
(18)全日本直前インタビュー 佐藤駿
国内最高峰の大会である全日本フィギュアスケート選手権(全日本)がいよいよ12月20日に開幕する。多くのスケーターがこの舞台に照準を合わせ、日々練習に励んできた。本インタビューでは、選手それぞれが今シーズンの大一番に懸ける思いをお届けする。
(この取材は12月16日に行われたものです)
第5回は佐藤駿(政経3=埼玉栄)のインタビューです。
――全日本直前で確認や調子を上げていく段階かと思いますが、今はどのような練習をされていますか。
「試合が近いので確認だけっていう感じで、すごくがっつり練習してる感じではなく、ジャンプ1本1本を確認する感じでやっています」
――今のジャンプの調子としてはいかがですか。
「先週と比べて徐々に調子が上がってきてるのかなっていう感じで、G Pファイナルから時間もすぐで期間はなかったんですけど、ここまでいい調子で上げてこられてるのかなと思います」
――G Pファイナルの舞台はフランスのグルノーブル。 街並みがすごくきれいだと思いましたが、観光はしましたか。
「最初の日と終わった後にクリスマスマーケットが近くでやってたので、みんなで行ったり、街をちょっと見たりしました。試合中はしてなかったんですけど、始まる前と終わった後に行きました」
――鍵山優真選手(中京大)と一緒に気分転換に出かけたりしましたか。
「最初の日に一緒にクリスマスマーケットに行ってワッフルとか食べて、(試合が)終わってから全員で行きました。(ワッフルが好きというわけではないですか。)そういうわけではなく、一番おいしそうだったので(選びました)」
――三浦佳生選手(政経1=目黒日大)のインタビューで佐藤選手とのメッセージのやりとりの話をされていましたが、三浦選手には励ましてもらったりすることが多いのですか。
「そうですね。結構お互い試合前とかライン送ったりとかしています。今回は佳生から、SP(ショートプログラム)が終わった後とかFS(フリースケーティング)終わった後とか、ラインっていうかDMとか頂いたと思うので、励みになってます」
――G PファイナルでSP4位から総合3位に順位を上げました。表彰台は目標となるものだと思いますが、 表彰台に上がろう、順位を上げよう、といった気持ちはありましたか。
「そうですね。順位を上げようっていう気持ちはあまりなくて。それよりも自分のできること、SPで失敗があったので失敗を繰り返さないようにということと、あとはSPの時に緊張してしまっていたので、 緊張なく楽しく滑ろうとそれだけ考えて滑りました」
――佐藤選手は大きな目標を口にするよりは、堅実な、自分と向き合うコメントを残されることが多いと感じます。それは以前からそのような感じですか。
「そうですね。誰に勝ちたいとかそういうよりも、どっちかっていったら自分との戦いというか。そういったものは大事なのかなと自分で感じています」
――そのような中で、今シーズンはずっと全日本優勝を目標の一つに掲げられています。目標をしっかり口にするようになった意識の変化や、その部分に対する思いはありますか。
「やはり目標から大きくいかないと駄目だなって思ったので、いつも『全日本でもメダルを取りたい』とかって言っていたんですけど、そうじゃなくて、やはり目指すんだったら優勝じゃないといけないと思っているので、今シーズンの目標を優勝にしたいと思っています」
――GPシリーズでの優勝も目標に掲げられていました。G Pシリーズ中国大会で有言実行を果たされましたが、GPシリーズ優勝に至るまでに今シーズン力を入れてきた部分を教えてください。
「そうですね。今シーズンは特にルッツとかフリップと4回転の種類を増やして、SPは去年はフリップだったんですけど、今シーズンはルッツでやっているので、難易度を去年よりも上げてるのかなと思うんですけど、そこを練習からノーミスを何回もやってきたので、それでもまだやはり本番では出し切れてはないんですけど、練習でできているものがある程度試合で出せるようになってきているのかなと今シーズン思っています」
――今シーズンは特に4回転ルッツの成功率が高いですが、力を入れたことやこれまでと変えたことがあれば教えてください。
「今シーズンから、練習から自分の中で分析するようになりました。今まで何も考えてなかったというか、感覚で跳んでいたんです。けど、今シーズンから駄目だった部分や良かった部分を自分の中で考えていくようになったので、そこがすごく大きく変わったのかなと思います。動画とか見てやっています」
――練習での力が本番でもある程度発揮できるようになったのは気持ちの面や技術面だとどのようなところが大きいですか。
「メンタルの部分がやはり大きいのかなと思っています。昨シーズンや一昨シーズンと比べて強くなったなっていうふうに自分では思っています。(経験を重ねた部分は大きいですか。)そうですね。やはり試合数とかを多くこなせばこなすほどそういうところは身に付いてくると思うので、逆にそういうことでしかメンタル面っていうのは強化できないのかなと自分では思っています」
――FSの後半はハードな構成ですが、手応えやこの構成にして良かったと思う部分はありますか。
「特にコンビネーションの去年ダブルトウだったところをダブルアクセルに変えて、そこがすごく大きいかなというふうに思っています。全然、トータルでは多分2点ぐらい変わってくるのかなと思います。 本当に0.01点で競っていく世界なので、そういったところから練習してダブルアクセルを習得できたっていうのは構成の部分が大きかったかなと思っています」
――体力的に厳しいのではないかと思いましたが、そのようなことはあまりないですか。
「最初は結構厳しいなと感じてたんですけど、でもやってくうちにだんだん体力がついてきて。体力がついてきたっていうよりは、後半でも難しいコンビネーションだったりとか、シークエンスジャンプが跳べるようになってきたっていう感じなのかなと思います」
