(35)シーズン後インタビュー 山隈太一朗

 思いを込めた演技で氷上を彩り、見る者の心を躍らせてくれた選手たち。シーズンを通してそれぞれが味わった思いはさまざまである。新型コロナウイルスの影響にも負けず戦い抜いた今シーズン。その振り返りのインタビューをお届けする。

 

(この取材は2月8日に行われたものです)

 

第6回は山隈太一朗(営3=芦屋国際)のインタビューです。

 

――今シーズンは振り返ってみてどんなシーズンでしたか。

 「自分としては今までになく自分に向き合って、一歩ずつ前に進めたシーズンだなと思います。今までは迷いだったりブレたりが多かったというか、なかなか結果が出ない難しさに対して自分のプライドが邪魔をして練習の質が下がったりということがありました。今シーズンはそういうことがなく、プレシーズンの夏の段階で自分の心が決まったというか、自分は今一番下で毎日必死にならなければ上には行けないという現状の自分をしっかり受け入れて、プライドとかではなく自分に集中して目の前の練習にベストを尽くすというシンプルなことをずっと続けてこられたというのが一番大きかったです。いきなりは結果が出ないことはわかっていたし、練習の50%以下、20%しか試合で出せなくても一つでも自分の中で成長を感じられたらそれを糧にしてまた練習に打ち込んで、ということがずっとできていて今までになく自分がスケートに打ち込んでいるのを感じました。常に前向きでいられたなと思うし、自分の中でしっかり意識高くできたというのもあるし、試合の結果よりもこの一年間自分がそういうことをやり遂げられたというのが本当に良かったかなと思います」

 

――『底なし沼』と例えていたり、苦しい状態の中戦い抜いたシーズンだったと思いますが、最後までやり抜けた原動力はなんですか。

 「このままで終わりたくないというのが一番にあったかなと思います。悪かった時に自分が地に足が着いていなかったのも感じていたし、もっとこうできたのになという後悔を感じたまま終わりたくなかったし。このままだと自分が中途半端に終わるというのを感じてこのまま終わりたくないというか、最後にしっかりあがいて駄目だったら仕方がないと思えるくらいやり尽くしていきたいと感じたのが一番大きな理由かなと思います」

 

――昨シーズンより成長を感じた点は、やはり精神的なところですか。

 「そうですね、常に前向きでいられたのも大きいですし、自分をより大事にしたかなと思います。自分の中で湧き上がってくる気持ちであったりそういうものを、誰かから言われた『意識を高く持たなきゃ駄目だ』という言葉などに縛られずに、自分の感情にしっかり向き合って『その気持ちだと本当に駄目なのか?』と考えたり、起きた状況に素直に真っ直ぐ対応するというのも今シーズンはできました。また、それが自分のモチベーションの邪魔をしないということもわかりました。ネガティブな気持ちというのは一見駄目なように感じるけれど、僕の場合ネガティブなものはそれだけ自分が真摯にスケートに向き合っているという証拠でもあると思っていて。湧き出る感情に対して素直に、そしてその気持ちを大切にしながら練習へのモチベーションにつなげていけているというところは精神的にすごく進歩したところだと思います」

 

――今シーズンから新しく始めたプログラムで、FS(フリースケーティング)については「自分に合っていた」というお話もあったかと思いますが、SP(ショートプログラム)は滑り切ってみていかがでしたか。

 「楽しかったですね。やはりハイテンポの曲は難しいですが、それで自分の足さばきがすごくうまくなったとも感じますし、速いリズムの中で美しいポジションをとるというのも進歩できたなと感じますし、自分をすごく成長させてくれて世界も広げてくれたなと思います。後はファンの皆さんから良い評価ももらえたし、得るものが多かったなと思います」

 

――今シーズンで一番印象に残っている試合はなんですか。

 「今シーズンは全試合自分の中で大きい存在だったというか、本当に一試合一試合がすごく自分の糧になっていたのを感じていたので、一番印象に残る試合というのは…なんだろうなあ。きっかけになった試合と考えるなら(ユニバーシアードの)選考会ですかね。でもこれは試合ではないので一番良かった試合だと冬季国民体育大会(以下、国体)です。全日本選手権(以下、全日本)も自分にとっては中々ハードだったので…うーん、やっぱり一番印象に残っているのは全日本かな。自分の人生の中で一番苦しい試合でしたし。ただ終わった時の開放感もすごかったです。全日本の怖さみたいなものも改めて感じましたし、規模の大きさも感じました。そこで最後までちゃんと戦い抜いたことで自信がすごく得られましたし、それが日本学生氷上選手権や国体の安定したパフォーマンスにつながりました」

 

