(18)全日本直前インタビュー 大島光翔

 国内最高峰の大会である全日本選手権(以下、全日本)がいよいよ12月21日に開幕する。日本の精鋭たちが集まる大舞台で最高の演技ができるように練習を積み重ねてきた選手たち。今シーズンの大一番であり国際大会への出場も懸かる大切な試合を前に、一人一人の思いを伺った。

(この取材は12月11日に行われたものです)


第4回は大島光翔(政経3=立教新座)のインタビューです。

 

――全日本開幕が近づいてきましたが、率直にどんなことを思っていますか。

 「そうですね、とうとう来たなという感じで。昨年の全日本が終わってから、もうこの全日本、次の全日本に向けて1年間頑張ってきて、あっという間な1年だったなと思います」

 

――全日本に挑むにあたって心境としてはいかがですか。

 「4回目ということもあって、これまでより、そわそわだとかワクワクとか緊張感は今までほどなくて、過去3回の大会よりも落ち着いて、頑張らないとなという風に、落ち着いて見ることができている感じがします」

 

――落ち着いて見ることができているのは、出場が4回目だからということが大きいですか。

 「そうですね。あと、本当にもう悔いのないように練習を日々重ねてきたので、練習してきたという自信からくるものもあると思います」

 

――今シーズンは8月のげんさんサマーカップから始まって、5試合に出ていますが今シーズンの感触としてはいかがですか。

 「昨シーズンから課題だったSP(ショートプログラム)の安定感というところで、昨シーズンの自分と今シーズンここまでを比べてみた時に、やっぱり自分でも成長を実感できる部分が多かったので、そういう部分はプラスに捉えられているかなと思います」

 

――昨シーズンと比べて成長できた部分はどんなところがありますか。

 「昨シーズンに比べて勝負強くなったじゃないですけど、昨シーズンと比べて練習量を増やしたことによって全ての試合に自信を持って臨めているというのがあって、一試合ごとに、自分のどこが悪かったか、どこが良かったというのが、今シーズン5試合全てにおいて、きっちりとした振り返りができているので、そういう部分で本当に昨シーズンよりも一歩ずつ前に進めている感じがあります。課題を見つける能力というか、そこの修正能力が、昨シーズンよりも自分でしっかり考えるようになったってところは多分大きくて、それでどこを練習すればいいかを明確に自分で問題点を導き出して練習できているので、それがいいことなのかなと思います」

 

――試合に出てどんなところが課題にあがってきたか教えてもらえますか。

 「どの試合も言えることが、やっぱりジャンプの成功率だったり、スピンの取りこぼしが、昨年よりかは少なくなったんですけど、まだ少しずつ出てくるので。その試合の状況に応じた場面で、緊張していたり会場の雰囲気だったりの部分で、そういう時に、このジャンプが失敗しやすかったりとか、力が入り過ぎちゃったりというのがあって。基本的にはジャンプの安定感っていう部分で、何が原因だったか分かるようになってきました」

 

――東日本選手権(以下、東日本)を終えてからの約1カ月はどんなところに重点を置いて練習してきましたか。

 「まずはジャンプの安定感、本当にどれだけミスなく演技をするかが大事な大会で、一発勝負の大会、本当に一つのミスも許されないような状況だと思うので、そこの安定感。それと、今シーズンまだ一度も試合でやってこなかった4回転を含めてのFS(フリースケーティング)の練習を重点的にやってきました」

 

――昨シーズンはFS冒頭のジャンプがトリプルアクセルでしたが、今シーズンはルッツを1本目に跳んでいました。

 「そうですね。今シーズンは本当に全試合で4回転やるつもりで、プログラムを作る時からやっていただいていたので。そうですね、想定外のケガがあって、ここまで1試合も(4回転ルッツを)組み込めていなかったんですけど、それを想定しての1本目のルッツだったので、全日本でマックスの状態でもっていけるのかなと思っています」

 

――4回転に関しては今のところどのような状態ですか。

 「今までで一番調子も上がってきていて、すごくいい状態だと思います。まだ降りてはないですけど、不可能ではないというか、本当に自分でもいける感触はつかめてきています」

 

