、創部100周年の2023度でチームを選手権準優勝に導く。大学時代にはナンバーエイトとして活躍し、大学1、3、4年時に選手権優勝に貢献した。