(27)全日本選手権直前インタビュー 松井努夢

 いよいよ冬の大一番、全日本選手権(以下、全日本)が開幕する。最高の演技を目指し日々練習を重ねる選手たちに懸ける思いを伺った。夢の大舞台でそれぞれの熱い思いを表現し今年度一番の感動を届ける。

(このインタビューは12月14日に行われたものです)

 

第5回は松井努夢(政経3=関西)のインタビューです。

 

――最近の調子はいかがですか。

 「調子は悪くないですが、昨日靴が完全に駄目になってしまいました。新しい靴はもう半年前くらいに頼んでいましたが、作ってもらっているところがヨーロッパの工場でウクライナなどの事情などがあって届くのに半年くらいかかりました。何とかぎりぎりで使っていたのが駄目になったところだったので良かったです。自分のコンディションは、本当に良い方で、全日本本番まで時間が迫ってきているので、見直したり訂正したりして少しでも良い演技ができるように必死に合わせています」

 

――西日本選手権アイスダンス予選会(以下、西日本)の時から新しく追加したりレベルアップさせたりした技術はありますか。

 「全体的にガラッと変えました。西日本の時はR D(リズムダンス)の振りが1週間前にできたばかりで挑みました。どうにか試合に出られる最低限の振りを考えてもらって、それでも間に合わずに自分たちで考えた振りの部分もあったりしました。技も最低限のもので、その時にできる技を入れていました。でも西日本が終わるとすぐに、元々やろうとしていたリフトだとか、振りも西日本の時に見つけた課題などを改善しつつ、しっかりレベルアップさせました。見ている人からも変更したことがよく分かるくらい大きく変わっていると思います。FD(フリーダンス)はあまり変えていませんが、リフトを少し難しいものに変えています。全体的には音の取り方があやふやだったので、そこを明確にするようにしています」

 

――長く時間を共にしているパートナーとの関係はいかがですか。

 「良い関係です。西日本の時はRDの振りができていなかったこともあり、お互い不安しかありませんでした。焦りもあって。最近ちょうどパートナーと『西日本の時はあまり頼り合っていなかったよね。信頼関係が全くなかったよね』という話をしました。でも今はかなり関係も良いし、僕自身も彼女に対して信頼の気持ちが強くなったし、距離もだいぶ近くなりました。スケートのことで言い合ったりすることはありますが、けんかや小さな言い合いなどはないので良い関係です」

 

――身長差が20センチということについてはいかがですか。

 「ペアだったら身長差があるのは良いことです。アイスダンスでもこれだけ身長差があるカップルは海外ではたくさんいるし日本も意外といますが、少し組みづらいです。身長差があるとできないリフトや、やりにくい技はあります。でもその身長差を生かして他の組には出せない魅力を出せたら良いかなと思っています。最初は僕もパートナーも『こんなに身長差があったらやりにくいね』と言っていたのですが(笑)、お互い少しずつ慣れてきて良くなってきています」

 

――他の組とは違う魅力は何だと思いますか。

 「コーチには『あなたたちは立っているだけで見栄えが良い』とよく言われます。身長やスタイルを生かして、踊りでは体を大きく見せ他のペアに負けないくらい『踊っている!』という躍動感やスケーティングをはっきり見せたいです。スケーティングに関して言うと、西日本の時の滑りを動画で見直して、スピード感と踊りがしっかり調和して迫力あるものにしたいと思っています」

 

――憧れの髙橋大輔選手(関西大学KFSC所属)と同じ舞台に立ちますがどのような気持ちですか。

 「とても緊張しています。もちろんとても楽しみなのですが、焦りや緊張の方が強いです。練習でも焦った動きをしてしまうくらいです。コーチに『どうしよう』と相談したら、大ちゃん(髙橋選手)がアイスダンサーとして初めて出た全日本の時もとても緊張していたと教えてくれました。『あんなトップ選手でも緊張するんだよ』と言ってくれたので、そうだよなと少し安心しました。逆にその全日本でしか味わえない緊張感を楽しもうとポジティブに考えています。不安な気持ちはパートナーに伝わってしまうと思うので、逆も然りですが、パートナーを不安にさせないためにも楽しむ気持ちでいこうと思います。それでも絶対緊張すると思います(笑)」

