
(3)ルーキー特集 第3弾 ~三浦佳生編①~
今年度も頼もしいルーキーたちが紫紺の門をたたいた。7回目を迎える今回のルーキー特集でも例年に引き続き、競技の話から普段は見えない選手の意外な一面まで、それぞれの魅力をお届けする。
(この取材は2月22日に行われたものです)
――スケートを始めたきっかけを教えてください。
「元々親がスケートを見るのがわりと好きで、夏の短期教室が開催されていた時、僕の意思ではなく両親がそれに申し込んで何げなく滑ったのが始まりですね」
――初めてリンクに立った時の感覚は覚えていますか。
「いきなり真ん中に連れていかれたんですけど、もう本当に手すりも何もない所にいきなり連れていかれたので、もうどうしようもなく動けずという感じでした。『これどうすればいいの』みたいな。『一生戻れないじゃん』みたいな感じでした」
――そこからどのように成長していきましたか。
「習っていって少しずつできるようになって、少しずつ練習の頻度、通う日数も多くなってきて、徐々に本格的にスケートを始めていくという感じになりました」
――いつ頃から本格的になりましたか。
「その夏の短期教室に初めて行ったのが4歳の時なんですけど、5歳の時にちゃんと先生に習うようになりました」
――三浦選手を主に小、中学生時代に指導されていました、都築章一郎先生との出会いを教えてください。
「その前に習っていた、都築奈加子先生から紹介されて都築章一郎先生にも習い出すようになりました。中学1年生まで習っていました」
――印象深い出来事はありますか。
「そうですね、わりと常に怒られていました(笑)。でも本当に教えるのが上手な先生で、何より選手ファーストというか、全部が選手を思っての行動なので。スケートの技術面も上手にはなったんですけど、どちらかというとメンタル面の方が一番鍛えられたかなという感じです。リンクの横に広い公園があったんですよ。そこを30周、朝一の4時ぐらいから走っていて、まるで軍隊のトレーニングみたいな感じでした(笑)。その後、氷上に上がるといった練習で、一番鍛えられたのは心かなと思っています」
――技術的な側面ではどのような指導を受けていましたか。
「細かい指導とかもあるんですけど、まずは慣れる前からジャンプをたくさん跳ばすという。4回転に挑戦するときとか、高難度のジャンプになればなるほど恐怖心も出てくるもので。小さいうちから、恐怖心がつく前から先生が(ジャンプを)跳ばせていたので、そのおかげで僕は怖さがなく4回転を締めることができました。それが今一つ持ち味になっているなと思いますね。(その経験が今のスピード感などに結び付いていますか。)そうですね。みんなから『怖くないの?』と言われるんですけど、僕は怖いと思う前から跳ばされてきたので。それが今につながっているのかなと思います」
――スピードが出て、疾走感が強みの選手はその分エネルギーの消費なども激しいと思うのですが、スタミナには自信がありますか。
「ナショナルのトレーニングセンターに行くと、マスクをつけて呼吸がしにくい状態でランニングマシンを走って、1分ずつどんどんスピードと傾斜が上がっていくというのをやります。そのデータを見ても、わりと他の人よりは走れているかなと感じていて、体力には自信があると思います」
――陸上の走り込みなどはしますか。
「最近はあまりそういうのはしないんですけど、昔はそれこそ外周30周とか走っていたりしたので、そういったところがもしかしたら生きているのかなと思いつつ。 今はどちらかというと筋力トレーニング、足を安定させるためのトレーニングをしています」
――具体的にどのようなトレーニングをしていますか。
「今(2月22日時点)はフリップを一番練習しているんですけど、僕は左足に癖があるので、本当に右足に比べて全然左足が安定していなくて。スケートって慣れてくると滑ることはできるんですけど、安定するためにはもっと筋力や、使い方もそうですけど、いろいろやらないといけないところがあって。今はトレーナーさんにしっかり見てもらっていて、筋量も上げつつ、使い方も見てもらっています」
――ジャンプの話で言うと、都築章一郎先生の『アクセルは王様のジャンプ』というお言葉もあると思いますが、アクセルに対して思い入れはありますか。
「自分はアクセルは本当に跳ぶのにすごく時間がかかって、特にトリプルアクセルは1年半ぐらい時間がかかりました。僕が練習を始めて半年くらいの時に優真(鍵山優真・中京大)も練習を始めて、彼は1週間で跳んじゃったんです。僕はその後も全然跳べなかった記憶があります。(アクセルは現在の意識的な部分ではどうですか。)苦手意識もないですけど、得意でもないという感じです」
