
(15)全日本直前インタビュー 菊地竜生
国内最高峰の大会である全日本フィギュアスケート選手権(全日本)がいよいよ12月20日に開幕する。多くのスケーターがこの舞台に照準を合わせ、日々練習に励んできた。本インタビューでは、選手それぞれが今シーズンの大一番に懸ける思いをお届けする。
(この取材は12月11日に行われたものです)
第2回は菊地竜生(政経2=目黒日大)のインタビューです。
――秋学期が始まって何か大学生活に変化はありましたか。
「そうですね。やはり大学のシステムのこともだいぶ把握してきたので、 自分の競技生活と両立できる授業を取れるようになりました」
――競技面ではシニアに上がって初めてのシーズンになりました。実戦を通して何か得られた気づきや成長した点はありますか。
「そうですね。やはりシニアに上がってからメンタルがジュニアの時と違って大人な考え方というか、緊張することも少なくなってきました。大学を通して、社会経験なども積んできたので、シニアに上がってから、メンタル面が結構安定するようになりました」
――スコアの出方に関して、ご自身はどのように感じていますか。
「SP(ショートプログラム)では30点を超えて、FS(フリースケーティング)でも下が60点を大体の試合で超えてきているので、今後SPでは下が30点半ばをFSでも下が60点後半、70点を目指せるように頑張りたいと思っています」
――東日本フィギュアスケート選手権(東日本)ではSPで転倒した際に頭が真っ白になったというお話がありました。改めて振り返って、今までに同じような出来事はありましたか。
「そうですね。一度、2020年の全日本ジュニア(フィギュアスケート選手権)の時に腰を壊してしまい、その時にも痛みで演技に集中ができなかったです。当時は、痛みで頭が真っ白になってしまいました」
――そういった経験をした東日本を踏まえて、ジャンプでミスをしてしまった時などを想定した練習は何か行いましたか。
「そうですね。着氷する時に重心が後ろにいきすぎてしまうと東日本のSPみたいな結果になってしまうと思うので、なるべく軸を中心に保つようにと。東日本のミスがあったからこそ、全日本に向けて改めてその意識ができました」
――全日本出場が決まった際のコメントから「東日本は通過点」というような印象を受けました。調子も良かったという感じでしょうか。
「もともと全日本には自分の中で進むことは当たり前で、全日本でしっかり結果を出すというふうに思っていました。もちろん調子も安定していましたし、東日本でもエレメンツ的には優勝を狙えると思っていました。結果的にミスをしてしまって、今回ギリギリでの通過ではあったのですが、全日本に進めないかな? みたいな不安になる気持ちはなかったです」
――ユーチューブチャンネルの方では「最初のスピンの後のジャンプでの成功率が課題」とおっしゃっていて、最近のジャッジスコアからもうかがえます。東京都民大会(都民大会)では3回転フリップにアテンションが付いていましたが、その要因はどのような部分にあると考えていますか。
「フリップ(ジャンプ)が苦手というわけではないのですが、フラットでアテンション(踏み切り関する違反)を取られやすいというところがあります。もともとスピンの後すぐのジャンプを自分が苦手としている中で、しっかりインサイドのエッジを意識しながらフリップを跳ぶという、そこの(難しい要素)二つが重なることになります。 今練習ではしっかり跳べているのですが、都民大会ではそのミスが出てしまったので、今はスピンが終わって目が回った状態でも、しっかりエッジを意識しながらフリップを跳べるように練習しています」
――冒頭のジャンプも同様に演技のカギになってくると思いますが、成功率などに関してご自身はどのように感じていますか。
「都民大会では最初、トリプルアクセル+2回転トーループになってしまったのですが、もともとの予定がトリプルアクセル+3回転トーループなので、そこをしっかり決めることができれば流れに乗っていけると思うので、トリプルアクセル+3回転トーループは、練習でもかなり高確率で決められているので、全日本ではしっかり決めて、そのままの流れでノーミスを目指したいと思っています」
――今シーズンはSPは『リベルタンゴ』、FSは『もののけ姫』を演じられていますが、実戦を重ねていくにつれて何か意識に変化はありましたか。
「『リベルタンゴ』は今年の1月のインカレ(全日本学生氷上選手権)の時から使っているのですが、試合を重ねるごとに『リベルタンゴ』の妖艶さを進化させていますし、そういった部分はかなり成長してきたかなと思っています。FSに関して『もののけ姫』を披露した最初の試合では、後半のステップで疲れが見えたりなど、力強くない滑りをしてしまったので、最後のステップでは呪いが暴れるイメージをしているので、試合を重ねるごとにそこにも力を入れて滑れるようになってきました。全日本に向けて今はいい練習ができていると思います」
――ブラッシュアップを重ねる上で、振付師であるお姉さんからのご指導もあったと思いますが、印象に残っているアドバイスはありますか。
「疲れてくると目線が下がるという癖があるので、目線はジャッジを見るところはジャッジを見る。観客を見る所は観客を見る。指先にしっかり力を入れたり、体の上下をしっかり使ったりなど、そういったところは細かな部分までしっかり力を入れるようにと。ただやればいいというわけではなく、自分が魅せるという気持ちから入っていかないと伝えたいことも伝わらないので、自分が何を伝えたいかをしっかり考えながら表現をするように言われています」
