
(23)「ラグビーという競技の良さをもっとたくさんの人に知ってもらいたい」田中澄憲監督退任インタビュー③
明大を復活させた名将が退任した。5月31日をもって、田中澄憲監督(平10文卒)が退任。ヘッドコーチに就任した2018年度は全国大学選手権(以下大学選手権)で準優勝。続く19年度には22年ぶりの優勝を成し遂げた。今回は偉業を果たした田中監督に明大での4年間を振り返っていただいた。6月1日より全3回で連載する(この取材は5月12日に行われたものです)
――学生スポーツは4年生のものだと言っていたことが印象的です。
「実体験もありますし、僕らが学生の時から4年生が引っ張っていました。4年生の思いを感じましたし、そのために付いていきたいと感じましたし、今もそうだと思います。やはり4年生がどれだけ本気になって、良いことだけでなく嫌なこともやるかだと思います。試合に出ているメンバーだけがいいじゃなくて、試合に出られない人は良い思いをしていない。そのときに頑張れるか、周りを引き上げていけるか。そういった人間が多ければ多いほど、後輩は付いていきます。この前ミーティングで話しましたがリーダーシップではなく、オーナーシップだということです。自分のチームという当事者意識を持って、一人一人がやるべきことを持って果たしていく。良い組織というのはそれができると思います。まず4年生の思いや本気度は必要になってくると思います」
――〝前へ〟という言葉は田中さんにとってどのような意味がありますか。
「僕はプレーではなく、きついところから逃げない、ずるくかわさないことだと思っています。人を使って隠れながらやれることはあるわけじゃないですか。それは違うじゃないですか。正々堂々と、そこに向かっていって、それを乗り越えていくという生き方だと思います」
――今後明大ラグビー部にはどのように携わっていきたいですか。
「OBとして応援していますし、今の4年生から1年生と来年に入ってくる1年生は自分がリクルートをしていますし、直接関わっているじゃないですか。彼らがどう成長をしていくか、活躍してほしいなということを感じます。そういったところを見ていきたいです。自分もそうでしたが、もう一回明治のラグビーが日本一に常に争っていかなければいけない。OB、ファンが彼らから勇気をもらうわけじゃないですか、そういったことを発信できるチームであるのでそうあってほしいです。もう暗黒時代には戻らないと思いますが、落ちることは簡単です。それは当事者だけではなくて、明治のOB全体で、そういったチームにしてはいけないとサポートしていくことです」
――今後のキャリアプランは決まっていますか。
「決まるのは全てシーズンが終わってからでしょう。今更、営業やってくれと言われても使い物にならないでしょうし(笑)。次の対戦がトップリーグは8、9月ごろになるでしょうし、そこからチームに入れと言われたら入るでしょうし、営業をやれと言われたらやるでしょうし、サラリーマンですから従わないといけないです(笑)」
――サントリーサンゴリアスには明大出身の選手が多くいます。
「知っているメンバーは多いです。けれども明治のOB同士という関係性でいいではないのかなと思います。僕はそもそも監督ですが、監督という形でやっていないと言ったらおかしいですが、彼らは後輩だと思ってやっていました。先輩として、物も言えますし、明治の同じ看板を背負っている者として後輩としてそれはどうなのかという感覚です。サントリーに帰って彼らがいても選手と監督ではなく、同じ明治のOBの先輩、後輩という関係だと思います。彼らは慣れないでしょうが(笑)」
――今後の夢、目標はありますか。
「そういったことはあまり考えないです。ただラグビーにこれだけ携わってきてラグビーをやったおかげで良い経験、良い人とも会えましたし、ラグビーを通じて人生が豊かになったと思います。ラグビーという競技の良さをもっとたくさんの人に知ってもらいたいです。ラグビーの魅力というのは競技性だけではなく、どちらかというと精神、マインドです。2019年度のW杯があそこまで熱狂したことは日本代表の活躍だけではなく、ラグビーは激しい試合をした後にみんなで抱き合う、笑って握手をする、試合後のファンへのリスペクトもあるじゃないですか。ああいったことは他のスポーツでは見られないと思ってそこが魅力だと思います。あの魅力を多分W杯で発信できたから共感を得たと思います。あれだけムーブメントになったと思うので、いろいろな人に発信できるように携われたら良いなと思います。現場なら勝つこともそうですし、選手に対してそういうことを求めるのもそうですし、現場以外でもチームに関わったら選手の教育もそうです。ラグビーを通した、ラグビーの魅力がもっともっと広がっていったらいいなと思います。一つでも関わっていたら嬉しいかなと思います。サントリーや日本代表の監督にあまり興味、魅力を感じないです」
――最後にファンの方へメッセージをお願いします。
「明治のファンの方は昔から本当に熱狂的で、愛が強すぎていろいろなお手紙を頂いたりもしました。いつも明治のファンは特別だと思います。ここまでチームに対して愛を注いでくれるファンは日本中を探してもそこまで多くないと思います。それを背中に感じながらプレーできる選手は幸せですし、だからこそ選手は明治でプレーをしたがるという魅力があります。ファンの方には助けられたと思います。明治のファンの方は、弱くても強くても変わらないでしょうから、引き続き学生たちに期待をしていただきたいと思います」
――4年間ありがとうございました。
[田中佑太]
◆田中 澄憲(たなか・きよのり)平10文卒
ヘッドコーチ1年間、監督として3年間指導。在学時には監督不在の中主将を務め、チームを大学選手権準優勝に導いた。卒業後はサントリーサンゴリアスに在籍。2005年には7人制日本代表に選出、15人制日本代表キャップは3。2010年度に現役引退し、12年度からサントリーサンゴリアスのチームディレクターに就任。18年度には監督就任1年目にして明大を22年ぶりの大学日本一に導いた
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