(1)「(今年のチームは)全体的に競争しながら成長していく感覚がある」田中澄憲監督 新体制インタビュー

2020.04.01

 3年連続で日本一を争っている明大。ウイニングカルチャーが根付きつつある今、新スローガン〝One by One〟の下、目標とするジュニア選手権、対抗戦、大学選手権の3冠達成なるか。勝負の秋を占う挑戦の春、箸本龍雅主将(商4=東福岡)率いる新体制が始動する本連載では新幹部の今シーズンに懸ける意気込みを全8回にわたって紹介します。

第1回は田中澄憲監督のインタビューをお送りします。(取材は3月24日のものです)

 

※3月30日、関東ラグビー協会より「関東大学春季大会・オールスターゲームの中止決定」が発表されました。一部取材内容と齟齬(そご)がありますが、ご了承ください。

 

――今年度で監督就任3年目を迎えました。

 「1年目はラグビーと組織の2本の軸でやっていくことに必死だったのですが、そこで優勝という結果を出すことができました。昨年はさらに組織をどう作っていくか。将来に向けてどうやって盤石なチームを作るかというところを考えながらやりました。運営に力を入れたことで、資金繰りがすごく改善されましたし、ようやく盤石な組織ができつつあると感じています。今シーズンは自分たちの企業努力で使えるお金ができたので、それをどういう強化に使うのか。実際スポットではスピードコーチであったり、メディカルの部分でも新しいスタッフを迎えたりと組織という意味では強くなっていると思います」

 

――監督の立場で大切にされていることを教えてください。

 「やはりウイニングカルチャーを作ること、常に優勝争いをするチームでなければいけないということは第一にあります。それを通して学生が成長していくこと、もちろんゲームには23人しか出られませんから、試合に出られなくなったときに、チームが勝つために自分に何ができるかを考えられるような人に成長していくことが大切だと思います。もう一つは明治の今の状態をどうつなげていくかです。自分はずっと続けられる訳では無いので、誰かが(監督を)やった時にまた低迷するということはもうやってはいけないことだと思います。そのための組織づくり、あとはバトンを誰に渡すかも考えながらやっています」

 

――選手たちと話す時、心に置いていることはありますか。

 「当たり前ですが、相手の考えを聞き出すことは大事にしています。あとは本音を言うこと。良くないのに『お前いいよ』なんて言いません。悪かったら悪いと言います。学生は特に多いと思いますが、嫌われたくないから本音を言わない。本音でいえなかったら、本当の仲間にはなれないと思います。スタッフが成長してほしいと思うから、思っていることをぶつけますし、学生にも同じです。女の子を口説くときは褒めたりしますけど、またそれとは全然違います。一生付き合っていく仲間ですし、基本的におかしいと思ったことは必ず伝えるようにはしています」

 

――選手の話に関してもお聞かせください。今年度はリーダーに梅川太我(文4=石見智翠館)選手が選ばれました。

 「彼はムードメーカー的な存在ですね。苦しい状況でも1人ずっと声を出してチームを鼓舞してくれる選手です。本当に練習中でも声を張って頑張っています。チームには必要不可欠なキャラクターだと思います。(スクラムハーフとして)タックルがすごくいいですよね。泥臭く、体張って、まさにフランカーのようなプレーヤーです。課題のパススピードは本人も理解してずっと取り組んでいるので、徐々に速くなっていると思います。みんなから信頼されていて(昨年の安部選手のような)近いかもしれませんね。安部をもっと熱くしたような感じですかね」

 

――スクラムハーフに求めることを教えてください。

 「基本的なスキル、パスのスピード、キックの精度は必要です。あとはゲームを読める力、予測、さらに駆け引きができるプレーヤー、ずる賢さのような感覚だと思います。チームを勝たせるという思考、ハーフ団としては必要不可欠です」

 

