
(22)貫かれた人を思う心 大島光翔
12月21日から長野市・ビッグハットで行われた全日本選手権(以下、全日本)。明大からは5人が出場し、各選手が目標に向かって大一番を戦い抜いた。演技を終えて各選手が抱いた思いはさまざまだが、大舞台で堂々と氷上を舞う姿は人々の記憶に残る演技となったに違いない。
本企画では「明大スポーツ第535号」の拡大版として、4人の選手それぞれの言葉とともに今大会を振り返る。第4弾は、見る人々を楽しませる演技で魅せた大島光翔(政経3=立教新座)の記事をお届けする。
本番の舞台
「一つのミスも許されない状況だと思います」。総合12位以内を目指し、結果を残すべく強い気持ちをもって全日本に臨んだ。SP(ショートプログラム)は最終グループの一番目に滑走。2023年に公開された映画『The Super Mario bros. Movie』から2曲が用いられるプログラム。冒頭、トリプルアクセルは高さのあるジャンプで着氷を決めたが、続く2本のジャンプでは乱れが出た。演技後半は「スーパーマリオ」でおなじみのテーマ曲に乗りステップを見せ、観客からの手拍子が起こる。ゲームや映画の世界を表現した振り付けやコミカルな表情に加え、衣装に隠されていたアイテムを一つずつお披露目していく。他の選手にはないパフォーマンスで、見る者の視線をくぎ付けにした。衣装は東日本選手権までとは異なる部分もあり、全日本で初披露となったのは左足の「ファイアフラワー」。そして最後のポーズで首元のファスナーをおろして見せた赤いインナーの文字はMからKに変わっていた。細部まで見どころの詰まった演技は、初めてプログラムを見た人だけでなく、今までにプログラムを見たことがある人にもささやかなサプライズとなった。演技後には挨拶をして会場を見渡しおどけた表情で衣装をアピール。最後までユーモアあふれる姿を見せ、観客に向かって深くお辞儀をしてリンクを後にした。
持ち味は発揮されたが、自身にとっては不完全燃焼だった。得点発表が終わると、悔しい結果に涙がこぼれ落ちる。競技で結果を残したい意志が確かにあるからこそ本番で出し切れなかった悔しさは大きかった。演技後のインタビュー冒頭、声を震わせながらも聞き手の目を見て思いを話した。「手拍子のおかげで楽しんで滑ることができたので本当にありがたい気持ちでいっぱいです」。リンクに立つ大島の支えとなった観客への感謝を表した。出番を前に感じた緊張についてもありのままに話した。自身の心境を受け入れながら「この悔しさと1年間このために頑張ってきた自分を信じてFS(フリースケーティング)の4分間を頑張りたい」と前を向いて意気込んだ。
(写真:映画の世界を存分に表現する)
周囲の人の言葉がパワーに
SP20位発進で迎えたFS本番。名前がコールされると、たくさんの声援に送り出された。1本目のジャンプは、今季試合で初めて挑んだ4回転ルッツ。力みが出て2回転になったが、その後2本のトリプルアクセルはしっかりと決め安定感を示した。それでも、後半の3回転ジャンプで点数を伸ばし切れず、総合22位で今大会を終えた。
(写真:気持ちを立て直しFSに臨んだ)
SPからFSに向けて気持ちを立て直せた訳には、周りの人からの声がある。「落ち込んでいた部分もありましが、身内や周りの方々に『良かったよ』という風に褒めてもらえて、自信をなくさずにFSを滑ることができると思ったので、本当に周りの方のおかげでここまで来られました」。多くの反響を呼んだSP。見てくれていた人の声が救いとなっていた。
惹きつける力
「試合に出る時や人に演技を見てもらっている時、人前に出る時も、どんな状況でも、やっぱりその人が見ていて笑顔になれるような、そういうスケートができたらいいなと思います」。自分のことを知る人から初めてスケートを見る人まで、たくさんの人の存在を思い、その思いをスケートを通じて体現する。大島の中で変わらぬ意志は大舞台でも貫かれた。
(写真:最後まで見る人を楽しませる大島)
〝スタァ〟の愛称とともに人を楽しませる心の持ちように注目されることがある大島。「人それぞれ持ち味や特徴が違っていて、他の選手も本当に輝く武器を持っています。自分の場合は、その持ち味が皆さんの目で見て分かりやすい形だったのかなと思います」。自身の持ち味は1人の選手としての一つの在り方。幼い頃から切磋琢磨(せっさたくま)した仲間たちにも光る持ち味があると伝える。人を思う温かい気持ちが、見る者を惹きつける一つの所以だろう。
全日本で味わった悔しい思いも、得られた経験も、大島を強くする糧となる。氷上を照らす光は輝きを増して、この先も人の心を魅せていく。
[守屋沙弥香]
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