
(17)全日本直前インタビュー 住吉りをん
国内最高峰の大会である全日本フィギュアスケート選手権(全日本)がいよいよ12月20日に開幕する。多くのスケーターがこの舞台に照準を合わせ、日々練習に励んできた。本インタビューでは、選手それぞれが今シーズンの大一番に懸ける思いをお届けする。
(この取材は12月3日に行われたものです)
第4回は住吉りをん(商3=駒場学園)のインタビューです。
――最近はどのような練習を中心にしていますか。
「G Pシリーズ2戦分の疲れがあるのでそれを抜きつつ、全日本に向けて調子を上げていけるように今は調整といった感じです」
——全日本に向けて今の心境はいかがですか。
「自分でわざと緊張を高めて先に緊張させちゃおうという作戦で、毎日試合だと思って練習に臨むようにしています。あと20回ぐらい全日本ができると思えば21回目の全日本だって何てことないと思うので、毎日今日が全日本だと思って緊張感を持って練習しています。そこをしっかり継続して本番になったらあとはやってきたことをやるだけだと思えるぐらい、最後まで足掻けるようにやり切って臨みたいです」
――緊張感というのはどのような部分から感じていますか。
「試合になったらやってきたことを出すだけなので、それまでにどこを詰めていけるのだろうか、どれだけ最後まで練習できるのかなみたいなことを考え過ぎていることが緊張につながっているのかなという気がします」
――今シーズン、ここまでを振り返ってみて自己採点すると何点でしょうか。
「今までの中では本当にいい流れで来ているなというのはあるので、80点くらいかな。残りの20点はもっとコンスタントにミスなくやりたいのに、プログラムを通すことがなかなかできないというところがまだまだというところです」
――20点の内訳というのは、技術的な部分と表現的な部分ではどちらが大きいですか。
「プログラムとしては経ていくべきステップをいい感じに踏めているし、それを実際に評価もしてもらっています。20点分のほとんどがジャンプとスピンなのかなと思います」
――今シーズンからスピンのルールが変わったと思いますが、レベルの取りにくさなどを感じたりはしていますか。
「やっぱり最初はすごく難しくて夏の試合とかはなかなか取れなかったんですけど、グランプリになって慣れてきて、ほとんどは取れるようになりました。中国ではミスがあったんですけど、フランス(G Pシリーズフランス大会)のS P(ショートプログラム)で取れなかった部分を中国(G Pシリーズ中国大会)のS Pで取ることもできたし、F S(フリースケーティング)の明らかなミスがあった部分以外はちゃんと取れました。本格的なシーズンに入った時にしっかりと取れるようになったのは、ルールに合わせて練習した成果が出たなと思います」
――スピンやステップに関して、昨シーズンから成長を感じた部分はありますか。
「昨年はちょこちょこ落としていたような気がします。今年はステップが毎回コンスタントにレベル4取れているというのが一番成長を感じるかなと思います。スピンよりもステップに感じています」
――具体的に練習で変えた部分はありますか。
「夏の間にステップだけの練習は前以上にこなしました。(レベルが)取れない原因としてステップが踏めてないという以上に、私の場合は上半身の動きが足りない部分が大きかったので、そこを意識して今まで以上に毎回体を上下させてステップをやるという練習を夏場にたくさんやってきたのが良かったかなと思います」
——東京選手権を振り返っていかがですか。
「今までで一番自分にプレッシャーをかけて臨みました。自分のプレッシャーに負けた部分もあるんですけど、それがシーズン以降につながる練習になったのかなと思います」
——どのように自分にプレッシャーをかけましたか。
「S Pが終わった後、母に『F Sで今回ノーミスできなかったらスケート辞める覚悟でやったら』と言われました。S Pもそんなに良くなかったのでいらいらして辞めてやるというか、辞めさせられると思ったんですよ。ノーミスできなかったら本当に辞めさせられると思っていました(笑)。もちろん母はそんなに本気じゃなくて、後で母から聞いたのは『周りの人が優し過ぎるから、もっと厳しい人がいてほしいという悩みをよく言っていたから実験してみた』と。それが功を奏して自分にプレッシャーをかける練習にもなったし、本当に一つ失敗した時に『どうしよう、終わりだ』みたいな感じで思ってしまったんですけど、その後しっかりリカバリーして『失敗を取り返そうとする強さが出たんじゃない』とコーチにも言われて無事辞めさせられずに済みました」
