(1)「関わる全ての人が幸せになれる瞬間をつくる」神鳥裕之監督 新体制インタビュー

2023.04.01

 昨年度は惜しくも準々決勝で敗戦した全国大学選手権(以下、選手権)。100周年という節目の年に、5年ぶりの日本一奪還を目指す。新スローガン『ONE MEIJI』の下、チームやファンが一丸となって廣瀬雄也主将(商4=東福岡)率いる新体制が始動する。本連載では新チームの監督、4年生のインタビューを全7回にわたって紹介します。

 

 第1回は神鳥裕之監督(平9営卒)のインタビューをお送りします。(この取材は3月20日に行われたものです)

 

――昨シーズンを振り返っていかがですか。

 「思うような結果ではなかったのは当然です。特に4年生に素晴らしいかたちで結果を残してあげることができなかったのは、監督として本当に申し訳なかったという気持ちでいっぱいです」

 

――昨シーズンの収穫と課題を教えてください。

 「収穫は、結果が出てない以上見つけるのは難しいです。最後の試合の早大戦で、早大に勝負に対する執念や目に見えないハングリーな部分を見せられました。我々が勝ち抜くためにはこのような部分を出していかないと勝てないということを学ばせてもらったのが収穫かなと思います。一方で、課題はたくさん出てきます。収穫は目に見えないメンタリティーの部分ですが、課題はどちらかというとテクニカルな部分です。まず明大と言ったら、セットプレー。ここはもう一度胸を張れるようなものにしないといけないと1年通して感じていました。選手権で早大に負けた試合は、自分たちのプライドをスクラム関連では見せることができましたが、我々が目指しているところは〝大学一番のセットプレー〟です。帝京大学との試合ではかなりやられたという印象があるので、もう一度この大学界で強いセットプレーに戻さないといけないのは一つの課題ですね」

 

――今年度のチームの方針を教えてください。

 「100周年という大きな節目で、過去4シーズン日本一から遠ざかっている。我々としては不本意なシーズンが続いている中で、どうやってこの節目の年に成功に導くのかと考えたときに、新たなチャレンジや今までにない発想という観点が必要になってくるというのは理解しています。ただ、こういう時こそ先人たちが築き上げてきた100年の伝統を大いに活用すべきです。立ち返る場所があるというのは我々の強みです。うまくいかなくなった時や迷った時に、自分たちが何者かと立ち返られる場所があるチームは日本の大学スポーツを見ていてもあまりないと思います。〝前へ〟であったり〝重戦車FW〟であったりは1日1年で築き上げたイメージではないので、100年を紡いでくれた先輩方の大事な財産をやはり生かすべきというところで、我々の立ち返る場所というものを軸にやって行こうとなりました」

 

――立ち返る場所を選手たちに示すときにどのような工夫をされていますか。

 「選手たちに『君はどう思う。明治の立ち返る場所ってなんだ。明治の強みってなんだ。明大ラグビー部ってなんだ』とストレートに問いました。そうすると、みんな同じようなことが返ってきて『FWが強い。重戦車。前へ』などたくさん出てきました。やはりそこに対する思いというのは、時代が変わってもみんな同じだと確認できた瞬間でしたね」

 

――今年度の〝重戦車〟はどのようにしていきたいですか。

 「強くて大きいというイメージをお持ちだと思いますので、体をひとまわり大きくするということをこの春チャレンジしています。ただ100年を紡いできた伝統の中には、昔のラグビーと現代ラグビーの違いも当然あります。例えば、私が大学時代の時は『とにかく大きくなれ。ご飯を食べて大きくなればいい』と言われた時代です。今はラグビーの競技力が上がってきているので、我々なりの100周年に向けた現代版重戦車を作ろうとしています。いわゆる強さと大きさを兼ね備えながら速さも持つハイブリッドな重戦車です。ただ食べて寝て体を大きくするのではなく、食べて大きくして脂肪を作らずにかつスピードを作る。今はまず体を大きくして、見た目も含めてブヨブヨした体ではなく、しっかりとした体作りに重点を置いてやっています」

 

――今年度のチームの雰囲気はいかがですか。

 「昨年度の主力選手だった4年生たちがたくさんいて、戦力的には充実したメンバーがそろっていると思うので、非常に期待値が高いチームになるだろうと楽しみです。当然、昨年試合に出ていたから今年も活躍できるとは約束できる状況ではないですし、いくらいい素材がそろっていても、勝ち抜ける甘い世界ではないので、いろいろなメンバーたちがレギュラー争いに加わるような、そのような刺激を期待したいと思います」

 

――昨年度の春はメンバー争いが激しいという印象でした。今年度のメンバー争いはいかがですか。

 「総力を高めていくことがやはりチーム力を高めていくことに直結すると思います。もともとは試合に出続けているような選手が集まっているチームなので、春シーズンはできる限り多くの選手にチャンスを与えたいというのはチームの方針としてあります。でも、だんだんチームというのは固まっていくものなので、どこかのタイミングになったらばちっとメンバーが固まると思いますが、できる限り競争を活性化させていきたいと思いますね」