 

――パートナーが緊張していたらどのような言葉を掛けたいですか。

 「彼女は不安な言葉や態度を見せません。でも本人が緊張している時は僕にやたら聞いてきます。『緊張している?大丈夫だよ』と言ってくれたりしますが、自分自身にも言い聞かせるために僕に言っているみたいです(笑)。僕もその気持ちはとても分かるし同じようなことをしているので、お互いにポジティブな言葉を掛け合いたいです」

 

――演技の中で一番見てほしいところはどんなところですか。

 「RDではコレオステップです。最初はゆっくり始まって後半は曲調が明るくなるところを見てほしいです。かなり振りを変えたところなので、弾けた踊りとその後のスピード感で最後まで駆け抜ける感じをしっかり表現したいと思っています。FDも、曲が最後盛り上がるところで入れたコレオステップです。メロディーも踊りも好きで『レ・ミゼラブル』のエンディングの方の曲です。『明日は来る、未来はある』という希望にあふれた感じをしっかり表現し、見ている人にもそれが伝わると良いなと思います。FDはとにかく体力面が心配で(笑)、しっかり踊りたいのに踊れないという感じです。全日本は練習で疲れるよりも3倍も4倍も疲れると思うけれど、力強く踊りたいです」

 

――それぞれの衣装にはどのような意味が込められていますか。

 「RDは胸元が開いていて色気のある大人の男性を表現した衣装です。狙いを定めた女性を誘惑する感じを衣装と共に表現できたらと思っています。FDは本当に『レ・ミゼラブル』を知っている人からしたら『あ!レミゼだ!』という衣装になったと思います。僕はマリウスを演じるのですが、彼の青年っぽさを出したいです。エポリーヌとマリウスを僕たちなりに再現して観客も巻き込んで『明日は来る、未来はある』と明るく盛り上げたいです。衣装は完璧なので、衣装負けしない演技をしたいです」

 

――全体的にスピード感があり、若々しい感じのイメージなのですね。

 「そうですね。それと同時にシニアなのでしっとりした動きなども意識したいです。曲に合わせて動きを変化させていけたらと思います。最初から最後まで明るく楽しくというのは少し子どもっぽいかなと思うので、大人な部分も見せつつ、僕たちの若さである勢いは衰えさせないようにしたいです」

 

――改めて、シングルとは違うアイスダンスの魅力や楽しいところを教えてください。

 「最初は人と合わせるのは大変だと思っていましたが、アイスダンスは楽しいです。シングルよりもアイスダンスの方がスケーティングなど地道な練習が多いです。僕はシングルでステップやスピンなどの細かい練習が嫌いでジャンプばかり跳んでいました。アイスダンスの練習が始まってからもスケーティングの練習ばかりで大変でしたが、上達してくると相手と組んだ時に『ここにいるとお互いにターンしやすい』など位置関係が分かるようになってそれが面白くなってきました。やはりできるまでは苦しいですが、できるようになると楽しいです。リフトも難しくてできないと思っていましたが、意外とサラッとできたりします。今までアイスダンスという競技自体を浅く見ていたなと思いました。ターンも、入る瞬間から終わるところまで深いエッジでやらなければいけないなど、シングルより丁寧な練習を心掛けるようになりました。シングルは1人で滑るからどうにでもなりますが、アイスダンスは人と滑るしテンポが合っていないと本当に点数が出ません。そのことは西日本で実感しました。西日本が終わってからきちんとテンポを合わせる練習をしたら都民体育大会(以下、都民大会)は少し点数が伸びました。リズムをつかむなど、小さな意識でこんなに点数が伸びるのだと思いました。アイスダンスはしっかり考えることが多いので、シングルよりも奥が深いなと感じています。最初は(シングルとアイスダンスを)両立できないと思って不安しかありませんでしたが、今ではアイスダンスを始めて良かったなと思います」

 

――全日本への意気込みをお願いします。

 「とにかく楽しんで滑ることを意識して、良い意味で開き直って挑みたいと思います。アイスダンス初シーズンで全日本に出られることに感謝して、パートナーにも感謝しながらやってきたことを全て出し切れるように、笑顔で終われるように頑張りたいです」

 

――ありがとうございました。

 

[新村百華]