
(157)【特別企画】躍進の2022年 短距離部門4年生座談会(後編)
短距離部門の躍進が際立つ1年となった2022年。躍進の裏には4年生のチーム改革があった。今回は〝新生明治〟の土台をつくりあげた小林枚也(法4=八王子)、鈴木憲伸(営4=明大中野八王子)、丹治友伽マネジャー(法4=吉祥女子)、野口航平(商4=洛南)の4年生4人の座談会を行った。
(この取材は11月27日に行われたものです)
――4年間でお互いに成長したと思うことはありますか。
小林枚
「僕は野口の成長したところは言えるな。人一倍丸くなった。4年目になってからは練習に集中するだけではなくて柔軟性は増したよね。大学の主体的に動かないと結果が出ない環境で、高校の時のままだと駄目だとこの2人(小林枚、野口)は特に感じていたからこそ、柔軟性は得ることができたかな。」
野口
「オンオフの切り替えはしっかりできるようになったかなと思う。陸上競技は上を目指して高め合う環境で取り組むことに、楽しさがあると思っています。そういう意味ではどの学年よりも同期と後輩に恵まれたと本当に思います」
鈴木憲
「僕は短距離キャプテンという立場が成長させてくれた部分はある。短距離の中でも種目によって練習の方向性は全く違うし、練習場でコミュニケーションを取ることは少ないんですよ。ただ、短距離キャプテンになってからはチームのことを考えるようになり、ケガをして落ち込んでいる後輩には声を掛けることは増えたと思います。自分は練習場で人と積極的に話すことがなかったので、そういったことが増えたのはすごく自分のためになりましたね。みんながどんなことを考えているのかはキャプテンをする上で必要なことなのでそれを通して成長させてもらいました」
小林枚
「成長したところは僕が一番無い気がする。競技面は手応えも感じたしトータルで見ればいい終わり方だったなと思います。ただ、自分が考える範囲で最善の選択をして今の明大のリレーの形があると思うんですけど、もっと自分にはない発想を取り入れる方向性でチームを作っていけたらまた違う結果が出ていたのかなと思っていて。リレーの結果も振り返ってみれば実力相応だったなと思うので、もっと結果を出したかったのであればもっとアクションを起こしてみたかった。そこは僕自身の変化も必要だったかなと思います」
野口
「でも、枚也の変化で言ったら4年目が……」
鈴木憲
「日本インカレの標準を切りにいく姿勢がすごくて」
小林枚
「毎週試合に出ていたし毎週落ち込んでいたけどね」
鈴木憲
「それでも絶対に記録を出すという気概だけは衰えなくて」
小林枚
「何だかんだ自己ベストは出したし、手応えは得ていたから頑張れました。でも確かにあの雰囲気は大学1年から3年までの僕には無かった」
野口
「あの必死さは周りも感じていた」
小林枚
「2人(鈴木憲、野口)はもう標準記録を切ってたじゃん。実は僕が大学で競技を続けたきっかけが、高校時代に出られると思っていたインターハイにわずかな差で出られなかったことなんです。結果が全てとは思わないけれど、大学でも全国大会に出られなかったら絶対に陸上を続けたくなるし。そう考えるとあの期間で標準を切るしかなかったので、100メートルが速くなったことが一番の成長だと思います」
鈴木憲
「でもそれを後輩に残せたことは大きいよ。4年目だからもういいやって投げやりになるんじゃなくて最後まで諦めずに突き詰めれば日本インカレに出られるという姿をね」
小林枚
「確かにそれはあるかもしれない。4年目で結果を出している人はたくさんいますけど、その人が僕みたいな陸上人生だったかというとそういうイメージはないです。なので、それは残せた部分の一つでもあるし、今後の陸上競技以外にもつながる部分だと思います。丹治さんはある?丹治さんは常に成長しかしていないからね」
丹治
「え?」
野口
「最高権力者だからね」
丹治
「そんなこと無いです(笑)」
小林枚
「丹治さんについてこの前すごいなって思ったのが、ノートにメモを残していて……」
丹治