——東日本学生選手権では連覇を達成しました。
「演技として4回転(トーループ)は両足になってしまったんですけど、それ以外の部分にミスがなかったというところですごく自信になりました。最後まで集中を続けられたというところに、その後のグランプリにも向けた自信になったので、結果とか点数ではなく最後まで自分の力を出し切れたというところでいい試合だったかなと思います」
――G Pシリーズフランス大会での演技を振り返っていかがですか。
「悔しい部分はありつつも、フランスの方が出し切ったという気持ちは強いですね。こらえるところもありつつも、こらえ切れたというところは昨年から成長したなというところがあります。自分のやりたいベストではないにしてもこらえるということも一つ選手としての強さだと思うので、自分に少し自信が持てたところです。そこにプラスしてパーソナルベストというところがフランスの演技として自分的に良かったところかなと思います」
――初の200点超えを達成しました。
「やっとかという感じです(笑)。ずっと自分が出せるポテンシャルがあると信じていたので、うれしいという気持ちよりもほっとしたというか、やっとここに乗ったぞというところの方が強いです」
――ご自身にとって思い入れのあるフランスで200点超えを達成したことに関してはいかがですか。
「毎年何かしら初めてのことが起きています。初めてG Pシリーズの表彰台に乗ったのもそうだし、 初めて4回転(トーループ)降りたのもそう。初めて200点を出して、やっぱりついているんだなと思います」
――3年連続となったフランスでの思い出はありますか。
「3年連続同じパン屋さんに行きました。日本人の方がやっているパン屋さんが歩いてすぐのところにあってそこにまた行けました。去年買えなかった本当にすごく長いバゲットがあるんですけど、今年は買えたので一人で食べ切りました。あとは新葉ちゃん(樋口新葉選手=令5商卒・現ノエビア)とずっと街歩きしていたので、それが楽しかったです」
――毎年フランスに行かれていますが、アメリカやカナダなど他に行ってみたい国はありますか。
「私は時差ボケに弱くアメリカやカナダだと行ったときがつらいので、ヨーロッパがいいかなと思います」
――他の選手の演技で印象に残った方はいましたか。
「アンバー・グレン(米国)が一番です。私の持っていない迫力、パワーみたいなものが感じられるし、25歳という年齢もあると思うんですけど経験から来る重厚感みたいなものが演技に出ていて、それでいてあれだけのジャンプをそろえてくるというところが純粋にかっこいいなと思いました」
――アンバー・グレン選手とは何か会話などはされましたか。
「中国のエキシビションの練習の時にアンバーいるからと思って、トリプルアクセルを見ててとは言っていないんですけど、目の前で跳んだらアドバイスをくれました。『あなたのトリプルアクセル本当に高いから、あとは足を突き刺すようにして、最初の回転つけちゃえば絶対飛べるよ。頑張って』みたいな感じで言ってくれて、本当にうれしかったしもっと頑張ろうという気持ちになりました」
――今シーズンのテーマとして力強さであったり、大人っぽさを挙げられていると思いますが、やはり参考になるところは多いですか。
「特にS Pで女性らしさ、大人っぽさというところは出したいので、本当にそういうところを(アンバーが)持っているなと思っています。スケート自体というより見せ方、大人っぽく魅了するような感じがあるので、その辺も盗めたらと思います」
——フランスに続いて、G Pシリーズ中国大会での思い出はありますか。
「中国では特に出歩いたりはしなかったんですけど、ホテルの隣のスーパーに行ったら カエルが生きたまま売っていて、それに倫果ちゃん(渡辺倫果・法大)と一緒に衝撃を受けました」
——S Pでは、アクシデントがありながらも自己ベストを更新する70点超えとなりました。
