(21)感謝の思いを胸に 笑顔で遂げた3分間 本田真凜

 12月21日から長野市・ビッグハットで行われた全日本選手権(以下、全日本)。明大からは5人が出場し、各選手が目標に向かって大一番を戦い抜いた。演技を終えて各選手が抱いた思いはさまざまだが、大舞台で堂々と氷上を舞う姿は確実に人々の記憶に残る演技となったに違いない。

 

 本企画では「明大スポーツ第535号」の拡大版として、4人の選手それぞれの言葉とともに今大会を振り返る。第3弾は今大会が競技人生最後の演技となった本田真凜(政経4=青森山田)の記事をお届けする。

 

決意の最終章へ

 学生ラストイヤー、そして自身の競技人生の最終章と覚悟を決め迎えた今シーズンはSP(ショートプログラム)、FS(フリースケーティング)のプログラムをともに一新。SPに選曲したのは『Faded』。2016年の世界ジュニア選手権優勝、翌年の同大会でも準優勝、全日本選手権では4位。名実ともにフィギュア界のトップクラスをひた走ってきた本田にとって、ここ数年は競技面で思うような結果を残すことができず、もどかしいシーズンが続いていた。そんな自分自身の葛藤とこの『Faded』が醸し出す〝光と影〟の世界観を重ね合わせたプログラム。振り付けは以前も手がけてもらったことのあるシェイリーン・ボーンさんに依頼した。「過去に振り付けていただいたプログラムが毎日練習していて楽しくなるような、挑戦させてもらえるようなプログラムだった」。自身の尊敬するコーチに師事し表現面を一から鍛え直した。

 

(写真:ラストシーズンは表現面を磨き直した)

恩返しのために

 オフシーズンの努力はシーズン開幕後目に見える結果として現れた。昨年度の公式戦では安定感に課題があったスピンやステップは東京選手権、東日本選手権でいずれもレベル3以上を獲得。東京選手権では演技全体のバランスに乱れが生じ9位に終わったが、約1カ月後の東日本選手権では三つの項目でレベル4を取りSP4位。FSの『リトルマーメイド』でも持ち味の妖艶な演技で観客を魅了し総合5位で9年連続での全日本出場を決めた。

(写真:コーチと話し最後の演技へと向かう)

 大会を重ねるごとに演技の質が上がり万全の状態で本番を迎えられると思った矢先、アクシデントに見舞われる。SPの演技前日に自身のS N Sで右骨盤に痛みが出たことを公表。一時は棄権することも頭をよぎったと言う。気持ちが沈んでいく中で本田を支えたのは温かく見守ってくれるファンへの感謝の思い。「どんなときでもたくさん応援してくださっている方がいて、そのような方に棄権という形ではなくて、自分に今できることを一生懸命やったら恩返しに少しでもなるかな」。自力でつかんだ全日本への切符。自身が「競技者として大会に出場している自分が一番輝けている場所」と語る晴れ舞台への出場権を手放すわけにはいかなかった。自身に関わってくれた人たちへの感謝の思いを胸に出場への決意を固めた。

 

(写真:演技後、氷上に手を添えた)

お別れは笑顔で

 迎えた全日本当日。6分間練習の際に本田がリンクに姿を見せると観客席からはたくさんの「真凜ちゃん、頑張れ」の声が。コンディションが整わない中で演技に臨むことに不安な気持ちを抱えていたが、たくさんの応援で勇気づけられ演技本番を迎えた。

 演技冒頭、『Faded』のどことなく悲しげな曲調に乗りながらゆっくりと滑り出す。1本目のジャンプは3回転サルコウ。演技直前まで構成を落とすか迷ったが勇気を持って挑戦した。完璧なジャンプとはならなかったが気迫でまとめ、その後の3回転トーループ、ダブルトーループの連続ジャンプ、ダブルアクセルも降り切り、今シーズン特にこだわりを入れてきた表現面が中心の演技後半へ。指先までこだわった繊細な演技は見るものの視線をくぎ付けに。寸分たりとも目の離せない演技で自身の世界観へと誘い、客席からは自然と手拍子が沸き起こる。自身も歌詞を口ずさみながらその世界観へと入り込み、堂々とそして可憐に氷上を舞った。

 演技終了後割れんばかりの拍手に包まれる本田の目には涙が浮かんでいた。退場時には自身のさまざまな思いを込めるかのようにリンクにそっと手を添える。すると、どことなく寂しげだった本田の表情には笑みが。今できる最高の演技をやり切った充実感、力を与えてくれた人たちへの感謝の思い。競技者としての自分を最も輝かせてくれた全日本に出場できたことへの喜びをかみしめながら、フィギュアスケート選手・本田真凜はリンクに別れを告げた。

 

[冨川航平]