「私が入った時は3、4年生の先輩がいなかったんです。その時に苦労したので自分が4年生になったら後輩たちにこういうことをやっていたと残しておこうかなと思って。後輩たちは私の代よりも経験が少なく、分からないことが多い中で活動するのは大変なので少しでも手助けになればと思って引継ぎ書を作りました」
――4年間で一番印象に残っていることはありますか。
鈴木憲
「僕が一番印象に残っているのは日本インカレの(三段跳びの試技)4本目。2本目が終わった時の記録がこのままじゃ決勝進出が危ういんじゃないかっていうところだったんですけど、その時に喉が渇いたので枚也(小林)に飲み物を買ってきてもらったんです。その時に話したおかげですごく気持ちが入りました。それで、いざピットに入った時に手拍子を求めたんです。その時に最初に目に飛び込んできたのが大きく手拍子をしている航平(野口)だったんですよ。そのことにめちゃめちゃ勇気をもらって、何も怖いものが無くなって15メートル93を跳んだ時がとても印象に残っています」
日本インカレで言葉を交わす小林枚と鈴木憲
丹治
「関東インカレでリレーと個人とで4年生みんなが入賞した時にその場で後輩が4人の写真を撮ってくれたんです。それを見るとこの学年のマネジャーをやっていて良かったなと思えました」
野口
「最後の関東インカレで4年生全員が表彰状を持っているのは感慨深いよね。冬の頃から関東インカレではここ10年で一番高い点数を取ろうとか言っていたし。これまでは全員が照準をうまく合わせる大会は少なかったけど関東インカレはちゃんと照準を合わせられた大会だったのでチームの雰囲気が良かったよね」
鈴木憲
「最高に良かったですね」
小林枚
「印象的なことは関東インカレで全員が入賞したことも良かったなと今となっては思います。でも、当時は目標に届いたかと言われると悔しい思いの方が大きかった。決勝という目標としていた舞台で順位を見た時に悔しいと思えるチームの一員として自分が走れていることがうれしかった。大学に入ってからはうまくいかなかったし、高校の時もリレーで選んでもらうために、必死でスタメンに選ばれることが当たり前ではなかった立場からすると、このチームは僕のイメージする中で理想的だった。同期2人もやっぱり結果に対して悔しい思いがにじみ出ていて、そういう高い意識を持つ同期と一緒にチームを組めているという事実が入賞したことよりも印象に残っているかなって。同期全員がそうであるチームってなかなかない」
小林枚
「普通の人は多少なりともいい結果が出たら浮かれると思うんだよ。でもそういうのが一切ないチームだったし、いい同期を持ったなと実感できた瞬間が何よりもうれしかったですね」
野口
「それこそ関東インカレだよね。ずっとケガをしていたから冬期練習もみんなからスタートが2カ月くらい遅れていました。なので練習を積めていなかったけど、うまく走れるという自信があって予選、準決勝と初めて自分に期待してレースに臨むことができた。決勝は前日の疲れから結構ナーバスになってしまったこともあって、自分の求めていた結果を残すことができなかったけど、4年目にして初めて自分に期待してレースに臨めた大会だったのでそれは印象に残っている」
小林枚
「僕は法大対校戦の4×100メートルRでも良かったと思っている。高校の時の自分に大学に入ったら憲伸と航平と一緒にメンバーを組むよと言っても絶対に信じないと思う。でも、いざ組んでみたら印象に残った」
野口
「新鮮だったね。それでちゃんと法大に勝ったし」
小林枚
「僕は毎年法大対校戦が大嫌いだった。法大が強いっていうのもあるんだけど、メンバーがどうであれ明大が法大に4×100メートルRで勝つ瞬間なんて想像がつかなかったから。でも今年は勝てたのがうれしかったね」
法大対校戦でバトンを繋ぐ野口(左)、小林枚(右)
――今の後輩たちの印象や注目選手を教えてください。
野口
「僕は颯太(木村颯太・法3=明星学園)かな」
鈴木憲
「僕はふみ(井上史隆・理工3=市立橘)」
小林枚
「え~誰かなぁ」
鈴木憲
「弟(小林真名世・政経2=八王子)でもいいんだよ」
小林枚
