(16)全日本直前インタビュー 住吉りをん

 国内最高峰の大会である全日本選手権(以下、全日本)がいよいよ12月21日に開幕する。日本の精鋭たちが集まる大舞台で最高の演技ができるように練習を積み重ねてきた選手たち。今シーズンの大一番であり国際大会への出場も懸かる大切な試合を前に、一人一人の思いを伺った。

 

(この取材は12月17日に行われたものです)

 

第2回は住吉りをん(商2=駒場学園)のインタビューです。

 

――今年はシーズン開幕前から多くの大会に出場してこられましたがどのような気持ちでここまできましたか。

 「やはりそれだけ場数を踏めたのが大きかったなと思っています。試合前どういう風に入っていったら安心して試合に臨めるかとか、ルーティン化ができているというのもあるし、昨年よりすごく良いメンタルの状態になっているのは、それだけ試合に出たおかげなのかなと思います」

 

――メンタルが強くなったという実感がありますか。

 「まだまだ弱いのはすごく感じますが、昨年に比べたら強くなったと思います。昨年はすごく不安しかなくて、試合が怖いという気持ちが大きかったのですが、今年は全然。昨年に比べたら自信も出ているし、試合が怖いとは全く思っていなくて。緊張はするけれど、怖いという感情がなくなったのがすごく大きいです」

 

――以前、座禅を組んでいるというお話を伺いましたが、それもメンタル強化に影響していますか。

 「座禅を始めてからすごく変わったなと思います。朝一番に私はやるようにしているのですが、朝が慌ただしく始まるよりも、いったん落ち着いてその日がスタートすると本当に気持ちの波が少なくなった気がしています。その気持ちの波が少ないのも、試合とか練習とかにも良い影響で、いつも落ち着いて練習とか試合とかができている感じです」

 

――気持ちの波というのは、どのような時に上下しますか。

 「私の場合、結構ジャンプの調子が悪いとか、失敗が続いてしまうと、落ち込んでしまってどんどん負のループになることがあって。気持ちが落ち込むからまた跳べなくて、跳べないから落ち込んで、とどんどん悪いループになって、結構コーチからも『そんな暗い顔してやらない』みたいなこともすごくよく言われていたのですが、それがなくなって、失敗しても、平常心でまた次跳びに行こう、こういう風に変えたら跳べるだろうみたいなのが落ち着いで判断できるようになっている気がします」

 

――座禅を組んでいる時は家族に何か言われませんか。

 「座禅を組む時は『部屋に入ってこないで』と言っています。もう1人の空間で、自分の部屋でベッドの上でボールを乗せて、そこに座ってやります。私は足を組むのが下手なので、ボールを挟んだ方が安定するんです。それもメンタルのコーチがくれたボールで、座禅にも使うし、遠征とかに持っていって、座禅の時も使うし、飛行機では腰の後ろに入れてクッション代わりにも使っています」

 

――そのボール以外にも海外など遠征に持っていくものや、海外に行くときのルーティンはありますか。 

 「体を温めるグッズはもう多過ぎるくらい持っていくようにしています。スティックのしょうがゆずのドリンクの粉とかホッカイロも多めに持っていくし、あとUSBに挿して温まるシートみたいなのもあるのですが、そういうグッズは多めに多めにいつも持っていくようにしています」

 

――それはスケートリンクが寒いからですか。

 「すごく寒がりなので、体が冷えると筋肉も強張ってしまうし、リンクの寒さはリンクによってまちまちなので、想像がつかないから、もう、暑い分には問題ないので(笑)。あとは、カイロは、6分間練習の前とか演技前、両手にマグマのホッカイロを握って、手を温めておくようにしています。手が温まっていると緊張がほぐれやすいらしいので、基本的にホッカイロは握るようにしていて、そういうためにも結構何でも多めに持っています」

 

――GPシリーズフランス大会とフィンランド大会での演技はいかがでしたか。

 「フランスは昨年も行っていたので安心感があって、アップの場所や、試合までの流れとか、ルーティン的なものが分かっていたので、すごく落ち着いて試合に臨めました。もちろん、ころころとミスはしてしまったけれど、全体的にすごくいい気持ちで、最初から最後まで臨めて、その結果、4回転もすごくいい自信になる成功だったので、全体として、すごくいい印象を持てた試合かなと思います。フィンランドの方はSP(ショートプログラム)で今までで一番ぐらい落ち着いて演技したなというのが印象として残っています。それを今後もずっとああいうメンタルに持っていければ成功できるんだということが分かった試合でした。FS(フリースケーティング)は少し緊張していなかったところがあってもう少しいい緊張ができたら良かったかなと思います。それでも何とか、失敗がありつつも耐え抜けたのは自分の中で自信になったので、GPシリーズは2戦とも自分に自信を持てる結果になったかなと思います」

