
(75)The final showdown ~奪還への戦い〜 神鳥裕之監督「当たり前のことを当たり前に徹底し続ける」
「今年こそ絶対に優勝を取りにいく」。木戸大士郎主将(文4=常翔学園)が今年度のスローガン『奪還』に込めた意味だ。関東大学対抗戦、そして日本一『奪還』へ。栄光を勝ち取るため闘球へと捧げた学生生活。最後の戦いに向かう4年生に明大での4年間とラストシーズンへの意気込みを伺った。10月26日より連載していく。
第31回は神鳥裕之監督(平9営卒)のインタビューをお送りします。(この取材は11月1日に行われたものです)。
――今年度のチームはいかがですか。
「すごくキャプテンの色が出ているいいチームじゃないかなと思います。去年の4年生が下級生から試合に出続けていた子たちが多いチームだったので、昨年度の中心選手がたくさんいなくなるというところからのスタートだったんですけれども、そんな中でキャプテンを中心にまとまりを持って、一日一日の成長を顕著に見せてくれるチームというのが、今年の一番の特徴だと思います。どんどんチームが成長していくチームという意味では、本当にどこまで伸びしろがあるのか、まだまだ底を見せない楽しみなチームだというふうに見ています」
――春夏を経て一番成長した点を教えてください。
「まだまだ未完成ですけど、一つはセットプレーですね。キャプテンの木戸大士郎(文4=常翔学園)が言っている明治の一番の心臓であるスクラムもそうですし、ラインアウトからのモールでのトライっていうのもそうですし。本当に春シーズンものすごく苦労して『明治大丈夫か』と言われるぐらいのパフォーマンスレベルだったと思うんですけど、ここに来て強みに変えられるところまでレベルも引き上がってきましたし、まだまだ伸びそうな気配もあります。早明戦きっかけに、全国大学選手権(選手権)で強い相手と試合をすることが続いていきますので、さらに成長できるんじゃないかなと思います」
――セットプレーにはどのような思いがありますか。
「やっぱりスクラムというのは、今年に限らず明治ラグビーの象徴的なものであると思います。FWでしっかりと相手を圧倒して試合を優位に動かすというスタイルは、いつの時代においても継承していかなければならない。現代ラグビーの中でセットプレーの重要性というのは皆が感じているので、どこのチームも強化しています。ですので、昔のように圧倒的な優位をゲームの中でつくり続けるのは難しいというのが、正直なところあるんですけれども、マインドとして上回る自信みたいなものを持って、試合に挑むっていうことはすごく大事だと思っています。ものすごく圧倒的に勝つシチュエーションは少ないとしても、しっかりとそのシチュエーションで勝つという部分をたくさん見せることが、我々にとって一番大事。そうすれば、今の明治のBK陣はものすごく対外的にも評価をいただいていますし、我々も自信のあるエリアなので、必ず得点につながってくると思います。ただ、このBKを生かすも殺すもFWの頑張りというのが一番重要になってくる。そういう理解で今チームの強化を進めているところです」
――春の取材の際に「より一貫性と再現性が高い方を選んでいくことが重要」とおっしゃっていましたが、その部分はいかがですか。
「落とし込みはかなりできてきていると思います。派手なプレーが去年は結構多かったと思うんですよ。それはそれで彼らのものすごく特別な能力だと思うんですけど、ただやはり同じシチュエーションでまた同じようなプレーを選んだ時に、同じプレーができるかっていうと、少しギャンブル的なプレーだと思っています。長い距離のパスを放って一番外にいる選手を走らすとか、そういうプレーで今までインターセプトされてトライされるようなシチュエーションがあったりしました。それよりも、ただしっかりまっすぐ走って短いパスをつなげて、スペースも残したまま最後ウイングにボールを渡してトライする。一見当たり前のようなプレーなんですけど、基本スキルをハイプレッシャーの中でしっかり遂行することって、実はものすごく大事で難しくて。これができると同じようなシチュエーションがあったとしても、もう1回再現性の高いトライが生まれる。こういうラグビーをすれば、明治の選手たちはもっと伸びるんじゃないかとスタートする時に感じました。しっかりと正しいスキルを使うこと。そういうスマートさですよね。こういった部分を夏の終わり頃くらいから、具体的にどんどん落とし込めている戦い方ができてきているかなと思っています」
――神鳥監督が大切にしていらっしゃる『凡事徹底』は今年度のチーム方針にも関係している部分はありますか。