「リアルに結構期待しているのは弟なんだよね。なぜかというとまずは今年の飛躍的な成長。あとは、陸上競技は考える能力とかパフォーマンスとかの掛け算があって勝てるわけで、それらをトータルで見た時に真名世は今年の結果は全然満足していないだろうし、あくまでも過程でしかないと思う。家でも競技の話をしたり、400メートルHも来年の日本インカレでは絶対に出なきゃいけないとかすごく考えている。一緒の家に住んでいるからこそ、かなり期待できる部分があるのかなと感じるね。注目している選手というか期待している選手で言うと真名世だな。結構えこひいきなしで」
日本インカレでバトンを繋ぐ野口(左)、小林真(右)
野口
「今の短距離の雰囲気本当に良いよね。僕たちの代以上に上を目指すための雰囲気が出ているなと。僕はずっと練習に来ているので全ブロック見ているけど、短距離結構いいんじゃないか、あげあげのチームだなと思っていますね」
鈴木憲
「本当にいつも自分たちで考えて作ったメニューだからこそ責任を持って取り組んでいるし。やることはやった上でみんなで楽しく盛り上がっています。すごく仲の良さもあっていい形だなって」
野口
「オンがしっかりしているからこそオフも充実していそうだし、またその逆もしかりだと思います」
小林枚
「一言で言ったら真面目なチームだよね。真面目じゃなきゃこんなに主体的に動けないし。それが俺から見た後輩に対するイメージかな。最近の後輩真面目過ぎて特に言うことないし」
鈴木憲
「井上史隆っていう高跳びをやっている選手がいますけど、注目しているのは単に同じ跳躍種目だからというだけでなくて大学に入ってから一度もベストを更新できていない苦労人でありながらも本人はずっとめげずに真摯(しんし)に取り組んでいるんです。そういう姿勢の人はすごく報われてほしいと思いますし、大学4年間でいろいろある選択肢の中で競走部を選んだ人には少なくとも陸上競技では報われてほしい。ベストという形を残せてもらえたらすごくうれしいなと思いますね」
野口
「あいつとよく話すから、同じくらいの年代で高2からベストが出ていないから記録更新したいよねという話はしている。でも井上が気持ち折れてるところを見たことがない。ないよね?」
小林枚
「見たことないな。彼は一般で入ってきたし理系だから勉強が大変じゃん。それが言い訳にはならないけど勉強も頑張って大学に入ってきていること自体が評価されるべきところだし、彼の勤勉さは大学の成績とか日頃の姿勢を見ていても誰もが認める部分だよね。4年目で自己ベストが出るもいるからそれこそ、ふみには頑張ってほしい」
助走をつける井上
野口
「颯太。僕は競技にフォーカスし過ぎちゃう性格で凝り固まっていました。それで中学、高校の時はうまくいっていた時もあったけど大学ではなかなかうまくいかなくなる時期も増えたりした。そういう時に颯太とコミュニケーションを取る機会があったんだけど『そのままじゃ持たないと思います』と僕のことを思って本音を言ってくれるから本当にありがたかった。走りがうまくいかないという話をした時にも明星学園(木村颯の母校)を紹介してくれて本当に良い後輩だなと思いますし、人としても尊敬できる子です。本人もいろいろやりたいことがあっただろうけど僕たちも結構我慢させてしまった部分もあるので、ラストシーズンは欲張ってやれることは全部やってほしいなと思っている。僕自身もいろいろ考えて練習をやってきた身なので彼が思うようにやっても周りはそれに付いていけば結果は出ると思いますし、周りを気にせずに自分がやりたいような1年間を送ってほしいなって。そのためにはケガだけはしないでほしい。ケガをしなければあいつはマジで速いので。それで最後の日本インカレで(木村稜と)どっちの木村が速いんだ選手権をしてほしい」
木村颯(左)、木村稜(右)
小林枚
「それはマジで見たいよね」
野口
「それは本当に期待している。だから稜(木村稜・政経3=乙訓)もめちゃくちゃ期待していますし、それ以上に颯太はチームの中で一番苦労した人だと思うので大学4年では報われてほしいなと思います」
丹治