 

――フィンランド大会のSPに今までで一番落ち着いて臨めた理由はありますか。

 「今年はイメージトレーニングを増やしているのですが、そのイメージ通りに体が動いて、イメージ通りにジャンプもその通りに体が動いて跳べるみたいな。それが、いつもだったらイメージしていたものと多分何かがずれて『あれ?』という時があるんですよね。それが全部ではなくても、跳べているジャンプでもイメージとは少し違ったりして。それが次のジャンプのミスにつながったりというのもあったのですが、このSPは本当に最初から最後まで全て思っていた通り、イメージの通り、練習の通りできたから、多分イメージトレーニングがうまくできたのかなと思います」

 

――イメージトレーニングは座禅を組んでいる時などにしているのですか。

 「組んでいる時は、イメージは何にもしなくて無になります。何も考えないようにしている感じです。イメージトレーニングはそれ以外の、練習前とか試合前の時に自分の映像を見たりとか、その曲を流しながら体を動かしたりしています。その時に、今まではジャンプのイメージとか、降りるイメージとかだけだったのですが、見えているものを公式練習の時に覚えておいて『この時はこういう景色が見えている、でも自分の体はこういう風に動いていて、降りたらこういう風に景色が見えている』というその景色とか会場、雰囲気とかまで全部をイメージするようにしたら、結構具体的になったかなと思います」

 

――GPシリーズの大会での思い出はありますか。

 「一番はフランスのパンかな。好き過ぎてパンに全力投球過ぎて、なんかもう演技後に男子の応援までの本当に短い時間とか、フェイスカンファレンスをすごく頑張って急いで終わらせました、パン屋さんに行きたいがために(笑)。終わった瞬間にバスに乗って帰って、その次のバスまでの40分間しかなかったんですけど、その間にパン屋さんを2店舗、しかも雨の中ダッシュで巡るという、先生にもすごく笑われましたが、おいしいパンを巡れたので、それが良かったです」

 

――パン屋さんでは何を食べたのですか。

 「やってみたかったカヌレの食べ比べを三つしました。フランスに行っているその期間だけで三つ食べて、それぞれ味が違ったのが面白かったです。あとはクロワッサンも食べました。本当はバゲットを食べたかったのですが一人であの長さは買えなくて。それが心残りですが、クロワッサンも本当においしかったです。味もお店によって違ったので。来年はバゲットを買いたいです」

 

――フィンランドはいかがでしたか。

 「かおりちゃん(坂本花織・シスメックス)とまなちゃん(河辺愛菜・中京大)とで、帰りの空港でいろいろお買い物をしました。ムーミンショップに行ったり、まなちゃんのお母さんが買いたかった食器を探し回ったりとかしました。そしてかおちゃんとまなちゃんが(背中を)押してくれたから、私はトレーナーを買えました(笑)。いつも優柔不断で大体何も買えないのですが人に押してもらえると買えるので、ミーのトレーナーを買いました」

 

――ミーのトレーナーは普段着に着ていますか。

 「着ています。長時間の飛行機の時とかすごく楽な格好でいたいので、中国に行く時に初日の飛行機でそれを着て行きました。そうしたら、かおちゃんが『あ!フィンランドのやつ!!』と気付いてくれて。うれしかったです。『着てきたよ~』って」

 

――GPファイナルの中国での思い出はありますか。

 「あまり外には出なかったのですが、最終日のバンケットで日本チームで一つのテーブルに座っていろいろなおしゃべりができて楽しかったです」

 

――全日本に向けては今どのような気持ちですか。

 「もうすでに緊張しています。でも、今年はメンタルのコーチにもついてもらって、その話とかもしていて緊張していたら、緊張しているということを吐き出した方が良いということと、もう緊張していることを自覚して、隠し込むのではなく受け入れることも大事だというのを聞いて、結構周りにも『私もう緊張してるんだよね』みたいなことを言うようにしています。逆にその方が今は楽になっている感じはするので、緊張してはいけないわけではないから、それをいい緊張にできるように臨めたらいいのかなと思って。今は緊張しているけれど、昨年よりも怖がらずに楽しんで臨めるかなと思っています」

 

――メンタルのコーチからはどのような指導を受けているのですか。 

 「昨年1年間は練習でできることが本番で発揮できないことを岡島先生(岡島功治先生)も私も共通課題みたいに感じていて、じゃあどうしようかとなった時に紹介してもらったのですが、試合で実力を発揮するためにどうしたらいいかということだけではなくて、日常の中からネガティブ思考を改善していったりとかしています。例えば、普段の姿勢から、胸を広げるようにしなさいとか、日常生活から落ち着いて行動することが試合につながるのだという風に教えてもらって、それがいい方向に向いている感じがします」