「中国に行く1週間前にエッジを替えてロックが変わってしまったので、慣れない内に中国に行ってしまったのがつまずいた原因にあったのかもしれません。とはいえ、中国に行ってからすごくジャンプの調子が良くて氷とのなじみも良かったです。そこの自信を持っていたおかげで、アクシデントがあっても落ち着いてできたのかなと思います。ジャンプだけじゃなくて、スピンとステップをしっかり全部そろえられたというのが、そっちの方がうれしいかなと思います」
——S Pに関しては1位と僅差でしたが、プログラムとしての浸透度はいかがですか。
「S Pの方がやっぱり完成度としては出来上がっている感じがしています。中国から帰ってきてすぐにミーシャ(ミーシャ・ジー)とのブラッシュアップをしたんですけど、本当に細かいところや、どの部分で集中に入っていくのかなどといった最後の仕上げをできたなと思っています」
——総合でもフランス杯に続いて200点超えを達成しました。
「F Sはあの点数差に5人いるということもあって緊張してしまったなというのが全てです。緊張しているのに気づきつつも対応できずに進んでしまったというのが、前半最後の一番大きい転倒のミスにつながってしまいました。小さなミスがあってもフランスみたいにこらえていけたら良かったんですけど、大きいミスにつながってしまったのは緊張した時に対応できなかったというのがあると思います。緊張しているということに気づいた時点で、ここにフォーカスするというところは決めているんですけど、そこに向き合い切れていなかったというところは反省点なので、そこを全日本に向けて直そうと思います」
——前半にミスがあった中でも後半で修正できたように見えました。そのあたりに関してはメンタル面の成長というのも大きいのではないでしょうか。
「サルコーからは落ち着いて、フォーカスするべき部分にフォーカスできた結果が後半だと思います。今までだったら本当にそのまま沼にはまっていたかなと思うのでそこはすごく強くなったとは思います。でも、それをもっと早いうちに対応できれば良かったかなと思います。あとは前よりも糖質を意識して取るようになりました。練習のときからそうですし、試合前は特に取っています。糖質をしっかり取ることによって集中が切れないとか、今回に関してもちゃんと切り替えて最後まで集中するというのができるようになったのは一つ関係あるのかもしれないです。(どういったもので糖質を取っていますか)ご飯やパンはもちろんなんですけど、私は海外に必ずようかんを持っていって公式練習が終わった直後に食べています。公式練習で使った糖質をすぐに補給するみたいな感じです。あとはバナナとかも食べて、集中力が切れることのないように頻繁にいろいろなものを口にしています」
——シーズン前に「F Sの終盤に集中力が切れてしまうのが課題」と言っていましたが、そこからは脱却できましたか。
「オフシーズンから糖質の大切さに気付いていてやってはいたんですけど、夏は体が出来上がっていなくてバテていました。シーズンに入って(体力が)持つようになったかなという感じです」
——シーズン前インタビューの際に『S Pの映画をあえて全部見ていない』と言っていましたが最終的には見られましたか。
「結局大切なシーンだけ見て、もう見ないという方向にしました。(何か演技に対して価値観が変わった部分はありますか)一番最後の、飛行機から結局待ち人は降りてこなかったという場面で、悲しい、悔しい、何とも言えない表情で最後終わるんですよ。そこに全てが詰まっているんじゃないかなと思っています。自分の表情一つで伝えるのは難しいと思うんですけど、ステップの中で『ここでどういう表情をしようかな』とか『ここでどのぐらい回せられるかな』みたいなところを今まで以上に表情の部分に意識するようになりました」
——今シーズンは大会ごとにジャンプの構成を変えて臨むこともありますが、ジャンプの面に関してはいかがですか。
「今年は全日本で上位を狙いたいので、全日本では4回転(トーループ)を入れないという方向に切り替えてその練習を今しています。それでも他の部分で、4回転がなくても210点ぐらいを出せるという自信もつきました。だからこそのプレッシャーみたいなのもあるんですけど、そこに対して自信だけを持って、プレッシャーをはねのけて演技できるというところを目指したいです」
