仕事
最近、アルバイトを始めた。デパートのアルバイトで、シフトの入っている日は毎日スーツを着て仕事へ行く。白いシャツを着て、黒いスラックスを履いて、真っ青なネクタイを締める。鏡を見て「ヨシ!」のひと声。そうして仕事に行く。昔からの憧れだった。
父はネクタイを締めない。スーツも滅多に着ない。父は職人だ。スーツではなく、作業服を見にまとい、毎朝仕事へ行く。自分は、そんな父が嫌いだった。子どもの頃、「普通のお父さん」といえば、サラリーマン。スーツを着て、電車に乗り、職場ではパソコンとにらめっこ。そう思っていた。でも、自分の父はみんなと違う仕事。「普通」じゃない。そう考えていた。
高校生になったある日、父から、仕事の手伝いをお願いされた。作業現場に道具を運ぶ仕事だ。ご飯を奢ってくれると言うので、こくりとうなずき、行くことに決めた。白いTシャツの上に青いベストを着て、青いワークパンツを履いて、真っ青なブルゾンを羽織る。カバンの持ち物を見て「ヨシ!」のひと声。そうして現場へ向かう。正直、いままで父の仕事を見たことも、考えたこともなかった。ただサラリーマンではない、ということで普通じゃないと思っていた。むしろ、仕事という仕事なのか、とすら思っていた
現場に到着して父の動作を眺める。いつもの父と違う。目つきが違う。作業服姿の父は、「仕事」をしていた。正直、「職人なんて…」と思っていたが違った。自分の誤りに気づいた。サラリーマンだけが仕事人じゃない。誰しも自分の仕事に誇りを持って、責務を真っ当にこなしているのだ。家に帰って言葉が浮かんだ。その言葉は直接伝えられていないけど、ここで言おう。今までごめんなさい。そして、いつもありがとう。
[藤井直也] (執筆日:11月17日)
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