「注目というよりはこれからのマネジャーにやってほしいことなんですけど、一言で言えば視野を広く持ってほしいです。例えば日本インカレの標準を切りたい選手がいたら前々からこういう大会がありますと伝えるんですよ。もし、選手が神奈川県登録だったら神奈川県の中で出られる大会をなるべく早くに全部調べてあげないと出られない大会がたくさんあるので。自分の近くにいる選手だけじゃなくて、全ての選手のことを考えてやってほしいです。それを今もできているんですけど、もっと極めてほしいなと思います」
――最後に一言をお願いします。
丹治
「マネジャーとしての思いじゃないけど、多分選手が思っている以上に誰かが自己ベストを出した時はめちゃめちゃうれしいです。電話しちゃうくらいにうれしい(笑)。だからそれが一種のモチベーションになってくれたらいいなと思います」
野口
「今の後輩にというわけではないですけど、枚也が最後の最後で結果が出たように4年間を通してみると結果が出ないことも多いと思うんですよ。人それぞれですけど、僕を含めとても苦労しました。でも最後まで諦めなければちょっとはいいことがあるから、そのためにも頑張ってほしい。とにかく最後まで諦めないでほしいです」
小林枚
「この記事を読むのが後輩たちなのかファンの方なのかによって何を伝えるかは、かなり変わってきますね。まず、ファンの方に言うことがあるとすれば、僕から見ても今後の明治はどんどん強くなるし、来年度も速い子たちが入るし、今の明治の短距離の選手は今後の活躍が期待される選手ばかりです。ただ、今まで注目されていなかった分、応援していただけるようになった時に、思うように結果が残せないと周りの意見は厳しくなってくると思います。学生スポーツに手厳しい意見をおっしゃる方もいますが、応援していただくとともに選手の可能性をつぶさないためにも、短距離全体を温かい目で見守っていただければと思います」
鈴木憲
「明治の短距離は絶対に見ないと損!そんなくらいに面白い」
小林枚
「ファンの方と一緒に短距離を鼓舞するような形でやってほしい。後輩たちに言うとすれば本当に終わりよければ全てよしだけれど『終わりよければ』の部分は人によって違うと思うんですよ。ただ、後悔を残すような陸上人生ではあってほしくない。陸上競技は楽しくないことの方が多いと思うんですけど、一瞬の楽しいことのために楽しくないことをやるというのは、みんなも経験していることだと思います。めげずに最後まで頑張ってほしいです」
鈴木憲
「枚也と少し被ることはあるけど、短距離や競歩の後輩たちには明治は駅伝だけじゃないとイメージを変えていってほしいです。ただ、後輩が頑張るだけでは、どうにもならない部分があります。スポーツはする人、支える人、見る人のおかげで成り立っているのでファンの皆さまにもこれからは長距離だけではなく短距離や競歩のことも気に掛けていただければうれしいです。それを励みに選手も頑張って成績を出すという好循環が生まれてくると思うのでそこは注目してもらいたいですね。期待に応えられる自信は後輩たちの姿を見ていれば心配ないので。あともう一つ言うことがあれば明大の短距離で良かったなと思います。スタッフの方々や最高の先輩方、同期、後輩に恵まれたと思いますね。他の学校だったらここまで来られなかったと思いますし、その理由は上昇心しかない仲間に巡り合えたことが大きかったと思います。ここでの経験は必ずこれからの糧になると思うので明大での4年間は忘れずにいたいです。絶対に忘れないと思います」
野口
「マジで短距離に期待していてほしいよね。OBの人とかさまざまな人を含めてチームだと思っているので応援してほしい」
鈴木憲
「楽しみが増えるよね。長距離だけじゃなくて競歩、短距離を応援すれば楽しみが3倍になる」
小林枚
「母校愛の根底はそういうところじゃない?短距離は箱根駅伝ほど注目されないというのはあるにせよ、明治の短距離は今のメンツで見なかったら損するから、本当に見てほしいよね。自分が引退してからは余計にそう思うようになった」
鈴木憲
「明大競走部に乞うご期待!」
野口
「幸あれ!」
(左から)小林枚、鈴木憲、野口
――ありがとうございました。
[出口千乃]
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