――1本目で4回転に挑戦しますが、それ以降のエレメンツに関してはいかがですか。

 「昨シーズンの序盤まで4回転ルッツを組み込んだプログラムをやっていましたが、その時にはやっぱりどうしてもミスが多く、その後に響いてしまうことがよくありました。昨シーズンの中盤からルッツなしで、例の構成で、どれだけミスを抑えてFSをやるかということに重点を置いて、今シーズンの東日本まで全て同じ目標を持ってやってきたので、その目標設定のおかげで、アクセル含む3回転全てのジャンプでより一層自信がついたので、そこについては4回転を組み込んでFSをやっていた前の時期に比べて自信がついていると思います」

 

――4回転ジャンプに挑戦し続ける理由をお聞きしたいです。

 「やっぱり今、もう4回転の時代ですし、勝つにはどうしても4回転が必要になってくるので、そういった部分では本当に必要不可欠なエレメンツになってくるのではないかなと思っています。今、世界で活躍している日本の選手、日本を代表するような選手は本当に全員4回転を複数の種類持っていて、自分が目標としている順位に食い込むためには絶対に4回転が必要で、そこは本当に明確に見えている課題なので、やっぱりクリアしていかなければいけないなと思っています」

 

――今年の全日本の会場は長野県のビッグハットですが、この会場の印象や思い出などはありますか。

 「初めて出た全日本がビッグハットなのでめちゃめちゃ自分の中でも印象に残っているというか、思い出深い会場の一つですね。それまでもビッグハットで何回か試合はしたことがありましたけど、初めて来る会場かのような雰囲気で。練習の時からFSまで、全ての時間で本当に圧倒されっぱなしで、あっという間でした。その時よりかはやっぱり成長して帰ってこられるかなと思います」

 

――今シーズンここまでやってきましたが、率直に自分に対してどんな言葉を掛けますか。

 「そうですね。今シーズンここまでの出来に正直全然満足はできるような内容ではなかったので、まだまだ、まだまだできると思っています」

 

――2023年はどんな1年でしたか。

 「インカレ(日本学生氷上競技選手権)から始まり国体と過ごしてきて、学年も大学3年生で上級生になって、どの試合に行くにも自分より年下が増えていく中で、その年下の子の活躍を見て本当に負けていられない、あとは、自分に残された時間も少ないなとか思いつつ、時間が過ぎるのはすごく早いなとより感じた1年でした」

 

――今年の中で一番感情が動かされた出来事は何でしょうか。

 「そうですね、プリンスアイスワールドにまた出させてもらうことができて、そこで高橋大輔さんと滑る機会をもらえて、大ちゃんの現役ラストイヤーに同じ氷に乗らせてもらって一緒になる機会をもらえたのは大きいことだったのではないかなと思います」

 

――来年2月には高橋大輔さんプロデュースのアイスショーに出られることが発表されました。

 「もう本当にうれしい限りで。より一層スケートに対するモチベーションが上がったというか、呼んでいただいたからには、責任感だったり、その分、より成績が求められると思うので、そこに対する気持ちっていうのは、そこでまた、より一段とギアが上がった感じですね」

 

――大島選手は思考やマインドの面でネガティブな方に陥らないという印象を受けますが、ネガティブな方にとらわれないでいることができるのはなぜかお聞きしたいです。

 「それに関しては両親に感謝というか、本当に普段の生活からやっぱり父親がすごくポジティブな人で、どんな状況に陥っても、もうずっと笑っているというか。本当にね、全部なんとかなっちゃう。笑っていればなんとかなっちゃうって言ったらおかしいですけど、本当にポジティブで。物事の見方によって良し悪しは変わってくると思うので、ネガティブになりそうなことはありますけど、物事を客観視して一度見方を変えてみるだったり、どう考えてどう見たら自分にとっていい方向に向くかというのは、考えてやっているわけでもないですけど、底ぬけに明るい父親のそばに常に、20年間ずっといて、そういう能力は勝手に身についたのかなと思います(お母さまにも似たようなところがあるのですか)そうですね、母親も楽しいことに目がないじゃないですけど、本当に楽しい空間が大好きなので、楽しいを追求して僕たちに対しても楽しいイベントだったりを考えてくれていたりとか、どうやったら楽しくなるかを常に考えてくれていると思うので、そういう部分では母親もすごくポジティブな人かなと思います」 

 

――今シーズンのプログラムについてですが、SP『The Super Mario Bros.Movie』を振り付けしてもらった時のエピソードなどはありますか。

 「楽しいですよ、本当に(笑)。操先生(佐藤操先生)も前向きにいろいろな動きを考えてくださるので、その分、話し合いも多くなりますし、他の人がやらないような内容だからこそ、僕も初めての経験ですし、操先生にとっても多分初めての経験なので、二人で試行錯誤しながら、話し合いながら、いいものがつくれたのではないかなと思います」

