先陣切った六大学開幕 大学スポーツよ、立ち上がれ/連載『real』第1回

 東京六大学野球秋季リーグ戦が9月19日に開幕した。5000人の観客に加え、外野席に応援団の入場を認めるなど、コロナ禍の大学スポーツでは異例の規模での開催となった。

 外に目をやると、いまだ公式戦のめどが立たない競技もある。未曾有の状況で、大学スポーツを取り巻く環境はどのように変わっているのか。今号から始まる連載「real(リアル)」で、各部の選手と大学スポーツの今を追う。

日常

 劣勢で迎えた9回二死一塁、西川黎外野手(商1=履正社)の打球が左翼線を破ると、神宮球場はこの日一番の歓喜に包まれた。応援団はラッパを吹き鳴らし、スタンドは拍手で応えた。

 1-7。西川のタイムリーで一矢報いたが、結果は大敗。しかし、誰もが待ち望んだ「リアル」がそこにはあった。

 大会が開かれ、声援を受ける。例年なら「いつものこと」だ。そんな当たり前の日常が戻ってきたことに、選手たちは「感謝しかない」(清水風馬内野手・商4=常総学院)と、特別な思いを抱いている。

迷路

 「部で集まっての活動を原則禁止とする」。緊急事態宣言が出た4月、大学から体育会各部に活動自粛の要請が届いた。硬式野球部では寮生の半数以上が実家に戻り、残る選手も少人数での練習に限られた。

 昨年の同じ時期は、全日本選手権を制覇した歓喜に沸いていた頃。それが今ではシートノックすら満足に受けられない。「これからどうなってしまうのか、不安が強かった」。エースの入江大生投手(政経4=作新学院)は、コロナ禍で変わり果てた当時のチームを振り返る。

 あの感動をもう一度――。他競技で大会中止が相次ぐ中、六大学野球連盟は「勇気と元気を与えたい」(井上崇通六大学連盟理事長)との一念で春季リーグ戦開催への道を模索。イベント規制が緩和された8月に炎天下での開催を実現した。各校総当たりでの5戦ずつと、小規模の運営だったが、これが秋季の本格開催につながった。「1人では何もできないことを知った」(入江)。多くの協力なしに、日常が戻ることはなかった。

時間

 迷路を抜けて、六大学野球は今秋の開幕を迎えた。

 だが、他競技ではいまだに公式戦のめどが立たない部も多い。バレーボール部もその一つだ。春季、秋季リーグともに中止が決まり、11月末に予定されている全日本大学男子選手権の開催も危ぶまれる。それでも池田颯太主将(営4=松本国際)は「開催の可能性が残っている大会に向けてやるしかない」と練習に打ち込む。

 19日の六大学秋季リーグ開幕戦。点差が離れようとも、選手たちは声を張り続けた。「学生にしかつくれない、一瞬のドラマを感じた」。あるファンは試合後、こう話した。限りある4年間に、一つでも多く戦いの場を。残された時間は長くない。


【高野順平・小畑知輝】