(82)第542号ラグビー早明戦特集号 特別対談!~監督編 大田尾監督・神鳥監督~

2024.11.29

 早明戦100回を記念して大田尾監督、神鳥監督の早明両監督に、これまでの早明戦、そしてこれからの早明戦について語っていただきました。(取材は別日に行われたものですが対談形式でお送りします)。

——過去99回の対戦成績は、早大55勝、明大42勝、2引き分けです。99回積み重ねてきた重みと、この対戦成績をどう感じますか 
大田尾監督(以下、大):初めてこの55勝、42勝っていう対戦成績を見た時に、早明戦という試合の持つ意味がやっぱりここにあるんじゃないかなと思って。100回近くやってほぼ互角ですよね。本当にどっちが勝つのか分からないというのを100回積み重ねてきたというのが、まさにこの試合の持っている注目度を高くしてきたなというのはすごく感じました。やっぱりこれは先輩たちが作ってきたもので、先日早慶明のOB会の会合があって、そこにも参加させていただいて申し上げたんですけども、先輩たちがつくってきたものを重みとして受け止めないといけないし、この100回の名に恥じない早稲田でないといけないというのは今年本当に強く思いますね
神鳥監督(以下、神):明治も去年100周年という節目の年を迎えて、改めて歴史の重みを感じたんですけれども、同時にやっぱり早稲田さんは先輩であるということはその時点で改めて感じたところですし、我々が産声を上げた時にはもうすでにラグビーのチームとしてスタートしていた。そういう歴史を考えると、我々が追いかけるという形はさほど驚きはないんですけれども、ただ改めてこの両校の数字を見ると積み上げてこられた先輩たちであったり、そういった方々の積み上げがあってもいいのかなというふうに実感するところですね。でもやっぱりここを最低でも五分ぐらいに持っていきたいという思いはありますよね。それだけ肩を並べて、しのぎを削る両チームという印象は一般的には持たれているので、それに似つかわしい成績は残したいなと思うんですけど、本当に早明戦って難しい。私も現役の時とかに下馬評は有利でも勝てなかったりすることもありましたし、それは逆もしかりなので。学生たちは目の前の試合をしっかりと戦って、いつしか肩を並べるところまでは持っていってほしいなというふうには思います 

——早明戦が日本のラグビー界に果たしてきた役割をどう捉えていますか。 
:やはりラグビーの全国的な認知という意味で対抗戦の一つですね。早明戦がNHKという放送局で放送されていたということは、ラグビーの認知という意味ではすごく大きな役割をしているとは思いますね。日本の大学生のトップレベルのラグビーに触れることができる機会としては、非常にラグビー界にとってはすごく意味のあるものかなと思いますね
:全国放送で、国立競技場があそこまでいっぱいになるスポーツって他にはないというふうに我々は教えてきてもらっていて、そこで戦う選手たちもそうなんですけど、そこに見に来られた学生たちや観戦する人たちが、あそこに行ったことがあるとか、ラグビーを見たことがあるっていう潜在的なラグビー観戦経験者は、実はものすごくいるんじゃないかなと思うんですよね。なので、ラグビーを通じた対抗戦という意味合いは当然あるんですけれども、それを超越した応援する時の一体感であったりとか、学生時代の思い出であったりとか、下馬評通りにいかない本当に熱い試合を見て一生の思い出にするとか、こういう部分においてはラグビー競技以外の部分で、いろんな役割というのを果たしているんじゃないのかなと思います

——「雪の早明戦」など名勝負は数多いですが、お二人が最も印象に残っている試合は。 
:僕が大学1年生の時の4年生の試合が非常に印象に残っていますね。だから2000年の早明戦ですかね。帝京にも負けて、慶応にも負けて、下馬評は明治の方が圧倒的に有利と言われている中で、その試合にかける4年生たちの意気込みを目の当たりにしたあの試合っていうのは、早稲田1年目でこれが早稲田の力なんだなというふうに感じて、僕は印象深いですね
:早明戦って最後の最後まで結果が分からないっていう、そういう意味では自分が大学3年生の時(1996年)の早明戦なんかは、自分がプレーしていたというのもあるんですけどすごく印象深いですね。ラストワンプレーまで勝っていて、しかも敵陣の22メートルラインまで押し込んでマイボールでボールキープしていたんですけど、一つのノックオンでそこから全部ボールをつながれて、トライまで持っていかれて逆転されて終わりました。このシチュエーションを考えたらやっぱり勝ったと思いますよね(笑)。最後まで諦めずに戦い続けたあの試合というのは、自分も出ていてすごく印象には残っています。去年、その時の映像をミーティングで選手たちに見せました。一つのミス、一つのエラーで気を抜いた瞬間にこうやって試合が決まる。何が起こるかわからないっていうような経験を自分もしたので、あの早明戦は印象に残っています