 

――フィギュアスケートを見たことがあるかないかにかかわらず、皆さまに向けてSPのどんなところをおすすめしますか。

 「どこを見ても楽しめるというのを題材にやっていて、テレビをつけて、フィギュアスケートを本当に知らない人が見ても『なんかちょっと3分間、気付いたら見ちゃったな』って、本当に見て楽しんでいただけるプログラムを目指してやっているので、そこに期待していただければと思います。曲が切り替わるところは、誰が見ても変なことやっているなって感じなので、そこは分かりやすいかなと思います」

 

――FS『ムーラン・ルージュ』はシェイリーン・ボーンさんに振り付けをお願いしたというところで、今までにない難しさのようなものはありましたか。

 「やっぱり他のプログラムと違うのは、手数足数が本当に他のプログラムに比べて圧倒的に多いので、音の取り方も同じリズムの音でも違う、ずっと一定のリズムを取り続けるのではなくて、早いテンポで音を取った後にすごく遅いテンポで取ったりとか、そういう緩急だったりが今までのプログラムに比べて多いプログラムなので、そういう部分では本当に体力的にもハードなイメージがあります」 

 

――過去のインタビューで自分の違った一面を見せたいという思いがあるとも伺いましたが、今までの自分と違うところを教えてもらいたいです。

 「『ムーラン・ルージュ』は、フィギュアスケートでは王道と言われる部類の音楽で、 今まで王道と言われる音楽は数えるくらいしか滑ったことがなかったので、他の人から見たら普通のことだと思うんですけど、自分にとってはちょっとチャレンジな部分があって。やっぱり王道でみんなが使う曲だからこそ、どうしても同じ曲の選手は比べられるじゃないですけど、比べる意識がなくてもどうしても、多分、比べられることも多くなると思うので、そういう部分では挑戦的だったのではないかなと思います」

 

――比べて見られることによる難しさはどのようなところにありますか。

 「僕を例にしたら分かりやすいですが、マリオを滑っている分には、同じジャンルを滑っている人がいないので、被らなくて『マリオ滑ってる光翔くん面白いよね』で済むのが、全員がマリオを滑っていたら、その中で突出した印象を残すのはすごく大変なことだと思うので、王道と言われる曲を使うにはそれだけ技術に自信がないと他の人との差が出ないと思うので、頑張らないとなという感じではありますね」

 

――演技を見てくださる方に向けてご自身のプログラムの見どころを伝えるとしたらどんなところが挙がりますか。

 「表情であったり、その人の足や手の動きの特徴を見てほしいので、そういう部分でいくとステップはすごく個性が出る部分だと思うので、ステップに注目していただければなと思います」

 

――大島選手が他の選手の演技を見る際は、どのようなところを見て楽しんでいるのですか。

 「どこを見るというよりかは、普通に見て、何かの能力に突出している人にすごく惹かれるので、ジャンプだけ本当にフルに突出していたり、スピンだけものすごくうまかったり、ステップだけ本当にめちゃめちゃ上手だなこの子という感じで。平均的に全部が80点の選手よりかは、30点が多いけど1個だけ150点があるような、何か一つに突出した人が僕はすごく好きで。やっぱりフィギュアスケートは全体的な能力を競う競技なので、もちろん総合力はすごく大事ですけど、いち個人としては『なんでこんなにこれがうまいんだ』っていう武器を持った選手が見ていて面白いなと思いますね」

 

――シニアとしては2年目の全日本になりますが、今年はどんな気持ちで挑みますか。

 「シニアでは2年目ですけど、やっぱり周りを見ても自分は年齢が上の方になってきていますし、全日本の舞台も4回目になるので、経験を生かして、気持ちの面での強さが見えるような、そんな試合にしたいなと思っています」

 

――全日本での目標を聞かせてください。

 「順位で言うと12位以内を目指してやっていきたいと思っています。12番に入ったら強化選手というのが見えてくるので、それが来シーズンの海外試合のきっかけになる、日本代表になるきっかけになると思うので、まずはその第一条件である12位以内をクリアしないと先はないと思っているので、そういう理由で12位以内を目標に滑るという感じです」

 

――順位以外の面で掲げる目標はありますか。

 「やっぱり、お客さんに楽しんでもらうことが一番なのかなと思います」

 

――ありがとうございました。

 

[守屋沙弥香]

 

(写真は本人提供)