――SPは流れがずっと途切れない演技ですごく練習されたのかなと思いますがいかがですか。
「流れはすごく振り付けの時から意識していて、ジャンプはもちろん失敗するときもあるんですけど、失敗しても途切れないようにっていう演技を目指して、普段から練習でやっています」
――FS『Nostos』はギリシャ語で「家に帰る」という意味があるそうですが曲の解釈や曲に対しての思いはありますか。
「解釈とか難しい曲だなって思って、これでやるって言われた時も、正直ジャンプとかどこで跳ぶんだろう、難しいなって思ってはいたんですけど、実際振り付けしてみて演技をして全体で見た時に、すごく難しいですけどこれで曲を一つ一つ表現できたらより一層いいものができると思ったし、自分自体曲をすごく気に入っているので、表現していけたらいいのかなと思いました」
――FS冒頭はピアノの表現が多いですが、バイオリンよりピアノの方が表現するのが難しいなどそういった感覚はありますか。
「あんまりそんなふうには感じていなくて、どっちかっていうと個人的にはピアノの方が好きです。音の入りも好きですし、滑りやすいです」
――S PもF Sも情感のこもるプログラムですが、演技の振り付けに意識を配っている部分はありますか。
「振付師さんの方から言われたのは『指先までしっかりと思いを伝える』というふうに言われました」
――上半身の動きもすごく洗練されています。その部分への意識はいかがですか。
「そこを一番意識してやっています。演技の中でここしか動いてないみたいな、肩の周りしか動いてなくて、指先まで動かしてないっていうふうに言われました。本当に一番言われたのは『指先の部分で、指先まで感情を表現できるから』と。『指先、足先まで意識して演技するように』と言われました」
――指先まで意識すると、ジャンプやスピンなど他の要素に影響がありそうな中で素晴らしい演技をされています。何が良かったのでしょうか。
「自分の考え方とかが変わったのかなと思っています。やはり前はジャンプばっかり集中していて、ステップとかそういったところにまで目を向けていなかったんですけど、最近になってジャンプとかも安定してきて、そういったことにも目を向けられているというところで自分の中で考えが変わったのかなと思います」
――GPファイナルでは、鍵山選手、イリヤ・マリニン選手(米国)とともに戦い銅メダルを獲得されました。目指していく中に世界一もあると思いますがそこに向けてもっとできるなと思ったところはありますか。
「やはり今のままだと優勝するには程遠いのかなと思っていて、優真とかマリニン選手の演技を見て自分は全然違うなと思いましたし、自分ができることがまだたくさんあるなと思いました。やんなきゃいけない部分が山ほどあって、5コンポーネンツとか4回転ジャンプの本数を増やしたりとか、できることはたくさんあると思うのでそういったことから地道に努力して頑張っていきたいと思いました」
――全日本には出場選手中シーズンベスト2位のスコアを持って挑みます。そのスコアは自信につながりますか。
「そうですね。自信にはつながっているんですけど、やはりその自分のシーズンベスト をこの大会で超えたいという思いは強いので、そのシーズンベストをこの大会の一つの自分の目標として、それを超えるようにしていきたいなと思います」
――今年の全日本は宇野昌磨さんが引退したという点で変化もあると思いますが気持ちの面で異なることはありますか。
「宇野昌磨選手が引退されて今回の全日本選手権は自分たちの世代がほとんど一番上というか、引っ張っていくような世代になってきたので、宇野選手がいなくても去年みたいないい全日本選手権にしたいなと思ってるので、そのためにみんなで頑張っていきたいと思います」
――宇野さんは佐藤選手について「彼の実力はまだまだこんなもんじゃありません」とおっしゃっていました。どのように感じましたか。
「まずそう言っていただけてすごくうれしいですし、自分でももっとできるなっていうふうに思っているので、さらに練習してできるようになっていきたいなと思いました」
――全日本には独特の緊張感があると言われますが佐藤選手はどのように感じていますか。
「全日本選手権は別物というか、どの試合にも該当しないような緊張感があって、やはりいろいろかかっているというのはあると思うんですけど、会場の雰囲気だったりとかもそうですし、本当に海外試合とか、G Pシリーズとか、ファイナルとかと全く違う試合というか、緊張感がやはりすごくあるなって思うんですけど、そういう緊張感の中でやっていかなきゃいけないなと思うので。今まではあまり全日本選手権でいい演技ができてなかったんですけど、昨シーズンはいい演技ができたので今シーズンもいい演技ができるようにまずはSPから頑張っていきたいと思います」
――全日本を迎える中で今どういう気持ちでいますか。
「緊張というよりかは、早く試合がしたいという気持ちでいます。わくわくの方が強いのかなと思います」
――三浦選手と一緒に意気込むことはありましたか。
「そうですね。『全日本頑張ろう』と話をしましたし、同じ大学なので一緒に世界選手権に行きたいなっていう気持ちはとても強いので、今回の全日本選手権は明治大学としても頑張んなきゃいけないなと思っています」
――最後に、全日本での目標をお願いします。
「全日本ではSP、FSともにノーミスできるように頑張って、最後まで楽しく滑り切ることを目標に、あとは優勝を目標として頑張っていこうと思っています」
――ありがとうございました。
[布袋和音]
(写真は本人提供)
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