――逆に一番好きなジャンプは何ですか。
「サルコーですね。元々そんなに得意ではなかったんですけど、跳び方をかなり研究してやっていたら、一番好きになりました」
――一番最初に習得した4回転ジャンプは何ですか。
「4回転サルコーですね」
――それはいつ頃ですか。
「小学6年生の時に1回降りていますけど、基本的には中1の時に降り始めてプログラムに入れていきました」
――トーループなどはいかがでしたか
「アクセルなんかより全然早かったです。僕は左足に癖があるのでそれもあってアクセルはなかなかうまくいかなかったんですけど、トーループの方が跳びやすくて、なんかすんなり跳べちゃいました」
――今までで大変だったことや、つらかったことはありますか。
「一番つらかったのは、2022年の全日本選手権(全日本)ですね。というのも、そのシーズンはわりとシーズンを通して順調にきていて、GPシリーズも2回表彰台に登らせてもらって、GPファイナルにも出場していました。世界選手権を狙っていくということで『絶対に表彰台を狙っていこう』と思っていた中で、SP(ショートプログラム)で2回転んでしまって13位スタートになって、かなりつらかったです」
――今まで滑ってきた中で、一番印象に残ってる大会はありますか。
「2023年の四大陸選手権(四大陸)ですね。その年の四大陸のFS(フリースケーティング)はすごく印象に残っています。(自分の演技の)前の選手がすごくいい演技をして、本当に自己ベストを出さないと優勝がないという状況の中で、高地での試合、スタミナも厳しいという中で不安しかなかったんですけど、あそこで一発いい演技をかませたのが一番印象に残ってます」
――2023~24シーズンですが、FSで演じている『進撃の巨人』で、振付師のシェイ=リーン・ボーンさんの下へアメリカに行かれていました。指導を受けていかがでしたか。
「振り付け自体も、アイデアも今までにないものばかりでした。自分が『なにか少し合わないな』と思っているときはそれを言わなくても、シェイリーンさんがチェンジしてくれる形で、すごい振付師さんだなと思いました。羽生くん(羽生結弦)やネイサン・チェン(アメリカ)だったり、いろいろな人の振り付けをされているだけあってさすがだなと感じました」
――具体的にどういうところで、そういったものを感じましたか。
「シェイリーンさんは『進撃の巨人』を知らなかったんですけど、少しアニメのシーンを見せただけで、もう『進撃の巨人』になっているんで『すごいな』と。でもシェイリーンさんが動いているとできそうだと思うんですけど、自分がやると実際には全然できないみたいな感じで、本当にもうすごかったです」
――振り付けの過程を教えてください。
「まず来た段階で、音源のどこを使うかというのも決まっていなかったです。初日は4時間合計でやった中で、決まったのが最初のポーズから5秒ぐらいで。なので『あと4、5日で完成するのかな』と不安になったんですけど、ちゃんと完成しました」
――コーンを使った練習もされていたそうですが、どういった狙いがあるものですか。
「ちゃんとディープエッジで乗るという練習なんですけど、全然やったことがなかったのでうまく体重が乗っからなくて、転んじゃうみたいな感じでした。それができているときはいい位置で乗れていて、いいペースで滑れているという証拠なので、すごくいい経験というか、いい練習になったのかなというふうに思います」
――『進撃の巨人』はどの媒体で見ていますか。
「結構アニメ派なので、アニメで見ているという感じです」
――いつ頃見始めましたか。
「小学生の頃から知っていますけど、その時からアニメが出るたびに見ているという感じです。音楽を聞いてると『使えそうだな』と思っていたんですけど、まさか本当に使うとは思っていなかったです」
――実際にプログラムで使おうとなった経緯を教えてください。
「最初に振り付ける前にZOOMでシェイリーンさんとミーティングをするんですけど、その時に『普段は何をしているの』みたいな質問をされて『日中は家で寝ながら、アニメを見ています』というふうに言ったら『アニメでやるのは近未来的な動きができて、新しくて面白いかもね』みたいな話になって、その流れで気付いたらアニメの曲を使っていました」
――アニメの曲を使うという新しい試みをしていますが、シーズンを通して滑っていく中で変化などはありましたか。
