(169)【特別企画】坂井優友トレーナーインタビュー

2022.12.20

 2年連続で箱根駅伝のシード権を逃した明大。園原健弘総合監督は「フィジカルトレーニングは学生に任せっぱなしの部分があった」と振り返る。目標であるシード権奪回のため、短距離部門の指導が主だった坂井優友トレーナーが、今年度から長距離部門へ本格的に指導を開始した。今回は、坂井トレーナーに〝改革の一年〟について聞いた。

(この取材は11月24日にオンラインで行われたものです)

 

――どういった経緯で明大のトレーナーに就任されましたか。

 「園原監督(園原健弘総合監督)とご縁があって、2019年から競走部の方には関わらせていただいたのですが、この4月から長距離の方のフィジカル面に着手したいということで園原さんからまずお話がありました。そこから山本佑樹駅伝監督からお話があり、決定したという流れです」

 

――今年度は週に何回、選手を指導されていますか。

 「今年度は週3回行っています。選手の希望はケアや体の疲労回復が多いのですが、山本駅伝監督からは『フィジカルの部分の強化をお願いします』と言っていただいています。なのでケアをしつつも、そもそもケガをしないように、疲労が溜まらないように、トレーニングやストレッチ、補強の部分を入れています。それをパーソナルでやっていくと同時に、2、3月からは全体のウォーミングアップを考えるなど、全体でやれるトレーニング、ストレッチ、日々のメンタルバランスなどに取り組んでいます」

 

――長距離部門に対する、最初のフィジカル面の印象を教えてください。

 「他大学を見るとすごくフィジカル面を強化しています。また長距離に限らず他のスポーツは当たり前にやっています。ですが、最初明治の長距離に関わった時は、そういう文化が育っていないというか、雰囲気とかも含めて、当たり前にやるということがまだありませんでした。なのであまり道具を使わない簡単な初歩の種目で、主体的にできるものを多くやって、取っかかりやすいようにというのを意識しました。まずは文化を根付かせなければなと。これは今もまだ課題なので、もっともっと浸透させていかなければなと思っています」

 

――今年度フィジカル面で成長が見られた選手を教えてください。

 「4年生の漆畑(瑠人・文4=鹿児島城西)です。ポテンシャルが非常に高いですし、そもそもAチームで走っていますから、僕が触らなくても十分走れる選手ですが、やはり肩が力んでしまうのが課題です。関東インカレの時もギリギリ予選を通過したのですが、その時も肩が力んでいました。そこからいろいろと、フォームにおいてどう改善したらいいのかを話し合いながら、肩甲骨系や体幹、腹筋系のトレーニングを徹底し、できたかどうかの確認まで含めてやっていきました。予選会はもう少し漆畑走れただろうという感想を持たれていますし、本人も悔しがっていました。全日本は走れませんでしたが、その後の世田谷246ハーフマラソンでは、ある程度本人も満足いく結果を出せていますし、実際見てきて力みがなくなってきているので、彼はとても真摯(しんし)にフィジカルに向き合って変えていったなと思います。フィジカルに取り組む選手は多いのですが、結果に結びつけるのはすごく難しいので、よくやってくれたなと思います。

 また2年生の尾﨑(健斗・商2=浜松商)もとても体が変わりました。夏までずっとケガしていたのですが、今年とりあえず全日本まで走るところまでいきました。彼はケガをしないだけでもかなり変わったなという印象はあります。体の器用さもありケガをしないという目標を達成して、去年よりも一歩成長しているなと思います」

 

――フィジカル面で優秀だと感じる選手はいますか。

 「優秀だと感じるのは、最近よくトレーニングに来てくれる1年生の森下くん(翔太・政経1=世羅)ですね。近頃キャプテンの小澤くん(大輝主将・政経4=韮山)と一緒にトレーニングを受けにきてくれたのですが、非常にフィジカルが優秀で驚いています。しっかり走れていますし、高校時代もあれだけきちんと走っているので、ある意味すごく安心できました」

 

――森下選手のフィジカル面に関して、どういった点が優秀なのでしょうか。

 「基本的に筋トレみたいなトレーニングを経験したことがあるというのも大きいです。経験したことのない選手の方が8割くらいいますから。そしてやらせてみても上手にできる。肩甲骨から背骨、それから骨盤、股関節までとてもいいなと思います。またやっていく中で、自分に何が足りないかというのも自分で発見してきます。今までやりたいなと思っていた、強度をアップしたメニューを森下には入れられるくらいですね」

 

――箱根までの期間、フィジカル面においてどのような貢献をしていきたいですか。

 「特に全日本の走りを見て感想も含めて言うと、非常に力みが強かったです。3日前くらいのポイント練習ではよく走れていました。それはスタッフ陣もみんなで『選手よく走れている、全日本いけるだろう』と。私もそう思いました。それが外れました。当日やはりすごく力んでいて、疲労を残している選手も出てしまっていたので、その辺の甘さですね。私がもう少しそこをきちんと見ていかなければいけないし、まだ疲労が残っていないか、ちゃんと走れるか、ピークがずれないかというのを、フィジカルベースで指摘していかないといけないと思います。また力みの部分はメンタルも含めてですが、上半身の力みをとれるようなストレッチ系の種目を実際に入れていこうと思っています。軸がぶれないようにという基礎の徹底は最後までやっていきたいなと思います。私も厳しさを持っていかなければと思っています」

 

――今後長いスパンで見て、明治の長距離部門のトレーナーとして、どのようなことに取り組んでいきたいですか。

 「一緒に入ってきた1年生が4年生になるところに向けて、成熟させていけたらなと思います。もう少し体の使い方やフィジカルが良くなったら変わるよねという選手はいます。確かにフィジカルは変えられるのですが、それを走りにつなげるためには、かなり本人の感覚も鍛えていかなければいけない、走りのコツみたいなものもつかんでいかなければいけません。実際鍛えたことが使われるというのは実は乖離(かいり)しているので。そこは本人の努力と私のこのサポートと2つどっちも必要になってきますし、やはり時間がかかる選手ももちろんいるので、もう少し長い目で見て4年生になったときにしっかり走れるようにという感覚でやっていこうかなと思っています」

 

――箱根に向けてエールをお願いします。

 「選手のポテンシャルはとても高くて、本当にきちんと実力を出せば、シード権獲得は難なくできる実力ではあると思います。だから選手が実力を発揮できるように整えるのが私の仕事であり、実力を出すのは選手の役割です。私がしっかりサポートして、選手が思う存分実力を発揮できる、ケガとかを気にしないで、怖がらずに突っ込めるような万全な状態に仕上げていかなければいけないと思っています。なので私も頑張りますし、監督や選手ももちろん頑張りますので、本当に一致団結してやっていこうと思っています」

 

――ありがとうございました。

 

[飯塚今日平、萩原彩水]