
(142)【第543号特別企画】園原健弘監督インタビュー 後編
今年度、17年ぶりに三大駅伝全ての出場を逃した長距離ブロック。〝次元を超えた惨敗〟を経験した部の監督は今、何を思うのか。短距離ブロックや競歩ブロックを含めた明大競走部の現状と今後について、関東学生連合チームに選出された溝上稜斗選手(商4=九州学院)についてお話を伺った。
――MARCH対抗戦2024の結果はどのように捉えていますか。
「あれは素直に評価できませんね。やはり青学大と中大は一つ飛び抜けていて27分台の選手を出していますが、本当だったら明大も同じレベルで戦いたいところではあります。立大と法大も完全に箱根にシフトしていますから、3位という結果ではありましたがなかなか過大な評価はするべきではないと思います。厳しく現状認識をする必要があると改めて感じた大会でした」
――監督は今後、チームに対してどのような働きかけをしていきたいですか。
「競技の結果など『できる・できない』が存在するものは、選手がひたすら全力でやるしかないと思っています。ですがそれ以前に『できる・できない』が関与しない『やるか・やらないか』ということがあります。例えば挨拶をする、整理整頓をする、時間を守る、学校に行く、テストをしっかり受けるという当たり前の日常です。そういう小さなことをやらないと、いざ頑張るべき場面でも頑張り切れないと思います。チームとして1年間ずっとやってきたつもりでしたが、まだ徹底されていません。急には強くなれませんから、今やるべきことを淡々と積み上げて無意識のうちにできるようになれば、本番で力を発揮するべき場面でも力を出せると思います」
――ケガ人に対するアプローチとして、改革を行っている部分を教えてください。
「4月から朝倉工さんというトレーナーにスタッフとして入ってもらっていますが、長距離の選手は短距離や競歩と比べてフィジカルトレーニングへの取り組みがまだ少なく、ケア中心になってしまっています。本来はマイナスから0に戻してプラスにするところを体系的にやっていきたかったのですが、朝倉さんが来た段階でケガ人が多かったため、間に合わなかったというのが正直なところです。選手の中にも、これまでお世話になっていた治療院など自分に合っているところに通い続けたい者もいて、一つの組織として方針を持ったアプローチができていないという部分は今年度だけでなく、過去から非常に感じていたことです。その対策が今までできていなかった理由は、やはりそこまで予算措置ができないということが挙げられます。トレーナーを一人雇うためのお金が競走部にはありませんでしたが、やはりそこが弱点だと分かっていたため今年度は少し頑張って、大学からご支援をいただきながら工面したのですが、現状として間に合いませんでした。あとは個人の治療費までわれわれがサポートできるだけの資金力がないことも問題だと感じています。サポート資金を出して『治療に行ってこい』『パーソナルトレーニングに行ってこい』と言えないため、個人の経済事情によって理想的な頻度で通うことが難しくなる部分もあります。今後はそこをチームとしてサポートできるように変えていきたいと考えていて、今年度から本格的に動き出してはいるところです」
――資金面の工面について教えていただいてもよろしいでしょうか。
「大学での陸上競技は大学スポーツとはいえ商業ベースに乗っかって、スポンサーを付けていいことになっています。こんな成績ですがサトウ食品さんは『応援するよ』ということで来年度もスポンサーを続けてくれることになりました。今NIKEさんとも契約をさせてもらっているのですが、来年度も引き続きお願いしたいと思っております。そこにプラスして、細かい協賛金が重要です。箱根に出るからといってもアピアランスがそれほど大きくないため、宣伝効果は大きくありません。やはりわれわれがどんな理念を持って人材育成をしているかに共感してもらうことが大事です。リクルーティングの部分にも関わってくるのですが、社会で通用する人材を育てて、企業から協賛してもらえるところを増やしていくことが今は大事だと思っています。そしてわれわれの大きな助けになっているのがサポート募金です。非常に大きな助けになっているので、ぜひ校友の皆さんやOB、ファンの皆さんもご寄付いただけるとありがたいです。中でも一番大事にしたいのは、『明治大学のMを守りたい』という思いです。ユニフォームにはサトウ食品さんともう一つ付けられるのですが、今の大きさの〝M〟を守るために二つ目は探していません。横書きの〝明治大学〟や〝M〟を守るためにも、皆さんにはぜひ寄付をお願いできればと思います」