——『縦の明治』『横の早稲田』への思いやこだわりをお聞かせ下さい。 
:『縦の明治』の圧力にどれだけ対抗するかというところは、やっぱりディフェンス面ではすごくあるので、そこの対抗心はありますよね。『横の早稲田』もボールを動かしてスコアするというDNAは今もありますので、その全体的な絵として、スクラムとかの分かりやすいところに縦と横というところは集約されているのかなというふうには思うんですけど、そういういった意味でラグビーが少し変わってはいるものの、縦の圧力という意味では明治は素晴らしいものがあるし、早稲田としては展開力で負けられないっていう思いは今もあります
:ここはもう私が語るよりも、応援してくれている方々、長く見ている方々の思いが一番詰まっている部分だと思います。シンプルに明治のFW。重戦者と言われている迫力。それを生かして一歩でも前に進むラグビーのスタイルが長く愛されてきていますし、それを象徴するものがスクラムであったりとか、接点での前に出る推進力であったりっていうところだと思いますので、ここは本当に失わずに我々は継承していく使命があるというふうに思っています 

——大田尾監督は清宮克幸監督、神鳥監督は北島忠治監督の心に残っている教えや指導はありますか 
:選手を見極めるというか、自分たち独自の評価基準というか、一般的に見たら身長が高くて、足が速くて、体が大きくて、バランスがいい選手が良しとされると思うんですけども、そうではなくて早稲田のラグビーをやるには、身長が低くて足が遅くても、個々を生かすというところになってくる。常に言われていたのは、強みと弱みをすぐに言語化できる、言葉に発せられるのは非常にいい状態で、常にそういう状態に自分を置いておくのは大事だと、清宮さんから教えてもらったことが一番印象残っています
:ほとんど指導は受けていないんですよね。大学2年生の時に倒れられて、そこから約2年近くずっと療養されていて、戻ってこられることなくそのまま亡くなられたので。ただ1年半ぐらいはグラウンドに来られる姿は見ているので、そういう部分では最後の世代かもしれないですね。先輩方から北島先生の逸話をいっぱい聞くんですよ。いきなり集めて試合するぞとか、今から出たいやつ手挙げろとか。自分はそういうのはあまりなかったんですけど、1年生の時に司令塔に登られて、練習中にみんなをいきなり呼んで走り方の指導をしたのを覚えているんですよね。声を掛けられるとぱっとなるというか、やっぱり言葉の重みはすごくありましたね

——お二方が現役だった頃と現在の違いはありますか。
:今のラグビーは鍛えられるところは全部鍛えるというか、アスリートとして極限まで追い込んでいるんじゃないかなと思うんですよね。そういう意味では、環境としては非常にプロに近いようなアプローチをして育ち、選手を育てているというのがありますよね。そこは大きく変わっているかなと思います。ラグビーの戦術に関しても、明治も早稲田もそうですけど、リーグワン出身のコーチでその時の最先端のものを入れているので、そこも大きく違ってきているかなと。そういうところで環境はどんどんプロ化しているかなというふうに思います。
:まずラグビーの戦術もそうなんですけれども、そこに取り組むまでの姿勢であったり、体づくりであったりの準備のところですよね。あとプレーし終わった後の体のケアであったりとか、細かく言えば食べるもの、ウエートトレーニングの仕方、回数、練習時間、どれを取っても競技に向かう時間と割合が、我々の頃より格段に上がっているのはすごく感じます。体つきを見ていてもやっぱり我々の頃なんかとは全然違って質のいい体で、そういう選手たちがラグビーをしているわけなので、当然競技力も上がってきますよね。そういった部分の意識の違いというのは本当にあるのかなと思います。どんどん選手が成長する手助け、環境、情報、あとは選手のマインドも含め、この競技性の向上というのはすごく出てきてるなと思います。あとは(戦術も)変わりましたね。アタックであればいわゆるシェイプというかグループでしっかりとボールを動かす。ディフェンスのシステムのレベルが上がってきているので、単体でボールを持つシチュエーションをいかになくすか。ボール持っている人間がたくさん選択肢を持てるような配置にして、いかにディフェンスと1対1の局面をつくれるかというふうな、そういう戦術というのは日々アップデートされていっている。選手もグラウンドに出てくる前まで戦術の理解をして、本当にそういう部分においてはマルチな成長が求められる。ただご飯を食べて体を大きくすればいいと言われていた時代とはもう違うので、どのポジションにおいてもいろんなものが求められる時代になったと思います 