「そこは大事にしたい。ラグビーの面においても同じだと思っていて、去年まではそこを落とし込むことが難しかったという反省もありました。自分自身が一番脅威なものってなんだろうと考えた時に、当たり前のことを当たり前に徹底され続けることが、やっぱり相手としての嫌さや厳しさがある。そういうチームになれるように取り組んでみたいというところの価値観が、今のコーチ陣たちと一致しました。練習でもすごく細かく言ってくれていて、少しでも人が流れてしまうとスペースが埋まってしまうので、しっかり真っすぐ走るっていうのが基本ですよね。質問の答えとしては、基本を徹底するっていうのはラグビーにおいても同じだというふうな考えでやっています」
――高いレベルの戦いで勝つためにチームとしてどのようなことを意識して練習してきましたか。
「やっぱり遂行力ですよね。当たり前のことができるかどうかっていうところで、高いレベルの試合になってくると、特別なプレーとか練習でやってないようなプレーなんていうものを選択したら、絶対にうまくいかない。厳しいプレッシャーの中で、今までやってきたことが遂行できるかどうかっていうところが勝負になってくると思います。そのための準備という観点で言えば、今までの中でも一番と言っていいぐらいしっかりと下積みをしてきた手応えはあります」
――昨年度の早明戦を振り返っていかがですか。
「ノーガードの試合でしたよね。史上最多得点で、後半はかなりトライを取られてすごい展開の試合になった印象があります。本来であれば大差で勝てる展開だったんですけれども、早稲田の選手たちも最後まで心は折れずにチャレンジしてきたっていうところが、やっぱり早明戦たるゆえんというかね。引き締まった瞬きもできないような展開もあれば、去年のような殴り合いの展開もあるんですけれども、総じて言えるのはお互い最後の最後まで諦めずに、プライドを持ってぶつかり合う試合だということころは去年すごく感じました。今年はもう少し締まった試合をしたいなと個人的には思います」
――早大に勝つためのキーポイントを教えてください。
「それはやっぱりセットプレーじゃないですかね。早稲田も今年ものすごくスクラムに自信を持っていると思うんですよ。そのスクラムに対して明治のプライドをどれだけ見せつけられるかが、早稲田に勝つための一番のポイントだと思います。もう絶対に春みたいに負けるシチュエーションをつくらない自信もあるので、しっかり組み合ってここぞという時には自分たちが優位性を保てるようにする。こういうような絵がスクラムで見られれば、うちのBK陣っていうのはすごく期待も持てますので、そういう展開を見せることができれば早稲田に勝つことができると思っています」
――早大の警戒しているプレーはありますか。
「プレー面で言うと、やっぱりスペースを与えて矢崎由高(早大)に走られたりとか、服部亮太(早大)にプレッシャーをかけられずに長いキックでエリアを取られたりして、自陣で戦うようなシチュエーションになってしまうと苦しくなってくると思うので、逆に彼らにしっかりとプレッシャーをかけて、スペースを奪っていくプレーを展開しないといけないというふうに思っています」
――神鳥監督が日本一を『奪還』するために目指すチーム像を教えてください。
「全員がその目標に向かってコミットしているような状態。ものすごく抽象的ではあるんですけれども、結局紫紺のジャージーを着て戦える選手は2、3人だけというのは、シーズンが始まった頃から分かっているわけで、それ以外の選手も含めてどれだけこの『奪還』という言葉を自分事のように捉えて、やるべきことを徹底している状態をつくれるか。これは非常に難しいと思うんです。ラグビーに限らず学生スポーツは、試合に出ていない選手であったり、まだまだ卒業まで遠い1年生の選手であったりがいて。そのようなメンバーも含めて全員がモチベーションのレベル、優勝というものに対する思いを自分事のように捉えるマインド、こういったところが高まった時に目標っていうのは達成されるものなのかなと思っているので、そういう仕掛けは最後の最後まで、我々の仕事として続けていきたいというふうに思っています」
――ありがとうございました。
[久保田諒]
◆神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)平9営卒
2013年度より、リコーブラックラムズ(現リコーブラックラムズ東京)で8年間指揮を執る。2021年6月1日より明大ラグビー部の監督に就任。監督就任1年目の2021年度、創部100周年の昨年度でチームを選手権準優勝に導く。大学時代にはナンバーエイトとして活躍し、大学1、3、4年次に選手権優勝に貢献した。
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