――抜けたフロントローの穴に関してはどうお考えですか。

 「ここは本当に今年の明治の課題です。ポジティブに捉えれば、みんなにチャンスがあるということ。実際フロントローの選手たちはこの5週間、意欲的にレギュラーを取りにいくエネルギーがあったので、全体を底上げできる感じがあります。(新入生が絡むことも)あると思います。もちろん最初は高校生上がりなので、スクラムなど難しい部分もありますけれど、今年入ってきた子たちもスクラムさえ組めるようになれば、能力が高い選手が多いので、十分チャンスはあると思います。そこに刺激を受けた3、4年生も良い競争、自分がそこに出るという空気が出ているので。今まで隠れていた選手がポッと出てくる可能性は全然あると思います」

 

――リハビリ中の山沢京平(政経4=深谷)選手の穴はどのように埋めますか。

 「去年何試合か出た齊藤誉哉(文2=桐生一)。彼は経験を積むチャンスだと思います。1年生でも良い選手がいて、池戸将太郎(政経1=東海大相模)や伊藤耕太郎(商1=国学院栃木)、本職はセンターですが、スタンドオフもできる廣瀬雄也(商1=東福岡)。この間の土曜日に部内マッチをやったのですが、入りたてとは思えない良いパフォーマンスしていたので。逆に言えば、齊藤誉もプレッシャーは掛かっていると思いますね。(それぞれのプレースタイル)齊藤誉はキック飛距離に魅力があって、オーソドックスにゲームを作っていくタイプだと思います。池戸も少し似ています。伊藤はそれに加えてランニングスキルもある。テンポが少し違うというか、視野も広いです。廣瀬はパススピードが速いと思います。キックの飛距離もありますし、本当に楽しみです」

 

――今年度の4年生、チームの特徴を教えてください。

 「一言でいうとラグビー小僧。良い意味で純粋にラグビー好きが多い。1年生の頃から残って練習するような学年です。やんちゃな面もありますけど、本当に向上心がある学年だと思います。(今年のチームは)全体的に競争しながら成長していく感覚があります。去年は何となく入れ替わることが難しい状況でした。というのも優勝した次の年でベースができていた。だから次のステップから始める、例年とは異なる進め方をしました。そうすると、ベースができていないメンバーと、経験値があるメンバーで大きな差が生まれてしまい、なかなか入れ替わりができず、競争も生まれない。そういう意味で失敗したという反省があります。今年は現在5週間やりましたが、ベースの部分しかやっていません。ラグビーはほとんどやっていないですね。フィジカルとベースを徹底しました。だから一人一人の成長が大きくなっていくかなと。それがチームになった時、大きなチームになるのではというイメージがあります」

 

――最後に今年度の展望をお願いします。

 「目指すところは去年取れなかったチャンピオンシップ。今シーズンは目標として3冠(ジュニア選手権、対抗戦、大学選手権)を選手たちに共有しています。これによってウイニングカルチャーというものをしっかり定着させたいなと。去年で3年連続日本一を争っていること、これは誇っていいことだと思います。20年以上優勝していない、決勝戦を争っていないチームがまた3年連続で争うということは、とても評価できることですし、ウイニングカルチャーが芽生えてきたといってもいいと思います。あとはこれを定着させること。そのためには『常に勝つんだ』という気持ちが大切だと思います。今年の新入生が4年生になったら、ラグビー部がちょうど100周年。そういう意味でも記念する年に勝つことはうれしい。連覇というのは、今年終わってみて思いましたが、難しいです。帝京大の9連覇というのは奇跡(笑)。二度とあんなチームは生まれないと思います。だから連覇はしたいですけど、それよりも常にチャンピオンシップ、トップ4争いにいることの方が大事だと思います。本音は優勝したいですよ」

 

――ありがとうございました。

 

[髙智琉大朗]

 

◆田中 澄憲(たなか・きよのり)平10文卒

 今年度で監督就任3年目を迎えた。在学時には監督不在の中主将を務め、チームを大学選手権準優勝に導いた。卒業後はサントリー・サンゴリアスに入社。2005年には7人制日本代表に選出され、W杯にも出場。2010年度に現役引退し、12年度からサントリーのチームディレクターに就任。18年度には監督就任1年目にして明大を22年ぶりの大学日本一に導いた。


次回は箸本主将のインタビューをお送りします。お楽しみに!