――今は新入生にどのような能力や精神性を求めてスカウティングを行っていますか。
「まずは絶対的にタイムで分かる競技ですから、やはり(5000メートルで)14分1桁くらいのベストを持っている選手を探しています。競技力の基礎的な能力については、絶対にベースとして優先的にアプローチするべきです。その上で、明大の体質に合うのは自立した子だと思います。特にリーダーシップを発揮できて、コミュニケーション能力が高い選手を西弘美スカウティングマネジャーが見てくれています。しかし強い選手にはいろいろな大学がいい条件を出すので、その中で明大に来てもらえる理由となる〝明治のカラー〟というものが今は出せていません。『明治大学にいきたい』という憧れになるようなチームを作らないと、なかなかいい選手も入ってくれないので、やはり強化とスカウトは両輪だと思います。まず当面は強化の方で、しっかり高校生の目に届くような成績を出さないといけないと思います。それからユーチューブやSNSなどの情報発信部分も戦略的に活用して広報活動もしっかりしていきたいです」
――溝上選手は4年間でどのような選手として成長したと思いますか。
「4年生になってから成長したと思います。3年生までもしっかりやっていないことはありませんでしたが、思いがまとまらずにやりすぎてしまったり、やらなくてもいいようなことをやってしまう部分があってなかなか思うような結果が出ませんでした。そんな中で九州学院も同年代の選手がすごく強くなっていて関東学生陸上競技対校選手権でも負けていますから、すごく悔しい思いをしていたと思います。彼は正月などに他大の選手たちと話すと、やはり明大には甘い部分を感じると言っていました。4年生になってやっと気づけて自ら改革を起こしたから結果が出たのだと思います。それでもより高いレベルで戦える選手だと思っていますからもっと成長させてあげたかったなという思いがあります。だから、なんとか箱根を走れればいいなと思っています。『人間を育てる』ということは、このグラウンドで練習している場面だけではなく、地元に帰った時の同期のお話だったりご家族の励ましだったり、それから学校の中での同級生とのちょっとした一言だったり、大会のレセプションでの誰かのちょっとした言葉だったりがきっかけになる部分もあると思っています。彼は順風満帆ではありませんでしたが、ポイントポイントでいい友達やご縁に恵まれて、成長してきたことが良かったと思います」
――今後へ向けてなど、ファンの皆さんに伝えたいことはありますか。
「ファンの皆さんのご支援には本当に感謝しています。今年度の箱根が終わった時の方が学内外から厳しい声は多く『もう合宿所を出ていけ』という声もありました。ですが今回の箱根予選に落ちた後はそれほど厳しい言葉はありませんでした。もう呆れられている、相手にもされなくなっている、信用も信頼もかなり失っていると感じます。『学校教育だから一生懸命やればいいじゃない』というようなお声もいただきますが、やはりこれだけ箱根に対していろいろなところからご支援をいただいていることを考えると、本当にこの成績に関しては申し訳ない気持ちでいっぱいです。それをお返しするのは、頑張っている姿を見せるだけではなくて、結果で恩返しするしかありません。結果はすぐにお見せできるものではありませんが、来年の箱根予選に向けてしっかり今からやるべきことをやっていきます。われわれが今本当に期待を裏切っている、恥をかいている、どん底にいるということを、かみしめなければいけません。悔しいと感じた分だけ這い上がるパワーになりますから、今はいろいろなご意見を受け止めながら再建を図っていきますので、厳しくご指導いただければと思います」
――ありがとうございました。
[島田五貴、春田麻衣]
監督インタビューの記事は12月19日発行の明大スポーツ第543号にも掲載します。ご購入フォームはこちらから!
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