コロナで消えた「普通の引退」 大会中止が相次いだ今、最上級生の気持ちは/連載「real」第2回

 東京六大学野球の開幕を皮切りに、再開の一途をたどる大学スポーツ。その裏で、大会が開催されないまま4年生の引退を迎える競技もある。卓球部は今年、出場予定だった全ての学生大会が中止に。「今までで一番悔しい」(立藤颯馬主務・文4=松徳学院)。集大成を示す場もなく終わった最後の1年。甲子園中止に涙を流す高校球児が報道される一方で、大学スポーツの現状が注目されることは少ない。連載「real(リアル)」第2回は、コロナ禍で揺らいだ最上級生たちのラストイヤーに焦点を当てる。

引退の重み

 大学スポーツにおいて「引退」の持つ意味は、とても重い。学生の身分を卒業し、社会へ羽ばたく前の最後の1年。卒業後、競技を続ける人も一握り。仲間と全力を出し切り、花道を歩いて終えたいと誰しもが思う。

消えた1年

 「新型コロナウイルスの影響で、中止とします」。9月12日、六大学野球の再開に盛り上がるその裏で、全ての学生大会中止が突き付けられた――。

 リーグ戦通算 47 回の最多優勝記録を誇る明大卓球部。 その主将に今年、エースの龍崎東寅(商4=帝京)が就任した。「今までで一番濃い1年を過ごしたい」。目標は、ここ4年遠ざかっている主要3大会の3冠・グランドスラム。全日本選手権王者の宇田幸矢(商1=大原学園)ら新戦力も加入し、絶対の自信を持っていた。

 そんな中、緊急事態宣言が発令。5月の春季リーグ戦中止が決定し、部は一時解散に。全体練習がなくなるなど、活動にも制限が掛かった。「次いつ試合があるか分からない」。目標を失いながらも「インカレと秋季リーグ戦は開催されるんじゃないか」。 横目には他競技が次々と再開へ動き出している。卓球も開催できるはず。残る大会に望みを懸け、自主練習に励んだ。

 しかし、実際に開催が決まった大会は一部の選手に用意された個人戦のみ。4年間追い掛けたグランドスラム。最後はそれを、全員で目指す機会すら失った。「やり切れない」。確かにあった自信をぶつける場もない。こんな幕切れは、誰も望んでいなかった。同月、部では4年生の引退が決まった。

再会の影で

 「気を引き締め直して」。卒業まで残り数カ月。これから競技を続ける人がいれば、幕を下ろす人も。今は寮に残り後輩の成長を見守りながら、それぞれ新たな道への準備を始めている。未曽有の状況 下でひっそりと身を引いた最上級生たち。心残りは尽きない。だが過ぎ去った時間はもう、戻らない。

 最後の1年、仲間と共に戦う機会のないまま引退を迎えた卓球部。一方で、どの部もコロナ禍で少なくない影響を受けた。大歓声の中で。胴上げをして。本来ならあった「普通の引退」が失われた。大学スポーツの日常は取り戻されつつある。一方で、かけがえのない時間を奪われた人がいること。私たちは目をそらしてはいけない。

【福田夏希】

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