(7)「強さと速さ、スマートさを持ったチームに」神鳥裕之監督 新体制インタビュー

2024.04.07

 昨年度、明大は全国大学選手権(以下、選手権)決勝に進むもあと一歩届かなかった。雪辱を果たすために今年度掲げるスローガンは『奪還』。木戸大士郎主将(文4=常翔学園)が先頭に立ち、6年ぶりの頂点を目指す。本連載では新チームの監督と幹部となる4年生のインタビューを全7回にわたって紹介します。

第7回は神鳥監督のインタビューをお送りします。(この取材は3月22日に行われたものです)

――昨シーズンを振り返っていかがですか。
 「昨シーズンは多くの方に注目されるチームでもありましたし、いろいろな方に期待をしていただいて、特別な1年でしたが、それにふさわしいチームだったと思います。結果はわずかに(選手権優勝に)届かなかったのでいいシーズンだったとは言えないですが、(選手権)決勝での声援であったり、最後の廣瀬(雄也・令6商卒・現クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)へのコールが物語るように、優勝という大きな目標に向かってチームで団結して、一つの目標に向かって戦えたかなと思います」

――昨年度出た収穫と課題をそれぞれ教えてください。
 「(昨年度は)100周年という次の未来につながるシーズンで『ハイブリッド重戦車』というテーマでした。明大ラグビーが持っている本来の強いFWの激しいコンタクトと、タレントあるBKが展開していくという二つの要素を掛け合わせたスタイルをしっかり再現することができたのは、これからに向けて大きな収穫だったと思います。課題としては、悪天候や試合中断などあらゆる状況の中で、賢い選択や柔軟性を持って戦う引き出しの部分は、帝京大に比べると足りなかったのかなと思います」

――昨年度のAチームの敗戦は帝京大戦のみでしたが、帝京大とどの点で差が出たと思いますか。
 「帝京大の方が懐が深いというか、あらゆる状況の中でも対応でき、チームとしても戦術面やメンタル面でも大人なチームで、そういった部分のうまさはあったと思います。明大の方ははまった時は非常に力を発揮しますが、自分たちのフィールド、流れに持ってこれないと苦戦することがありました。実際去年戦っていく上でも、明早戦や(関東大学対抗戦の)慶大戦のように時間を持っていかれるようなことがあって、そういった状況でも戦い抜けるオプションの多さのところは(帝京大と)差が出たのかなと思います。選手が持っている個々の能力は負けていないと思っていて、ラグビーはチームスポーツなので、特に選手権決勝のようなイレギュラーな状況では、帝京大の方が力を発揮しやすかったのかなと思います」

――今年度のチーム方針を教えてください。
 「チームとしては選手たちが考えた『奪還』というスローガンを掲げて、明大は常に優勝を争えるチームであるべきという中で、準優勝までは来ていますが、優勝まではたどり着けていません。そこに対して昨年チームで再現した『ハイブリッド重戦車』という、強さと速さを掛け合わせたラグビースタイルをもっと追求していくことが大きな方針になると思います。100年培ってきたスタイルを継承しながら、スマートさといった新しいスタイルを入れていきたいと思います」

――そのスマートさは昨年度のシーズンのどのようなところから付け加えていきたいと感じましたか。
 「昨年度もスマートさがなかったわけではないので、そこはあまり着眼していなかったのですが、明大は個々の能力がすごく高いので、シーズンの最初は自分の能力を使って(ディフェンスを)抜きにいけば結果はポジティブになります。しかし個人の能力で突破していくことは、相手のレベルが高くなるとそう簡単にいかなくなって、自分たちの引き出しがなくなってしまうので、スペースを見つけたら人を使うというスキルが必要です。このスキルを使った方が、レベルの高い試合になった時に効果的になるので、より一貫性と再現性が高い方を選んでいくというのはこれからの明大に必要な要素だと思います。例えば裏に蹴ってボールを取ってトライを取るプレーというのは、見ている人にとってはすごく面白いですが、そのプレーを国立競技場のハイプレッシャーの中でできる確率はどのくらいあるかを考えた時に、上手にスペースにボールを運んでトライを取るという一貫性と再現性の高いスキルを持つことができれば、さらにチームは奥深くなるなと思います。そのために今やっている練習では、パスを取る位置やスピードなど高校生でもやっているようなベーシックのところを、ストレスを掛けながら基本的なトレーニングを行っています」

――今年度のメンバー争いの展望はいかがですか。
 「FWは8人中5人、BKは9、10、12、15番といったラグビーのセンターラインが卒部して、チームの顔となる選手が一気に抜けましたが、これはもう誰もが分かっていたことです。(新体制)最初のミーティングでも『ラグビーをよく見る方や明大をよく知る方は、主力選手が多く抜けたと言うかもしれないが、それに耳を貸す必要はなく、むしろこの101年目という新たな明大を生み出す最初の年にふさわしいチームだと思っている』と選手に伝えました。本当に全て一からというか、誰でも上に上がれるチャンスがあるので、これ以上ないメンバーかなと思っています」

――ポジション争いでカギになってくる選手はいますか。
 「個人で名前を挙げるのは難しいですが、昨年度4年生が試合に出ている中で、なかなかチャンスを得られなかった選手全員になると思います。高校日本代表で入ってきた、ジュニア世代ではハイキャリアな選手も、なかなか明大ではすぐに試合に出たりすることがないですが、本来持っている能力を発揮できる環境が整っているので、そういった意味で僕は全ての選手に注目したいです」

――注目の新1年生はいますか。
 「注目している選手と言われたら全員なのですが、高校日本代表の選手たちのパフォーマンスはすごく期待していますし、日本代表になれなかった選手たちにも注目しています。例えば雨宮(巧弥・法1=山梨学院)や佐藤蓮(文1=常翔学園)など、高校日本代表候補に最後まで残っていて、あと一歩で高校日本代表に選ばれた選手たちがどう奮起するか注目していますし、まさに海老澤(琥珀・情コミ2=報徳学園)は高校日本代表に選ばれていないので、全ての選手に期待しながら見ていきたいです」

――春シーズンの目標を教えてください。
 「新しい顔ぶれで戦うことになるので、去年やろうとしたスピードや強さ、そして今年から入れるスマートさといった部分が、強豪相手にハイプレッシャーの中でパフォーマンスできるかを見てみたいです。具体的に言えば、スクラムでしっかり相手をドミネートできているか、スピードの観点で言えば走るスピードもそうですし、リロードの速さや最後まで諦めずに追いかける速さ、判断のスピードだったり、そういった部分でいいパフォーマンスができているか。また、エリアの取り方やスペースにボールを運ぶスキルなど、一つ一つの細かなプレーを今やっているので、分解した形でそれを試合でどこまで生かせるかというところを見ていきたいと思います。あまり結果視点にならずに、トレーニングの中でやっている事がどれだけゲームの中で出てくるかを見ていきたいです」

――ありがとうございました。

[晴山赳生、久保田諒]

神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)平9営卒
2013年度より、リコーブラックラムズ(現リコーブラックラムズ東京)で8年間指揮を執る。2021年6月1日より明大ラグビー部の監督に就任。監督就任1年目の2021年度、創部100周年の昨年度でチームを選手権優勝に導く。大学時代にはナンバーエイトとして活躍し、大学1、3、4年次に選手権優勝に貢献した。