(8)パリ五輪競歩日本代表・濱西諒/明大スポーツ第538号特別インタビュー

2024.07.19

 4年に一度の世界最大のスポーツの祭典・パリ五輪の開幕まで残りわずか。本記事では紙面に載せ切れなかった濱西諒選手(令5文卒・現サンベルクス)のインタビューを掲載します。
(この取材は6月2日に行われたものです)

――競歩を始めたきっかけを教えてください。
 「一言で言えば長距離で通用しなかったのが要因ですね。高校1年時に同級生に長距離選手が10人ぐらいいました。その中で順位が足りずに僕が出るものがないとなった時に、顧問の先生から競歩をやってみるかと言われました」

――競歩の魅力はどういったところですか。
 「ほとんどの20キロのロードレースは片道500メートルの折り返しコースなので最大で20回、反対側も含めたら40回応援できるのは、見ている人からすると魅力の一つだと思います」

――明大を進学先に選んだ理由を教えてください。
 「大学で競技を続けるなら競歩が強いところを考えていました。決め手としては、1個上でインターハイを優勝した古賀友太さん(令4商卒・現大塚製薬)が明大にいたこと、あとは野田明宏さん(平30商卒・現自衛隊体育学校)が自分と同じ大阪出身で明大を卒業して国際レースで活躍されていたことがきっかけです。野田さんと同じような道を辿っていきたいなという思いで明大にしました」

――今でも同じ代のOB同士で交流はありますか。
 「下條(乃將・令5情コミ卒・現NDソフト)はたまに連絡取り合ったりしますね。この前は富田(峻平・令5営卒・現ロジスティード)とご飯に行って近況報告をしました。野口(航平・短距離支援コーチ)とか小林(枚也・令5法卒・現ROOTS)は八幡山によくいるのでグラウンドで喋ったりします」

――関東学生対校選手権では現役明大生の近藤岬選手(理工3=十日町)が優勝しました。
 「あれは僕の指示通りでした。『前に出たところで何もできないから、ずっと後ろにいて最後だけ前に出ろ』って言ったら、その通りに動いてくれたので僕の指示通りです。これ書いてくださいね(笑)」

――現役の競歩ブロックの中で注目している選手はいますか。
 「小迫(彩斗・文1=倉敷)はSNSや実際に会った時に『競技についてこんな感じで考えているんですけど、どう思いますか』って聞いてきます。そういう強くなりたいっていう思いには応えたいと思うし、今後も期待したいですね」

――濱西さんにとって三浦コーチはどのような存在ですか。
 「とても大きかったと思います。僕が入学した年の夏ぐらいから三浦さんが明大のコーチとして加わりました。三浦さんの指導方針としては自分たちで考えて取り組むことを大事にしていると思います。4年間、三浦さんの指導のもとで試行錯誤しながらやってきたことが今も生きていると思います」

――三浦コーチにインタビューした際に、濱西選手が大学を卒業してから伸びた理由として、ストレッチが習慣化したことを挙げていました。
 「学生時代から体が硬いという自覚はあったのですが、改善できずに卒業してしまいました。ただ、普通の人が思い浮かべるような柔軟とか体幹だけではなくて、仕事で体を動かすことも僕にとってはストレッチになったと思っています。体が動く状態で寮に帰って、柔軟とか体幹トレーニングをやることによって質も上がっていきます。仕事、トレーニング、練習が習慣化したことで、継続的に体が固まらずに1年間を過ごせたのが大きかったです」

――社会人で競技を続けるにあたり、サンベルクスを選んだ理由はありますか。
 「陸上を続けないなら食品業界の仕事をしたいなと思って、食品メーカーとか物流、小売業の説明会に参加していました。サンベルクスの説明会に行った時に、担当者の方が陸上をやっていることを気にかけてくださいました。そこからは陸上は関係なく普通に就活して、サンベルクスから内定をいただいた形です。ご厚意で支援選手として続けさせていただくことも可能かつ食品系の仕事ができるということで入社を決めました」

――今年2月に行われた日本選手権では緊張はされましたか。
 「いや、そこまでではないですね。3番以内に入れればラッキー、5番付近を狙ってリレーの方の選考に絡んでいければと思っていました。なので、絶対に(選考ラインに関わる)3番以内に入らないといけないという感じではなかったです」

――5月に行われた東日本実業団では日本新記録を出しました。
 「あの時も絶対に日本新記録を出してやろうみたいな感じではなくて、せっかくなら狙ってみようみたいな感じでした。東日本実業団は2週間の合宿の最終日に、スピード練習の一環として捉えていました。5000メートルWのための調整もしていなかったので、できるなら記録も狙ってみようかなくらいの気持ちで出場しました」

――距離だけでなくスピード面も強化できた理由はありますか。
 「昨年度、1年間を通して練習の質を上げることができたのがかなり大きい要因です。あとは、仕事面での変化も大きかったと思います。僕はデスクワークに向いていないと思っています。品出しとか加工といった仕事で実際に体動かしたおかげで、体が固まらずに練習に入っていけて、質を上げることができたのかなと思います」

――具体的にどのような面で質を上げていけたと思いますか。
 「昨年の4月から日本選手権に向けての強化のために、長い距離を普段のストロークから歩いていくという目標を持って取り組んでいました。あとは仕事のおかげでしっかりと体が動く状態で長距離を歩くことができたことが一番大きい要因かなと思います」

――五輪ではどのようなレースをしたいですか。
 「僕は集団の後ろの方で機会を伺うよりも前の方に出てくる方が得意なので、しっかり攻めたレースをしたいなと思います」

――ご自身が五輪に出る姿を通して、どのようなことを伝えたいですか。
 「僕が競歩を始めた背景を知らない人がほとんどだと思いますが、一言で言えば長距離で挫折して競歩でやってきた結果が五輪出場につながりました。 何か目標があるなら諦めないで方向転換しても新しい目標が生まれるなら、その目標に向かって全力でやることの大切さを感じてもらえたらうれしいですね」

――競歩を五輪で知る人も多いと思いますが、どんなところに注目してほしいですか。
 「普段何気なくやっている、歩くという行為を極めたらどれだけ速いのかを見てもらいたいと思います。1周あたり1キロなので、タイムをとって実際にチャレンジしてほしいですね。実際にやってみると結構難しいと思います」

――五輪における目標はありますか。
 「金メダルを取ることが目標です。五輪という舞台を楽しんで笑って終われたら一番かなと思います」

――ありがとうございました。

[島田五貴、松原輝]

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