
(20)全日本での悔しさをさらなる飛躍へ 住吉りをん
12月21日から長野市・ビッグハットで行われた全日本選手権(以下、全日本)。明大からは5人が出場し、各選手が目標に向かって大一番を戦い抜いた。演技を終えて各選手が抱いた思いはさまざまだが、大舞台で堂々と氷上を舞う姿は人々の記憶に残る演技となったに違いない。
本企画では「明大スポーツ新聞部第535号」の拡大版として、4人の選手それぞれの言葉とともに今大会を振り返る。第2弾は全日本で総合10位につけた住吉りをん(商2=駒場学園)の記事をお届けする。
成長見せた1年
昨年度の全日本での悔しさを晴らすべく、今年度は特に強い思いを抱いていた住吉。今年度はシーズン開幕前から数々の試合に出場してきた。昨年度から『Enchantress』で継続するFS(フリースケーティング)では披露するごとに確実な成長を見せ、夏から一つずつ着実に磨きをかけていった。そしてシーズンも中旬を迎えた11月、グランプリシリーズ(以下、GPシリーズ)のフランス大会で、国際スケート連合(ISU)公認の日本人女子初となる4回転トーループをついに成功。多くの歓声に包まれた。さらに、フィンランド大会のSP(ショートプログラム)では「今までで一番ぐらい落ち着いて演技した」と自身も納得の演技をし、GPファイナルに出場。トップ選手として世界中にその名をとどろかせた1年の最後に、大本命の全日本を迎えた。
(写真:SP17位発進となった住吉)
大本命の全日本
SPは東洋を思わせる音階とリズム感が特徴の『Blood In The Water』でインドの女性を演じる。少しほほ笑んだ表情で演技を始めると、不思議なメロディーに乗せきめ細やかな振り付けで一気に観客を魅了。流れる動きの中に一瞬の静止を見せメリハリのある踊りで滑っていく。しかし、最初に組み込まれたダブルアクセルがシングルになってしまう。「エッジが滑ってしまった感じがしてそこから気持ちのバランスを失ってしまった」。それでも笑顔を崩さず続けたが、二つ目のコンビネーションジャンプも完璧なジャンプとはならず。安定性のあるスピンではレベル4を獲得したが冒頭のジャンプの得点が入らなかったこともあり、点数は56.70点。「6分間練習はすごく良かったのですがいい感じの心の隙が本番直前で失ってしまったのでそれが演技全体に出てしまった」と悔しい17位発進となった。
(写真:のびやかな動きを見せる住吉)
見せた本当の強さ 「何度つらくてもはい上がる」
「いざ氷を目の前にしたときに、それ(SPでのミス)がフラッシュバックしてしまって、同じようなことが起きるというか、ただ氷に乗るという、ただそれだけが怖くなってしまった」とSPの翌日、FSの公式練習ではリンクに上がることもためらうほど、SPで心に刻まれた重い悔しさと苦しさは深かった。しかし「ここで悔しい思いをしたから折れるのではなくて、何度悔しい思いをしても、何度つらくてもはい上がるというのが自分としてやらなければいけないことだと思っている」。コーチや周りからの励ましに背中を押され再び気持ちを奮い立たせ、FSの舞台に立った。冒頭のコンビネーションジャンプでは安定した軸で加点を引き出す。二つ目に控えた4回転トーループは、高く跳び上がったが惜しくも転倒。「あまり練習でもない転び方だったので少し焦りもあった」と振り返った。それでも、試練を乗り越え大きく羽ばたく鳥を表現したプログラムに合わせ、自身の滑りを最後まで貫く。その強いまなざしに、確固たる意志が宿っていた。指先まで神経をめぐらせ、目線や表情にも意識を向けたこだわりの詰まった動き。音楽に重厚感が増してくる後半、住吉が演技に求めてきた力強さが気持ちと重なって迫力を生む。落ち着いたジャンプで着氷を決め、レベル4の洗練されたスピンやステップに加え、観る人の心に訴えかける滑りで唯一無二の美しさを見せた。結果はSPから大幅に巻き返し、総合10位につけた。
(写真:こだわり抜いた振り付けを披露する住吉)
悔しさ胸に さらなる高みへ
昨年度の反省点を生かし今年度の演技に十分にその成長を反映させた住吉。イメージトレーニングや座禅など、試合本番で気持ちの弱さが出ないように、新しい取り組みを試行錯誤してきた1年間だった。「昨年より強くなれた1年だとは思いますが、その強くなったという自分を過信していた自分がいるということに今回の試合で気づいた」。やってみて、反省して、それを生かすことが住吉の成長の原点だ。そして的確に言語化ができる。「まだまだ弱い部分があるというのをしっかり認めて、来年はその弱い部分を一つずつ克服していくような1年にして、それで最後はこの舞台、全日本という舞台で笑顔で終わりたいなと思います」。世界を舞台にした活躍も、全日本での悔し涙も、必ず全てが輝きになる。世界からもっと注目を浴びる日はそう遠くない。
[新村百華]
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