 

――選手一人一人と関わる上で大切にしていることを教えてください。

 「これから全員と面談をしていきますが、できるだけポジティブに声掛けしていきたいと思います。100周年を迎えることで過度にプレッシャーをかけたくないと思いますが、黙っていても周りから注目されることが多くなると思います。逆にそこは受け入れて、誰もが経験できない特別な時間を思い切り楽しめるくらい、前向きな言葉をできる限り掛けていきたいと思います」

 

――監督から見て、新幹部の方々はそれぞれどのような方ですか。

 「一言で言うと、責任感があります。一人一人のキャラクターによっても違いはありますが、チームにコミットして責任感ある人が集まったので、全く心配していないです。ただ、このメンバーたちだけにプレッシャーやきつさを背負わせることにならないようにこの100周年という大きな機会に全員でこの時間を楽しみながら乗り越えていく時間をつくってあげたい。あなたたち一人で背負うことはないと廣瀬たちに伝えました」

 

――今年の注目選手はどなたですか。

 「全員と言いたいところですが、FWで言えば中山律希(政経4=天理)。最上級生の自覚が出て『サイズアップ』というテーマにも非常にコミットして、とても体も大きくなっています。個人的に楽しみにしている選手の1人です。BKで言えば、池戸(将太郎・政経4=東海大相模)。寮長で、昨年はスクラムハーフと慣れないポジションも担いながら、最後は本職のスタンドオフで悔しい思いをグラウンドで経験しました。本当に持っている能力も高いですし、また伊藤耕太郎(商4=国学院栃木)という同級生のライバルもいます。彼が成長してくれることでチームに幅ができる感じがあり、寮長としてもラグビー以外の面でもしっかり管理してほしいという期待も込めています」

 

――新入生のリクルートについては、どのように決められましたか。

 「どんなにいい選手でも、残念なかたちでここに来る選手は極力少なくしたいと思いますが、当然あります。我々としては、可能な限り明大ラグビー部で頑張りたいという選手を一番取りたいというのは一つのポリシーです。これだけの有数の選手がそろうところなので、そのライバルに対して打ち勝ちたいという強い心もです。レギュラーにすごい選手ばかりだから試合に出られる大学の方がいいなと思うような選手ではなく、この環境を楽しめるような選手を積極的に取りたいというところで、今年の1年生は幸いにも非常にいい選手たちが集まってくれました。その多くの選手たちがやはりレギュラーになれると信じてきている選手たちなので、そのような意味での競争力には期待したいところですね」

 

――1年生に伝えたいことはありますか。

 「まずはここの生活に慣れること。これが一番です。ラグビー選手という部分で本当に気合いが入って、やる気があることは非常にいいことですが、ラグビー選手である前に一人の学生でもありますし、まだまだ親元を離れて慣れない生活もあります。まずはこの生活の基盤をしっかり作って、慣れることが大事だと学生たちには伝えています。その上で、どんな状況であれ、一貫性を持ってトレーニングをし続ける強い気持ちを養ってほしいなというのは一番のメッセージですね。当然ながら、みんなエースで4番のような子が集まっていますが、明大に来て初めて試合に出られなくなる選手たちもたくさんいます。その状況の中で、どのようなマインドやアチチュードで自分をドロップしていくのか、そこで上がっていくのか、本当に本人次第になります。あまり目に見えた状況だけに緊張するのではなく、明大ラグビー部を選んだ時の気持ちや動機をしっかり持ってほしいです」

 

――最後に今年度の目標を教えてください。

 「目標は一つしかないです。特にこの100周年という年に、我々だけではなく、この明大ラグビー部に関わる全ての方々に今回のスローガン『ONE MEIJI』であるように過去に関わってくれた方、現在も関わっている方、強いては今後未来に関わるかもしれない明大を憧れる子どもたちも含めて、全ての方にハッピーになれるような瞬間をつくるのが一番の目標です。それはすなわち優勝しかない。優勝というのは、一つの結果です。我々としては関わる全ての人が幸せになれる瞬間をつくるのは優勝だということを学生たちに伝えながら1年間努力していきたいなと思います」

 

――ありがとうございました。

 

[安室帆海、井垣友希]

 

◆神鳥 裕之(かみとり・ひろゆき)平9営卒

2013年度より、リコーブラックラムズ(現リコーブラックラムズ東京)で8年間指揮を執る。2021年6月1日より明大ラグビー部の監督に就任。一昨年度は監督1年目でチームを選手権準優勝へと導く。大学時代にはナンバーエイトとして活躍し、大学1、3、4年次に選手権優勝に貢献した。