——明大にとっての早大、早大にとっての明大はどのような存在でしょうか。 
:やっぱりライバルじゃないですかね。簡単な構図で言うと、明治は大きくてうまくて速いんですよ。それに対して早稲田がどういうことをしたら勝てるのかというふうに考えさせる相手ですよね。何も考えずには勝てない。大きな意味で言うと自分たちを成長させてくれる相手だし、お互いがなくてはならない存在ということで、この一戦があるのはやはり非常に大きいなと思います
:宿敵じゃないですか。これ以外ないんじゃないですかね(笑)。でも宿敵って相対する意味だけじゃなくて、お互いがいないと成立しない関係性だと思うんですよ。特に明治においては22年間、1996年に最後優勝して2018年まで優勝できなかった時に、早明戦もほとんど盛り上がらない時期があって。60点ぐらい取られた試合もあって、ぼこぼこに早明戦で負けて。僕の中のイメージで、早明戦ってどんなに力が離れていてもその試合だけは拮抗(きっこう)するっていう、ある意味都市伝説的なものがあったんですけど、それをも超越するぐらい早稲田の充実ぶりがすごくて。その時に清宮さんが記者会見で「明治しっかりしろ」っておっしゃられたんです。「明治が強くないと大学ラグビーは盛り上がらん」と。「早明戦っていうのはこんな試合しちゃ駄目だ」みたいなことを、当時僕はリコー(リコーブラックラムズ・現リコーブラックラムズ東京)の選手だったんですけど、そのことを記事で見ました。その時ものすごく刺さったというか、どちらが欠けても駄目という、大学ラグビー界の中においては常に雌雄を決する存在じゃなきゃ駄目だっていう、そういう実感をさせられた瞬間だったんですよね。今は少し明治が戻って来られましたけれども、お互いチャンピオンは最近取れていないので、今年こそは2校でチャンピオンを取れるようなシーズンにしたいなというふうに思います

——当日国立競技場に足を運んでくださる方々、テレビの中継で見てくださるファンの方々に向けてメッセージをお願いします。
:僕が監督になってからすごく思っていることは、やっぱり早稲田らしくって大事だなと思っていて。なかなかうまくいかないこともあったんですけど、徐々に早稲田らしく粘りがあるチームになってきたし、そういうところが明治のタレントぞろいのメンバーたちにどれだけ通用するかという試合になると思います。私にとっては本当にチャレンジのゲームになると思うので、その辺りを応援していただければなと思います
:本当にいつも温かい熱い応援をいただいているので、我々もよく選手に言っているんですけど、見てくれている人たちが明治のラグビーを応援してよかったとか、このチーム見ていたら明日頑張ろうと思えるとか、そういう存在でいなきゃ駄目だと言っています。そのための一番の結果というのが勝利であって、まずは自分たちは明治のプライドを背負って、早稲田相手に最後の最後まで諦めずにファイトし続ける。そういうスピリットを見ている人たちに伝えたいなと。そういうことで、何かしら自分たちの存在というものを感じてもらえたらうれしいなと思います。ただ、勝負事なので必ず43勝目は取りたいなというふうに思います

——早明戦に向けて意気込みをお聞かせ下さい 。
:100回目っていうこともありますし、もっと言うと今年のチームで勝ちたいという思いは非常に強いです。今の明治は非常に調子が上がってきていますし、去年の廣瀬くん(雄也・令6商卒)は素晴らしいリーダーでチームをけん引していました。多分今年の序盤は木戸くん(大士郎主将・文4=常翔学園)をはじめうまくいかない時間とかあったと思うんですけども、今はすごく彼(木戸)の色が出てきていますし、今年の明治のカラーは僕は明治っぽくってすごく好きですし、試合をするのが本当に楽しみです
:スローガンの通りですね。もう6年間日本一から遠ざかっている中で、明治が求められるもの、明治が期待されているものというのは我々は一番肌で感じていますので、101年目という新しい歴史を生み出すにあたって、どうしても優勝というスタートが欲しい。そういった意味で奪いに行くというこのスローガンに向けて、大学日本一を取りに行きたいなというふうに思います。今年の早稲田は本当に強いです。試合を見ていてもそうですし、実際春は戦って完敗しました。ここ数年で最も歯ごたえのある相手じゃないかなと思うぐらい状態がすごくいいので、そういうチームを超えてこそ価値というのはあると思います。我々は自分たちにフォーカスして、やるべきことをしっかりぶつけていきたいなと思います 

——ありがとうございました。

[ラグビー担当一同]

◆大田尾 竜彦(おおたお・たつひこ)平16人卒
 現役時代はスタンドオフとして活躍。早大卒業後は当時のヤマハ発動機ジュビロ(現静岡ブルーレヴズ)に所属し、トップリーグ通算150試合以上に出場。現役引退後はヤマハ発動機ジュビロでコーチを務め、2021年度より早大ラグビー部監督に就任した。

◆神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)平9営卒
 2013年度より、リコーブラックラムズで8年間指揮を執る。2021年6月1日より明大ラグビー部の監督に就任。監督就任1年目の2021年度、創部100周年の昨年度でチームを選手権準優勝に導く。大学時代にはナンバーエイトとして活躍し、大学1、3、4年次に選手権優勝に貢献した。