(18)「明治のプライドを取り戻せた」田中澄憲監督退任インタビュー①

2021.06.01

 明大を復活させた名将が退任した。5月31日をもって、田中澄憲監督(平10文卒)が退任。ヘッドコーチに就任した2018年度は全国大学選手権(以下、大学選手権)で準優勝。続く19年度には22年ぶりの優勝を成し遂げた。今回は偉業を果たした田中監督に明大での4年間を振り返っていただいた。6月1日より全3回で連載する(この取材は5月12日に行われたものです)

 

――退任が決まったのはいつ頃ですか。

 「結構前に決まっていて、サントリーから出向してきているので、期間が切れると必然的に退任になります。元々、3年という話があったのですが、3年終わった時に体制、後任のことも含めて、もう1年そこを決めながらやりたいということで、会社にやらせてもらったという形です。選手には2月の初めに伝えて、6月からは神鳥(裕之・平9営卒)さんが来られることは伝えました」

 

――シーズン途中での監督交代となりましたが、難しさはありますか。

 「こちら側の難しさはなくて、今までと何か変わったことをするわけではないです。ただ、シーズン途中に交代することで、一番大事なのは学生が動揺しないことです。急にやり方が変わってしまえば学生は混乱、動揺もします。キックオフミーティングを3月にやった時に、神鳥さんに来てもらって紹介をして、神鳥さんからは自分の方針、自分がどんなチームをつくりたいか、どんな人間なのかという話をしてくれとお願いしていました。自分が後任を指名するのに、考えが180度違う人、価値観が違う人は指名しないですし、後を任せられる確信があったのでバトンタッチするわけで、違いはありますが、大きな違いはないので、難しさはないです」

 

――後任の選出方法はどのようにされましたか。

 「一応、私が選出させてもらいました。一番はリコーで監督を長くやっていらっしゃいましたし、大学の監督業は組織をつくっていくことです。あとは学生の教育というか、一緒に寄り添って学生を成長させること、大学側との環境整備、入試から何からありますし、外部では高校との関係性を良くしていくなどやることが多く、バランス感覚が必要になります。ラグビーを教える、コーチングするだけでは無理だと思います。神鳥さんはラグビーコーチではなく、マネジメントタイプの監督なので向いているかなと思います。神鳥さんは私の一つ上です。現役の時というよりは、引退後にサントリーでリクルートやチームディレクターを経験して、その時に神鳥さんも同じような仕事をしていました。その後、監督やGM(ゼネラルマネジャー)をやられていて感覚的には似たところがあるのではと思いましたし、リクルートがかぶったときも、自分のチームのことを話していて、こういうこと大事だよねと話をしたり、価値観というか考え方が非常に近いかなと思います」

 

 

――監督に就任した際に目標はありましたか。

 「ヘッドコーチから入りましたが、自分は明確に持っていて、自分は明治大学のOBです。なぜ明治のラグビー部に入ったかというと明治が強かった、憧れたからです。90年代にいましたが、その当時が明治の黄金期でした。10年間で5回優勝、3回準優勝。ほぼ決勝戦にいるわけじゃないですか。そういうチームにいなくてはいけない、そういうチームだと思います。まずは日本一です。そして日本一を常に争い続けるチーム、日本一になるだけではなく、毎年優勝争いをするといわれるチームになること。また自立自走というか、自分たちで目標に向かって努力できる組織もそうですし、経営面でも自立自走していく。もちろん大学のサポートがなければ難しいですが、それだけではなく、どうやって決められた予算の中で有効に、効果的に運営費を使いながら運営してくか、その二つがメインです。一つは強いチームを作ること、もう一つは会社じゃないですが、部としての運営を改善していく。それができればトータルとしては全国のファン、OB、OGが喜んでくれます。入った時びっくりしたのが、学生が早明戦のチケットを学内販売していました。僕らのとき、そんなことをしなくても売れていたので、なんで学内販売するのと聞いたら、学生なんてほっといたら来るんじゃないのと言ったら、そうではなくてオールドファン、OB、OGは来ますけど、現役の学生は(明大ラグビー部が)強いと思っていないですと聞かされて、確かにと思いました。20年間勝っていなくて、僕らの時はラグビー部が強いのが当たり前で、現役学生が見に来ていました。なるほどと思って、現役学生に見にきてもらう応援してもらう。うちの大学といえばラグビーだと、シンボリックなものになるという達成したいなと思っていました」

 

――その目標は達成できましたか。

 「僕は自分の中ではある程度成果は出たと思います。4年間で決勝に行けなかったのは昨シーズンだけで、毎年日本一を争うようなチームになりましたし、対抗戦を連覇しています。今の学生はラグビー部を強いなと思ってくれていると思いますし、そういうところの総じていえば明治のプライドを取り戻せたかなと思います」

 

――後悔はありますか。

 「後悔というか、それは人間何でもあるじゃないですか。負けたらそう思いますし、連覇の懸かった2019年の時も、一番そう思いますし、盤石でしたから。決勝戦だけであのような形になってしまったので、もしかしたら戻れるならもっとやれることがあったのでは思います。昨年度はコロナというのがあって、みんな手探りで、ラグビーやれるだけで満足している部分もありました。コロナという状況でしたがもっと日本一にこだわってやれることがあったのではという後悔というよりかは次こういう経験があったときに生かせる経験です」

 

――まだ明大が変われる部分はありますか。

 「やはり永遠のテーマだと思います。難しいですが学生が主体的にできればいいと思います。しかし、主体的になった4年生が卒業して抜けてしまい、何も知らない高校生から上がってきた1年生が入ってきて、もうそれの繰り返しなので、やはり勝ってある程度これはできるからやめてしまう、任せてしまうのは良くないと感じました。トップリーグのようなプロ集団ではないので、学生スポーツの難しさ、よくウイニングカルチャーとか勝つ文化とかありますがそれは、毎年毎シーズン同じことの繰り返しだと思います。日本一になったから、何かできていると思って、何かを付け足すというのはできたと思ったことを失うことになるで、できたなと思うことは同じで、毎年、ベースはやらなければいけない。プラスで、毎年エッセンスというものを変えていかなければいけないです。その部分というのは今年また春につくり直しています」

 

◆田中 澄憲(たなか・きよのり)平10文卒

ヘッドコーチ1年間、監督として3年間指導。在学時には監督不在の中、主将を務め、チームを大学選手権準優勝に導いた。卒業後はサントリーサンゴリアスで活躍。日本代表キャップ数は3。