 

――学校などの日常生活の中でもかなり意識しているのですか。

 「基本全てにおいて、時間とか心に余裕を持つようにしています。そうすると慌てずに済む。慌てて気持ちがあわあわするのが一番良くないので。学校でも次のスケジュールまでに余裕を持たせるようにスケジュールを組むようにしています。練習までの時間ぎりぎりに大学を出るのではなく早めに出ることで、練習の前も心に余裕を持たせるよう意識しています。そういう風にスケジュールのところを一番考えてやっているかなと思います。でも難しいです。なかなか思った通りにいかないことが多いです」

 

――そのようにメンタル面でも表現面でも今年は成長があったと思いますが、ジャンプはいかがですか。

 「ジャンプもすごく安定した気がします。それこそ心が落ち着いたおかげもあるのかもしれないですが、練習の時に『これがこうなっているからこういう風に良かった、ここの部分が良かった』と判断力が昨年より鋭くなっているような感じがして。細かいところまで精度が高くて、自分で判断して練習できるようになったことがジャンプの確率も上がる要因になったと思うし、きれいな加点の高いジャンプをどれだけ頻度を高く跳べるかというのも上がってきたかなと思います」

 

――全日本に向けて具体的な目標を教えてください。

 「結果としては表彰台に上がることです。もちろん難しく、そう簡単ではないことは分かっているのですが自分ができることをやって、それができれば結果としてはついてくると思うので、表彰台に乗るために無理なことを何か新しくするのではなくて、ただ自分ができることを丁寧に一つ一つ出し切りたいです。結果の目標としてはそれですが、自分のやるべきことはできることを出し切ることなのかなと思います」

 

――GPファイナルが終わってから全日本に向けてのこの短い期間でどのような練習をしていますか。

 「試合が終わってからすごく落ち込んでしまって、気持ちが落ちたところからあと10日くらいで全日本があるので、大丈夫なのかなと正直、帰ってきてすぐの時はありました。でも自分で思い返した時に、あれもこれも悪かったという演技ではなかったなという風に振り返って、直すべきその明らかな失敗、ジャンプのパンクとかはもう全日本ではしないようにしようと切り替えました。今までの練習を信じる以外ないと思うので。今、練習でやっているのは、回転不足を取られないジャンプです。自分では回転が足りていると思っていても回転不足が取られているジャンプがあったので、その部分に重点を置いて、完全に回り切って余裕を持って降りてくるというジャンプを、曲かけで疲れている状態でもやっています。ぎりぎりを攻めて降りてこないというのを、割とそこは、意識すればいいところなので今練習しています」

 

――完成度はどれくらいですか。

 「なかなか曲の中になると難しくて。今までだったら岡島先生も『いいよいいよ』と言っていたところを、もしかしたら今のはqが付くかもしれないというのを見てもらうようにしています。そう言ってもらうようになってから、怪しいと言われるジャンプがまだまだあるので、あと1週間でもう少し精度を上げられたらなと思います」

 

――GPシリーズ、GPファイナルと全日本で、出る前の気持ちとして何か違いはあったりしますか。

 「もちろんファイナルは狙っていたけれど、ファイナルは行けたらいいなくらいの軽い気持ちだったのですが、全日本は全くそういう気持ちではなくて、上を狙いに行くしかないという感じで、結構自分の中でのプレッシャーがGPシリーズとは桁違いな感じです。多分本番になった時の気持ちも違うのだろうなと想像はしているので、気持ちが違ってもやることは同じということを意識してできたらなと思います。フランスに行く前はパンを楽しみにしていたし、フィンランドに行く前はサウナを楽しみにして、そんな感じで旅行感覚で(笑)。 でも、それでGPシリーズの試合は割と楽しめたなと思うので、全日本は緊張しているけれど長野を楽しみにいこうかなと思っています。もうすでに長野のパン屋さんは調べているので、このくらいの、GPシリーズと同じ感じで、楽しみにいけたらいいかなと思います」

 

――ファンの方にメッセージをお願いします。

 「本当に夏から、GPシリーズから本当にたくさんの試合で応援していただいて、その応援がすごく力になっているなとこの1年で感じました。それだけの応援をしてもらっているということを、昨年は割と自分のプレッシャーにしてしまっていた部分があったのですが今年はそれが本当に力になっているなと感じるので、本当にありがたいという気持ちと、全日本も応援してもらっているというのを心の支えとして、応援を受け取って全日本も頑張れたらなと思います」

 

――ありがとうございました。

 

[新村百華]