(35)「対話をしながらチームをつくっていく」神鳥裕之監督 就任インタビュー②

2021.07.05

 新たな時代を築けるか。6月1日より明大ラグビー部監督に神鳥裕之(平9営卒)氏が就任。今回は神鳥監督に監督としての意気込みを伺った。全3回でお送りします。(この取材は6月13日に行われたものです)

 

――神鳥さんが加えたい考え方はありますか。

 「やはり自主性です。これが僕の一番のスタイルです。田中(澄憲・平10文卒)監督がそれを求めなかったわけではないですし、僕も彼をよく知っていますが、彼は僕もリスペクトする程の強烈なリーダーシップを発揮して、強いメッセージを発信して、引っ張っていくリーダーでした。それに甘えるわけではないですが、田中監督のメッセージに付いていくという選手たちもいたと思うので、自分がここに来て、同じやり方を私は取れないので、選手たちが持っているものを引き出して、考えと声を聞いて、巻き込んで、選手たちの力を借りて、力を結集させながらチームをドライブさせることが自分の強みだと思います。対話をしながらチームをつくっていくことが僕のスタイルだと思っています。自主性、対話、コミュニケーション、あとはポテンシャルを引き出すというところです」

 

――コーチ陣の変更は考えましたか。

 「基本的に考えていないです。今のコーチ陣を信頼したいと思っています。スポーツの世界だと監督が変わるとコーチ陣が変わることもあります。当然、私も8年間指導してきた経験の中で信頼できるコーチがいないと言えば嘘になりますし、価値観を共有できるコーチはいます。ただ学生スポーツは自分の中では違うと思っていて、明治大学をよく知っていて、今までの流れを理解していて、コーチ陣はOBで、明治大学を愛している。そういったコーチに僕の考えを理解してもらって、一緒に巻き込んでいくやり方が僕に求められているチャレンジだと思っています。自分にとってどちらかと言えばハードなチョイスを選びたいです。簡単にパッケージでコーチを呼んできて、そのメンバーたちでチームをつくっていくことは、僕としては仕事はやりやすいですし、メッセージの伝わり方も早くなるかもしれませんが、そのやり方はベストではないと考えています」

 

――目指すラグビーのスタイル像はありますか。

 「これは僕のスタイルではなくていいと思っています。やはり明治大学ラグビー部は特別なものじゃないですか。これは原点にあるべきだと思いますし、全国の多くのファンの方がイメージするような強いイメージがあって、北島先生の〝前へ〟という言葉があって、フェアプレーを全面に押し出して、戦っていくという憲法のようなものです。ポリシーに基づきながら、自分の大事にしているものを少し加える。僕が大事にしていることはボールを持っていない人がひたむきに準備をして懸命に戦ってチームに付加価値を与えるようなスタイルです」

 

――FWへのこだわりはありますか。

 「ラグビーは当然FWが頑張らないといいBKがどれだけいてもボールを供給できないので、こだわらないといけないです。ただこだわるというとFWばかりでいくように思われがちですが、こだわり方は自分がボールを持ったときに必ずゲインラインを切る、自分が関わるときはバックスに良いボールを出すという意味でのこだわりであったり、コリジョンが起きたときに少しでも勝つ、一歩でも前に出るということなので、全部FWでこじ開けてやろうという話では全くないです。いかに効率的にスペースアタックができる、ゲインラインを突破できる、BKがいいポジションでキックを蹴られる状況をつくるのがFWなので、そういった意味ではこだわりたいです」

 

――チームスローガンについてはいかがですか。 

 「4年生が話し合って考えた素晴らしいスローガンだと思います。個人的には明治のプライドとは何かという話です。当たり前ですが、何度も言うように大学選手権優勝を常に争うチームを目指すことはもちろんですが、勝てば何でもいいというわけではないです。そこに向かうための姿勢、取り組み、行動、みんなから応援したいと思ってもらえること。ファンであれば、さすが明治だなとリスペクトされること、日々の行動にプライドを持とうという意味でのプライドです。明治の看板はそう簡単にけなしてはいけないし、明治のラグビー部は簡単に築き上げて、でき上がった看板ではないです。本当に多くのOBの方が築き上げてくれて今があります。その看板を簡単に汚すようなことをしてはいけないという考えで、ラグビーのプレーだけでプライドを見せるという薄い話ではないです」

 

――神鳥監督にとって〝前へ〟とはどういう意味がありますか。

 「これはよく聞かれますが、人それぞれの解釈があっていいと思います。北島先生が使われている言葉で、僕もすてきな言葉だと思いますし、僕なりの〝前へ〟誰かにとっての〝前へ〟でいいと思います。僕は困難なことがあっても逃げずに一歩踏み出すということで捉えています。例えば今回の明治大学の監督のオファーもそうです。自分にとって、厳しいと思うことであっても、一歩踏み出してみる。自分の人生を豊かにできるチャンスがあるのであれば、まず踏み出して考えてみる。ラグビーでもトライアンドエラー、これはビジネスの世界でも言いますが、まずやってみて、やってみない分には良いも悪いも分からないと捉えています。これからもためらわず何かあればトライしてみたいと思います」

 

――ありがとうございました。

 

[田中佑太、安室帆海]