「競技をしていくとアニメでやっている特別感っていうのももうなくて。やることで必死ですね。毎日曲を聞いていくので、だんだん、嫌いまではいかないですけど、つまらなくなってくるみたいな(笑)。でも使った狙いの一つとして『見てもらうこと』というのもあって、フィギュアスケートをもっといろんな人に見てもらいたいと思った時に、アニメを使えば、今回だったら『進撃の巨人』のファンの人が見てくれるのかなというふうに思ったりもして、使ってみようというのもありました。GPファイナルや全日本は地上波で流れていて、そこで知ってくれて見てくれた人がいたみたいで、それはすごくうれしかったです」
――プログラムの中で特にこだわって進撃の巨人を表現した部分を教えてください。
「3曲構成で、1曲目のところで3本目のジャンプを跳びにいく前に1回心臓を捧げるんですけど、 そこもシェイリーンさんに組み込んでもらったこだわりポイントの一つです。1番は最後のライナーパートです。コレオシークエンスがあるところで、一番疲れている部分で一番ハードな動きが入ってくるので、きついですけど、巨人化したり、かんだりといった見せ方があるので一番こだわっています」
――選曲に関連してですが、音楽はよく聞きますか。
「周りは基本的に洋楽やK―pop、J―popあたりを聞くと思うんですけど、僕はあまりそういったジャンルは聞かないですね。スケートに使えそうだなというのをプレイリストに入れて一回(演技をしている様子を)想像してみて、少し気になったら音楽を編集してみてもう一度考えるというのをやっています」
――2022〜23シーズンではFSで『美女と野獣』を使用していましたが、ディズニー作品は好きですか。
「結構好きです。ディズニー自体もそうですけど、ディズニーランドもシーも好きなので。その年は元々違う曲をやっていたんですけど、変えようと思った6月くらいにディズニーに行って、美女と野獣のアトラクションに乗ったんですよ。そしたら音楽が良すぎて『あぁこれいいな』と思って、変えるとなった瞬間にもう絶対『美女と野獣』だと。当時はみんな全然イメージが湧かない曲かなと思っていたんですけど『いけそうだな』という気持ちでいったら意外とマッチしたという感じです」
――スケートの他にやりたいと思った競技はありましたか。
「僕は野球がやりたかったですね。最初に習っていたリンクが明治神宮のリンクなんですけど、当時先生とリンクの中で野球ごっこみたいなのを小さい頃はやっていました。そんな感じで野球が好きでした。多分スケートをやっていなかったら、野球やっていたかな」
――プロ野球もお好きということですが、好きな球団はありますか。
「ソフトバンクファンです」
――それはどういうきっかけですか。
「スケートの先輩がホークス好きで、その流れで僕もホークスファンになりました」
――それはいつ頃ですか。
「なったのは小学6年生ぐらいの時です」
――一番好きな選手を教えてください。
「牧原大成選手(ソフトバンク)が一番好きですね。なんでもこなすところが好きです。パワーもありますし、足も速いですし、何より守備がすごいです。めっちゃ好きです」
――甲斐拓也選手(ソフトバンク)とも対談されていましたが、いかがでしたか。
「貴重な体験でした。ネックレスのスポンサーさんの関係でお会いさせてもらって。いろいろな競技の選手と交流できることは、お互いにとっていいことですし、こういう交流もどんどん深めていけたらいいかなと思います」
――実際にお会いして緊張されましたか。
「緊張しましたね。好きな選手の目の前だったので」
――今永昇太選手(当時横浜DeNA、現シカゴ・カブス)とも対談されていました。
「2023年の四大陸で僕優勝したんですけど、今永選手はWBCの決勝で先発登板されたということで、その2大会とも開催地がアメリカで、どちらも横浜を拠点にやっているというつながりで対談企画を組んでいただきました。僕個人が野球好きなので、とにかくうれしかったです」
――現地観戦もされているそうですね。中田璃士選手(TOKIOインカラミ)とも一緒に行かれたそうですが、どういった試合を見に行かれましたか。
「ジャイアンツの試合でした。基本的に東京ドームや横浜スタジアムなど近場で見ようということで。その時は璃士が全然野球のことを知らなくて『見に行きたい』と言っていたので」
――中田選手を連れて行ってあげたのですね。
「そうです。ジャイアンツの応援専用席みたいな場所で見ていたんですけど、璃士がジャイアンツの席なのに、(相手の攻撃の時に)相手チームの選手を一瞬応援したりして(笑)。『やめろやめろ』っていう感じでした(笑)」
[橋本太陽、堀口心遥]
②に続きます
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