——実戦を通して、改めて気付いたプログラムの難しさなどはありますか。
「F Sがまだ課題かなというところは感じています。四つの曲が合わさっていて一つ一つ表現は変えていく中で、集中は最後までしていかなくてはならないという点が難しいです」
——全日本には明大から6人が出場します。
「本当にすごいですよね。ユニバ(冬季ワールドユニバーシティゲームズ)も6人中3人が選ばれているので、それだけ明治強いんだぞというイメージをつけられるかなと思います。けどそこに関しては全日本というよりもインカレで見せたいです」
——三浦佳生選手(政経1=目黒日大)と大学のことについて話す機会はありますか。
「会うたびに『どうしよう、まずい』ということしか言っていないので『友達つくりな、頑張れ』ということ以外はあんまり(笑)。やっぱり学部が違うので具体的なアドバイスはできないんですけど、もう頑張れって感じです」
——今シーズンは特に全日本にこだわって競技に取り組まれていると思いますが、具体的な目標はありますか。
「世界選手権に行きたいというのが一番です。ちょうど今日の朝、新横浜に行ってきて、佳生と会って一緒に世界選手権に行こうと話してきました。やっぱり佳生と世界選手権に行きたいという気持ちがすごく強いです。女子はかおちゃん(坂本花織・シスメックス)と百音ちゃん(千葉百音・木下アカデミー)が抜けていると思うんですけど、その下は横一線になっていると思うので全日本での争いだなと思っています。そこで頭一つ抜ける成績を残したいです。今までは結果よりもいい演技みたいな感じでやってきていましたけど、今年は本当に結果を取りたいなと思います」
――GPファイナルに日本人女子選手は5人出場していて、全日本の上位争いも熾烈(しれつ)になると思います。その中でご自身の持ち味としてどのような部分を見せていきたいですか。
「いろいろな方に言っていただくのが『プログラムとしての完成度はすごく高い』と言っていただいていて、その言葉がすごく自分にとって自信になっています。あとはジャンプやエレメンツなど一つ一つを丁寧にこなしてやり切れば絶対にいい点数がもらえるという自信が持てるような言葉を今年すごくいただいてるので、プログラムの完成度にエレメンツを含めた完成系を見せていきたいと思います」
——これまでの全日本を振り返っていかがですか。
「毎年全日本の空気にのまれているというか、ジュニアまでは楽しい一本で行けていたんですけど、シニアに上がって去年とおととしはすごく飲まれちゃったなという気持ちが強いです。無理に集中しようとし過ぎて空回りしている感じがありました。今年のグランプリもそうですけど、オフシーズンからずっとやってきている緊張しないために、ぐっと集中しに入るんじゃなくて自分を楽しませながら臨んでいくように。おしゃべりしたりとか自分なりに一番気持ちいい状態で臨めるようにというところにフォーカスしているので、また全然違う心持ちで入れるのかなというふうに思っています」
――全日本への意気込みをお願いします。
「今年はやっぱり世界選手権に行くというところ。そのために一つ一つのエレメンツをいかに質良く、もちろんパーフェクトであるということが大切にはなると思います。その中で何があっても一つ一つ丁寧に、とにかく最後まで集中を切らさずやり切って自分で結果をつかみにいく強さを持っていきたいです」
――改めてプログラムの見どころをお願いします。
「今年は自分のステップに自信を持っています。S Pに関しては今シーズンの初めからいろいろなインタビューで言っているんですけど、どこがというのではなくて一つの作品として全体を見てもらいたいです。F Sは四つの場面それぞれが分かれていて、最後のステップですごく盛り上がるので、そこの明るさや楽しさを見てもらいたいです」
――ファンの方へメッセージをお願いします。
「いつも応援ありがとうございます。今年は結果をつかみにいくので、自分の意志を感じ取ってもらえて、それに乗っかって応援していただけたらうれしいです。応援よろしくお願いします」
――ありがとうございました。
[冨川航平]
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