――ユーチューブの方では「特にエッジの深さを意識したい」とおっしゃっていましたが、今はどのような練習に取り組まれていますか。
「エッジが浅いという面では、ステップの面で多く現れます。体力が少し足りないという話をしたと思うのですが、今は体力強化と後半の疲れた中でも、しっかりエッジに乗れるように取り組んでいます。やはり体の上下を使えると、必然とエッジに乗ることもできますし、体の上下や体の動きをしっかり意識しながらコントロールするように心掛けています」
――体力強化に関してはどのような練習に取り組まれていますか。
「走る量も増えましたし、東京都が取ってくださる(リンクの)貸し切りや、日本スケート連盟が取ってくださっている(リンクの)貸し切りなど、曲を何回も何回も繰り返しかけて、疲れていても関係なく追い込む練習をしています」
――シーズン前インタビューでは4回転サルコーにも力を入れて練習しているとおっしゃっていました。今季はまだ実戦で跳んでいないと思いますが、着実にジャンプを決めるという形でしょうか。
「そうですね。練習で4回転もちょこちょこやってはいるのですが、昨シーズンの方が4回転は安定していたというのはありました。練習で降りられていても、曲かけになると、4回転は成功しても他のジャンプが安定しないということが多々あったり、全体的に安定しない面がありました。4回転の調子がそこまで良くないなら、全日本はアクセル2本でしっかり固めていってノーミスを狙うという方が点数的にも伸びると思いましたし、全体的な見栄えもミスなくしっかりできた方がいいと思ったので、全日本は4回転はなしでいこうと思っています」
――都民大会のSP後に表現力を磨きたいというお話もありました。全日本で見てほしいポイントはありますか。
「SPでは妖艶さを表現しているので、やはり出だしの振り付けには注目していただきたいですし、最後のステップも見どころなので、ジャンプだけではなくそういった表現のところも見てほしいです」
――都民大会のFSではスピンを課題に挙げていたと思いますが、今の練習状況や感覚の方はいかがですか。
「スピンの点数でマイナスをもらってしまうのは、点数が伸びない原因になってしまいます。やはりスピンは練習量がものをいうと思うので、今はレベル4をしっかり取って、プラスで加点がもらえるように練習しています」
――初めての全日本の舞台が約1週間後に控えている現在の心境を教えてください。
「今すごく調子がいいので、あまり緊張はしていなくて、全日本で自分の力を最大限出し切って見ている人たちに菊地竜生という名前を広められるように頑張りたいと思います」
――今まで現地で全日本をご覧になったことはありますか。
「全日本はないですね。世界選手権は招待があったのでそれのみです」
――全日本で印象に残っている年や選手はいらっしゃいますか。
「直接見に行っていた試合ではないですが、2019年の宇野昌磨選手のSPがかなり印象に残っています。テレビで見ていたのですが、最高の演技でした。一番自分の中で『うわー』と盛り上がった試合だったので。全日本であれだけの演技ができるのがすごいなというふうにその時すごく感じました。自分も少しは近づけるような演技をしたいと思っています」
――今年度の全日本もトップレベルの選手が集まると思いますが、今季印象に残っている選手はいらっしゃいますか。
「やはり鍵山(優真・中京大)選手と佐藤(駿・政経3=埼玉栄)選手。自分の中ですごく別格というか、別格ではあるけれど目指すべき選手なので、憧れというよりも追い抜く気持ち、ライバル視をするくらい憧れのままで終わったら超えることができないと思っています。今自分がライバルというのはおこがましいとは思いますが、目指すべき選手として、超えるべき選手として意識をしています」
――全日本に出場するにあたって具体的な点数や順位などの目標を教えてください。
「SPではしっかりノーミスをして、70点以上は目指していかないとSP通過もできないと思っています。SPはまずノーミス大前提で70点を目指します。順位はそこまでこだわってはないです。FSは130点以上を目指して、総合で200点以上を出せるように頑張りたいと思っています」
――ジャンプの構成は都民大会と同じような構成になりますか。
「FSは少し構成が変わっていますが、フリップの後の3回転サルコーが3回転トーループという形で変更なのと、コンビネーションジャンプが別の場所に少し変更したところがあります」
――ジャンプの構成を変えてご自身の感覚としてはいかがですか。
「コンビネーションジャンプも一つ前半に持ってきました。点数的には後半に入っていた方が良いのですが、失敗したら元も子もないのであえて前半にコンビネーションジャンプを2本持ってきて、ノーミスで攻めるという感じです。なるべく成功率を上げるために前半にコンビを二つ持っていくという形になりました」
――最後に全日本をご覧になるファンの皆さまに一言をお願いします。
「最高の演技をお見せするので、スタオベよろしくお願いします」
――ありがとうございました。
[堀口心遥]
(写真は本人提供)
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