――転機として選考会を挙げていましたが、どのように変わりましたか

 「練習に対しての向き合い方ですかね。(選考会の前に行われた)合宿の時に、自分の感情に嘘をつかずに精一杯目の前のことに懸ける、自分の中でセーブせずに常に全力というスタンスで練習したんです。今までももちろん全力で取り組んでいましたが、改めてそこに意識を向けて練習したことはなくて。初めてそこに目を向けてとにかくがむしゃらに練習して、その結果が選考会でのすごくいい演技でした。自分の気持ちに素直にがむしゃらにという練習方法に初めて手応えを感じたのが選考会で、そこからブレずに常にその気持ちを持って練習するようになったのでやはり大きかったかなと思います」

 

――一番悔しかった試合などはありますか。

 「悔しかった試合はあまりないかな。全日本でアクセルを決めたかった、とか国体でフリップを決めていたら兵庫が優勝だったのに、とかはありますが、それは終わってからわかることというか。結果が出て初めて実はそうだったんだとわかることであり、自分に対して考えたら今シーズンはそこまで不甲斐なさとかを感じる試合はなかったです。もちろんサマーカップとかその辺のプレシーズンの夏の試合は駄目でしたが、そこから気持ちを切り替えて僕のシーズンは始まったみたいなところがあるので。そこからの試合で考えるとなかったかなと思います」

 

――今シーズンは取れるところを確実に取りに行く印象があったのですが、来シーズンは不確定要素としてもう一度4回転を取り入れたりする予定はありますか。

 「もちろん4回転は練習しますしこのオフのテーマでもあります。でも3回転3回転を戻すというのも大事で、全日本のあった12月くらいから戻ってきていて跳べてはいるのですが、夏の間に3回転3回転を入れた練習をしていなかったので、そこをしっかり戻していきたいです。昨シーズンは完成度の低いものになるかと思って入れていなかったのですが、今シーズンはルッツとフリップのトラウマに苦しんできたのがかなり解決というか自信を持って跳べるようになってきたので、1歩ステップアップしてまた3回転3回転を戻していきます。4回転は夏の間に跳べたら入れるし跳べなかったら入れないしという、あまり不確定要素をプログラムに組み込んでいくということはしないかなと思います」

 

――来年は最高学年になりますが、意気込みなどはありますか。

 「最高学年というのはあまり気にしていないですが、とにかく後悔しないようにしたいです。『ちょっと今日はしんどいなあ』と甘えそうになるところで自分を律するではないですけど、自分に対して常にしっかりしていられるように。後悔は引退した後などにやはりどうしてもするとは思いますが、自分の気づける範囲では甘えを無くして厳しくしてとにかく引退する時にもう後悔はないなと思えるように一日一日を過ごしていきたいです。

 先輩像とかも気にせずに。自分らしく過ごしていればいいかな(笑)。学年順では僕が一番上で、わからないことがあればもちろん教えてあげたいですが、基本みんな自分のことは各自自分でできるので、そこのサポートみたいなのができればなと思っています」

 

――卒業と同時に引退なさるんですか。

 「まだ引退の時期は考えていないですけど(笑)、終わりに近づいていることは間違いなくて、大学生としてスケートするのが今年で最後なことは間違いないので。昨年はとにかく自分に厳しくというかストイックにできたからこそいい試合ができたと思うし、ストイックに生活することに自分は満足感を得ていたというか、それがまたモチベーションにつながって充実した1年を過ごせたので『最後だから』ではなくとにかくストイックさから得られる満足感などを大事にしたいです」

 

――男子4人はすごく仲がいいと聞きました。

 「仲はいいですね。気が合うとかそういう仲の良さではなく、すごく4人のバランスがいいような気がします。光翔(大島光翔・政経1=立教新座)みたくバンバン引っ張っていくムードメーカーのキャラは彼しかいないですし、義正(堀義正・商2=新渡戸文化)は本当に良いやつで。努夢(松井努夢・政経2=関西)も彼は自分の世界がある人で、そのミステリアスではないけどそういう世界を持っているけど僕らにはすごく友好的だし、僕は僕でバランスをとるというかそういう立ち位置にいて、4人のバランスがとれていると感じます。後は僕らが一番仲良くなったなと感じたのは合宿以降なのですが、全員がこの一発でうまくなろうという意識を強く持って練習していて、義正とか努夢とかは合宿に来る前と来た後で本当にうまくなっていました。お互いがお互いを高め合いながらできているというのをすごく感じて、そういう点では良い合宿になったなと思います。そこからそれぞれが地元のリンクに帰っても意識高く頑張れていたし、そういう高め合う関係だからこそ仲良くやれているのかなとすごく感じます。とにかくみんなすごく今いい雰囲気なので、しっかりこの雰囲気を継続できるようにしていこうと思います」

 

――ありがとうございました。

 

[向井瑠風]